橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

皮むき間伐ツアーin宮城栗駒 その3 クレイジーが日本を救う さいかい産業古川さん編

2010-07-14 11:49:35 | 森から始まる未来
そういうわけで、その2からの続き。
新潟でペレットストーブを作っている会社・さいかい産業の古川正司さんが「クレイジー」だって話からです。


前回お話しした、栗駒木材さんの8000万円の借金話もクレイジーでかっこ良かったんですが、今回の古川さん(46歳)ヒストリー、さらにヤバいんですよ(笑)。

ちゃんと取材したわけじゃないんで、いろんな出来事の年代などは詳しく聞いていないのですが、そのへんはごかんべんを。
というわけで、古川さんヒストリーです。

古川さん、もともとは鳶職をやってたそうなんです。
まじめに技術向上に努力し、年を追うごとに自分の技は上って行ったそうです。なのに賃金はあがらない。下請けとして働いたその仕事のピンハネ分は東京の元請けへ行ってしまうわけだ。そんな状況が頭に来て辞めてしまったんだそうです。気持ち分かるわ~。ある意味、派遣切りの先を行ってたわけですよ古川さん。
ちなみに、古川さん、大学は農業大学に行ってたらしいんですが、これも教授と喧嘩して辞めちゃったそうです。喧嘩っ早いのか、筋を通す人なのか(その辺の事情は今回聞けなかったなあ)。

はたして、鳶職を辞めた古川さんは、森に出会うわけです。

山の管理不足で水害が起こり被害が出る。今度はそれにガマンがならず、一人里山を守るために間伐を始めました。そしてその間伐材を使ったペレットとペレットストーブの生産を思いつきます。
お金は無いからアイディアだけ持って出資のお願いに廻り、アイディアのお墨付きを求めて県知事の所にも行ったそうです。行動力あるなあ。
しかし、知事からは色よい返事がもらえず、がっかりしてたら、なんとなんと、
古川さんの話に共鳴した信用金庫の支店長が、ポンッと2億円貸してくれたのだそうです。志に2億円です!話出来過ぎ!

もうこの辺で、古川さんがただ者ではないことがお分かりでしょう。
とにかく、研究熱心で、一生懸命で、かつトイレの100wなんです(無駄に明るいってことらしいです:本人談)。こうして簡単に書くとただの思いつきだけで動いている人にも見えてしまいますが、ペレットストーブの設計や改良をする時の古川さんの根の詰めようは、これまた尋常じゃないようです(田中優さん談)。

そういう人には神様も手を差し伸べるんですよ。

で、事業が始まったわけですが、やはり当時1台40万円(今は24万です)のペレットストーブはそんなには売れない。
2億円貸してもらったといっても、返済額は月800万円です。
もうこれは、クレイジーの域でしょ。
でも、古川さん曰く、「ある時は焼きそば売って、月800万返したよ。」
って、あんた、こりゃまた失礼いたしましたって感じです。
借金で悩んでいる暇なんてないんですよ。かっちょいい!

とはいえ、やはり毎月800万の返済はなかなか続かないわけです。
そしたら、なんとなんと、今度は、地元の大きなアウトドアのメーカーの社長が、またまた古川さんの男気に共鳴し、その借金ごと会社を買ってくれたんですって。これで2億円はちゃら。そんで、田中優さんの未来バンクとも知り合い、ペレットストーブ事業は今に至っているわけです。
その後は、その環境に優しい事業が、地元メディアや報道ステーションなどにとりあげられ、じょじょにペレットストーブは知られ始め、古川さんは森林保全やバイオマス促進などのイベントにも引っ張りだこです。

今回のツアーでも、一番夜遅くまで、たき火の横で熱く語ってたのは古川さんでした(私は懇親会で話を聞いた後睡魔で撃沈。たき火を囲む会に参加しなかったのが今回最大悔やまれる事です)。
火をおこすのが好きだし、もっとみんな火を使う事をおぼえた方がいいと語ってた古川さん。
間伐材によるバイオマス燃料で森を守る仕組みづくりについては当然のごとくすばらしかったのですが、この、人間もっと火をちゃんと操ったほうがいいという話にものすごく共感しました。

