アフリカから南米まで人類が移動したルートを逆歩きした「グレートジャーニー」で有名な冒険家で医師の関野吉晴氏が雑紙「地平線通信」に寄せた一文で、感染症に搾乳という文化が深く関わっていたことを知った。
今ほど搾乳が衛生的に管理されていなかった時代、ミルクには当然病原細菌や病原ウィルスが混じった。そうして動物しか罹らなかった病気が動物のミルクによって抗体の無い人間に感染する人獣共通
感染症が発生した。天然痘も麻疹、結核も牛の感染症であったという。
乳搾りの女性に天然痘に症状が似ている「牛痘」に罹患しても天然痘に罹る人が少ないことにジェンナー(1749-1823)は気づき、牛由来の種痘を利用した抗体で天然痘の予防手段が確立された歴史がピタリと重なった。
やがて牛、馬、羊、ヤク、トナカイのミルクを搾るヨーロッパ大陸の人間が様々な思惑で新大陸に渡り、南米へと下り感染症も広がった。グレートジャーニーと重なる。その過程で搾乳の文化が無く、抗体を持たない先住民が全滅していったという悲劇は現代のアマゾンの少数民族にも起きつつあるという。
新型コロナウィルス(COVID-19)の由来が未だに分かっていない。米中の外交の駆け引きにさえ使われる始末だ。ヨーロッパに比べてアジアの感染者数が極端に少ないことをノーベル賞の山中教授が地域特有の“ファクターX”があるのかもしれないと指摘している。ジェンナーの閃きを感じる。いつの日か解明されるのだろうか。
それにつけてもこの国の「専門家会議」がフェードアウトしてしまった。利用した政治が一番の悪だけれど、廃止が決まって記者会見とは無責任ではないか。深刻で放置できないことは進行中でもサイエンスの立場で強く物言うべきであった。
「新しい生活様式」などという“ポエム表現”が副座長から出たあたりから、やはりおかしいなとは思っていた。それより何より、助かった命があったかもしれない。