キッチンではIHが普及し、暖房はエアコンで、最近の新しいマンションでは火を使う事が少なくなっています。集合住宅では火事にならないようなるべく火を使わない方が安全という消防の考えなのでしょう。

しかし、人間は火を操る事で、文明を進化させる事ができたことを考えれば、火の使い方を忘れる事は退化への一歩のようなきがしないでもありません。まあ少しぐらい退化したほうが、ほかの動植物に迷惑がかからないかもしれませんが、使い方を忘れるということは、暴走を許すことにもつながると思うのです。

それに、火をつける事って面白い。
どうやれば上手く着火するか、立ち消えしないか、置火を上手く利用できるか。ふーふー風を送ったり、枯れ葉の山に隙間を空けたりしてたき火を囲む時の人々の表情は、大人も子どもも関係なく楽しそうです。
危ないから使うのをやめましょうというのではなく、安全に使う能力を養う方がサバイバル能力が養われると思います。

だって、火を扱い倒している古川さんのサバイバル能力、2億円をもろともしないなんて、高すぎっ!

話はちょっと変わりますが、火を使うということを考えていて、枕草子のこの部分を思い出しました。

『冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず、
  霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、
火など急ぎおこして、炭もて渡るもいとつきづきし。
 昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、
   火桶の火も白き灰がちになりてわろし。』

寒~い朝に火を使うこの感じ、たまらなくいい感じです。
凛とした暖かさというのでしょうか。
なんか空気がきれいなあったかさを感じませんか。それに楽しそうだし。
炭が白い灰になって、「わろし」になってるのも、ゆるんだ空気の感じが出てますよねえ。
火を使う事は文明を操るだけでない、文化を生み出すことでもあるのだなあと感じさせてくれる名フレーズです。

そんな、森と火を操って、自分の信じる生き方をしている古川さんはもしかして文明と文化のマイスター?って褒め過ぎ??

古川さんのブログのタイトルの下には、「里山整備→木質ペレット→地産地消→地域雇用創出に取り組んでおります」と書かれています。
だめだめな政府なんかより100倍早く、マニフェストを実行しちゃってますよね。

栗駒木材さんも同様です。
両者とも、そもそもお金なんて持ってなくて、志と技術だけで、8000万や2億円という莫大な借金を抱える所から始めました。栗駒木材さんも会社とはいえ、規模は小さく、「天然住宅」と出会うまでは経営もかなり厳しかったといいます。

しかし、高い志があれば、これだけいろいろな人が手を差し伸べてくれ、人の輪ができて、仕事につながって行くのです。いや志だけじゃないですね。いい仕事を地道に続ける粘り強さと職人の技、そして誇りも、今回見せていただきました。

自分に言い訳しないで、仕事に誇りを持って取り組む事が現代の世の中ではいかに難しく、稀な事かを実感します。
私も、言い訳するのがいやで、前の仕事を辞めてしまいましたが、まだまだ新しい道で私の仕事はこれだと胸を張る事はできていません。

なんだか環境のことより、「働くとは何だ」みたいな話になっちゃいました。
もちろん森の保全の話も、両社の環境にいい商品についても、この場を使ってもっと詳しくお伝えしたいのだけれど、やはり、今回私の心に最も響いたのは、栗駒木材さんや古川さんの働く姿勢の潔さでした。

バスツアーの帰路、参加者みんなが感想を述べた時にも言ったことですが、

栗駒木材さんや古川さんの仕事こそが、クリエイティブな仕事だと思います。

これまで、就活やなんかで、「クリエイティブなことをやりたいです」なんて学生が言ったら、たいていマスコミや広告などメディア関係の仕事とかデザインの仕事とかを指していました。
でも、つい最近までマスコミの端っこの席にいた私には、その仕事の先にどんな日本の未来が広がっているのかが全く見えませんでした。
しかし、今回体験した栗駒木材さんの林業や、古川さんのペレットストーブと森林保全の仕事の向こうには、人々の生活する姿や、新しいインフラなど、確実に、あるべき21世紀の日本の姿が見える気がしました。
そして、こうした仕事をこそ、新しい時代のクリエイティブと言うんじゃないだろうかと思いました。

それに、参加者の感想には、『皮むき間伐する山男の姿に「惚れてまうやろー」』というものもありましたしね。
間伐ねるとん(古っ!)いや婚活、マジ有りかも。

ちなみに、これは皮むき間伐のとき紹介された栗駒木材の若者。
栗駒木材って、平均年齢なんと30歳なんだと!


ついでにこの写真も載っけよ。

<栗駒木材さんに積まれた木屑の山>ものすごくいい香りがしました。木材からとれたアロマは高く売れるという話も聞いた事があります。これも商売になるかな。


今回のツアーの内容については、天然住宅のブログや参加された方が書かれているようなので、ちょっと違う角度からの記事になりました。ツアーの内容について詳しく知りたい方はこちらのブログをご覧下さい。
天然住宅バンクのブログの皮むき間伐ツアー報告
参加者のブログ「木霊がいっぱいの森体験」

また、栗駒木材、さいかい産業、天然住宅の詳しい取り組みについては、
以下のそれぞれのサイトをご覧下さい。
栗駒木材のサイト
さいかい産業のサイト
天然住宅のサイト

メディアの仕事で先が見えないと書きはしましたが、とはいえ、メディアやデザインという仕事も世の中には必要。私も細々ながら、こうしてみなさんに見た事聞いた事をお伝えして糊口をしのげればと思っていますので、このブログもごひいきにお願いいたします。現在、読者倍増計画推進中です(笑)

そうだそうだ、今後は全国の手仕事も取材して紹介して行きたいと思っていますが、なんせ突発的に仕事を辞めちゃったので(参考)過去の記事「私ツイッターで仕事辞めました」資金がありません。古川さんや栗駒さんみたいに、神の救いの手が伸びてこないかなあ~と夢想する日々です。
何卒そちらのご協力もよろしくお願いいたします(笑)。

また、この皮むき間伐&ペレットストーブ&天然住宅な取り組みを、自分の地元の業者や行政にも勧めてみたい衝動にかられているところでもあります。
天然住宅から社会を変える30の方法

合同出版

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火のある暮らしのはじめ方―七輪、囲炉裏、ペレットストーブ、ピザ窯など

農山漁村文化協会

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皮むき間伐体験ツアーin宮城栗駒 その2 クレイジーが日本を救う~栗駒木材編

2010-07-14 08:26:27 | 森から始まる未来
皮むき間伐バスツアー その1で書いたように、「皮むき間伐」は低いコストで森を守れる凄い方法である上に、遊びとしてもとても面白い体験でした。「自然保護」なんて肩に力を入れなくても、低―いハードルで参加できるフレンドリーな森林保護活動だなあと、エコツアーには関心の無かった私も(森の保護には関心ありますよ)、こうして皆さんに紹介しています。

しかし、実は、これ以上に印象に残ったのが、今回皮むきを行ったエコラの森を管理している栗駒木材さんの活動と、新潟からツアーに参加してくださったペレットストーブを作っているさいかい産業の古川さんの話でした。

今回、栗駒木材さんには皮むき間伐でもお世話になりましたが、翌日には、自社の製材所の案内をしてくださいました。

<栗駒木材 大場さん>


また、さいかい産業の古川さんもペレットストーブにまつわる話を聞かせてくださったほか、夜の懇親会では、皿うどんなど自慢の手料理をふるまってくださいました。

<ペレットストーブの説明をする さいかい産業・古川正司さん>


(ツアーの内容を詳しく知りたい方は、こちらのサイトをどうぞ)

そんな2人(栗駒木材さんは会社ですが)の話がなぜ印象に残ったか・・。
それは、両者ともある意味常識はずれ。一言で言うとクレイジーだったからなんです。

しかし、私は、そんなクレイジーの中にこそ、行き詰まった今の日本を救うヒントが隠されていると確信しました。

では、一体、何がクレイジーなのか?

まずは、栗駒木材さんの話からします。
実は、今回伺ったエコラの森は、栗駒木材さんによってその命を救われました。
その経緯はこのページのstoryという項目に詳しく書かれていますが、簡単に説明します。

エコラの森では、バブルの頃リゾート開発が計画されていました。しかしバブルがはじけて計画は無くなり、債権者たちが森のお金になりそうな木を無秩序に伐採し、山は荒れ果てました。そんな山をどうにかせねばと、栗駒木材さんに買い取ってくれないかという話が来ますが、資金面での折り合いがつかず断念。
するとその後、産業廃棄物業者が、ゴミ捨て場にするためにこの森を買い取ろうとしたのだそうです。しかし、山が産廃で汚染されては、麓の自然にも影響が出ます。そこで栗駒木材さんは悩みに悩み抜いた末、8000万円銀行に借金し、この森を買い取ったんだそうです。8000万円の借金の年間の利子は栗駒木材の従業員2人分の賃金に等しかったと言います。
木が盗まれてしまった山なんてすぐにはお金になりませんから、この栗駒木材さんの行動は、ビジネスの観点から見たらクレイジー以外の何者でもありません。

しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、身を切って森を守ろうとしている栗駒木材さんに共鳴し、田中優さんらが主催する天然住宅バンクが、無利子で8000万円を貸してあげる事になりました。
これで、地域にも2人分の雇用が生まれます。

いい話じゃないですか。
私も、おもしろおかしくクレイジーなんて言葉を使っちゃいましたけど、“いわゆる常識”にあてはめてクレイジーな行動というのは概してまともなものです。

そんな栗駒木材さんは、天然住宅が作る化学物質の無い家のための木材を供給しています。

<天然住宅が使う建材を取り扱うのがこの木材工房>


森を守りながら人に優しい建材を提供してくださる栗駒木材さんに対し、「天然住宅」では、通常のホームメーカーが1軒の家を建てる際、製材所に支払う額よりずっと多い金額を支払っているそうです。
よくある建て売りなどだと木材費はおよそ100万円程度だそうですが、そこを500万円程払っているとか。でも、森を守りつつよい建材を提供するには、それが適正価格なのだと思います。
それに、この500万円の中には木材の加工賃も含まれています。通常は釘や金属のボルトでバンバン打ち付けるところを、この天然住宅ではできるだけ伝統的な木組みの工法で作ります。釘は建築基準法で定められた最低限。
そのため、建材にはあらかじめ凸出っ張りやそれと組み合わせる凹みが切り込まれたり、穴があけられ、目印がつけられています。


この技術代としておよそ100万円分があてられているそうです。
これが、日本の伝統的な工法を守る事にも貢献しているわけです。

そのほかにも、栗駒木材さんの丁寧な仕事は随所に。
上の写真の3枚目に映っている木は、少し色が黒っぽいですが、これは木酢液に浸されたものです。
内部の構造に使う木は、こうして木酢につけて防虫効果を高めます。

<木酢液につかった木材>


こちらは、木を乾燥させているところです。


家を建ててから木が反ったり狂ったりしないように、建材は芯からじっくりと、完全に乾かしたものが良いとされます。
栗駒木材では、おもに燻煙乾燥という方法で木を乾かしていますが、これは木の繊維をこわさず、細胞のひずみも均一化でき、木の反りや狂いを防げるそうです。
また、より低い温度でじっくり乾かし完全に水分を飛ばしきる低温乾燥炉というのも建設中でした。

しかし、これらは品質の良い建材ができるものの、時間もかかればコストもかかる乾燥法です。
やはり、いいものにはちゃんとお金を払う消費者の理解が必要です。

ところで栗駒木材は、こうした木の乾燥にも、自然エネルギーを使っています。
これは、乾燥炉に熱を送っているボイラーですが、燃料は木質ペレットです。
上からぶら下がっているのがペレットの入った袋。


製材所で使うペレットも実はここ栗駒木材の中で作られています。
これがペレット製造機。製材で出た木のくずを集めて機械に入れれば、ほらこの通り。かわいいペレットに早変わりです。



こうして製材に使う熱もバイオマスでまかなわれ、CO2排出削減にも貢献しています。

そして、一通り栗駒木材の見学が終わった所で、さいかい産業古川さんのペレットストーブの説明会が行わたわけですが、今回はここまでにして、次回、古川さんの素晴らしき「クレイジー」な素顔に迫ります。

次回 「皮むき間伐ツアーin宮城栗駒 その3 クレイジーが日本を救う さいかい産業・古川正司編」に続く