このブログの他に
「火鉢クラブ」というブログを立ち上げたことは以前お知らせしましたが、今回は、この
「火鉢クラブ」設立のきっかけについて書きたいと思います。(注:左サイドバーのブックマークに「火鉢クラブ」へのリンクがあります」上記文中のリンクでも飛べます)
火鉢クラブ創設の「理由」は、最初に「口上」で書きましたが、
直接のきっかけは、9月18日~20日の3日間、愛媛県の内子町で行われた「茶の湯炭の世界全国大会」という会に出席したことです。
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まさにタイトルの通り、全国から茶の湯炭を焼いている方々や森林関係者、茶道関係者、スローライフを提唱する作家さんらが集まり、茶の湯炭について語るシンポジウム&交流会です。最初のシンポジウムは、内子町が誇る木造の劇場「内子座」で行われました。
第一部では、鶴見武道愛媛大学農学部教授、稲本隆壽内子町長、ノンフィクション作家の島村菜津氏、茶人で芳心会を主宰する木村宗慎氏、炭焼きの立場から株式会社カーボテックの石橋昇代表取締役が参加し「茶の湯炭の世界の可能性」と題して意見の交換が行われました。
私も、この大会に出る前は、「茶の湯炭」というところに、実はそれほど意味は見いだしていませんでした。「炭焼き」がスローライフや森林保全につながることはよくわかります。また、人間活動の根源とも言うべき「火」を、生活の場、団欒の場に持ち込む「炭」という存在は、今後の社会の中で見直すべき存在だとも思っていましたが、「茶の湯炭」というところまではイメージしていませんでした。
しかし、大会に出て話を聞き、実際に炭を見て、「茶の湯炭」ってところに意味があったかもなあとあらためて思い直しました。
最も強いインパクトがあったのは、茶の湯炭の美しさです。
でも、その美しさを語る前に、「茶の湯炭」って何?という方もいらっしゃると思いますのでちょっと説明しておきます。その字の通り、茶の湯炭とは茶道で使う炭のことです。茶をいれるのですからお湯を沸かさないとだめですよね。茶道では、炭に火をつけるところからおもてなしは始まっていて、炭に火を熾すにも「炭手前」という方法があるんです。
炭の種類も、胴炭、丸ぎっちょ、割りぎっちょ、管炭、割り管炭、点炭、枝炭 とあります。
で、これらの炭を炉の中でうまい具合に組んで火をつけるわけです。その時の炭の組み方もあるんですが、そこまで説明すると長くなるので、その辺は割愛。簡単に言うと、見た目も美しく火がつきやすい組み方になっているのだと思います。
<茶の湯炭の作り出す空間>
というわけで、とにかくこの形を見てみてください。
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きれいでしょう。きれいというより、かっこいいと言うべきか。こうなるともう「文様」ですよね。これが茶の湯炭です。茶の湯炭はその模様から「菊炭」とも言われます。割れ目が放射状に綺麗に入っているのが良い茶炭とされます。
また、茶の湯炭はくぬぎの木で作られますが、木の皮が薄く残っていなければなりません。
ふつうの炭は、表面の皮が剥がれてつるつるしていますが、茶の湯炭では、このように、断面から見た時にも木の皮が見え、表面はクヌギの木の表面のごつごつした感じが残ってないといけないんだそうです。こんな感じですね。
茶の湯で拝見する物は、器や掛け軸、花だけだと思っていたら、炭の美しさをも愛でるのですね。その美しさは、火をつける前の黒い姿のみならず、火がついて赤々とした姿も鑑賞の対象であることは言うまでもありません。
さらに、炭が表現するのは見た目の美しさだけではありません。
炭の香り、ぱちぱちとはぜる音、「口上」の記事でも書いた、凛とした空気の中のポッとした暖かさ。多分、脱臭効果などもあるでしょう。そうした炭の効果全てが生み出す場の空気感も茶の湯では重要視されるのだと思います。
そんなことを考えていたら、あの「枕草子」の冬はつとめて・・・が浮かんできたというわけです。
(
「火鉢クラブ設立口上~火鉢っていいよ」を参照ください)
部屋の火鉢でのんびりゆるゆるが「ケの炭火」なのだとしたら、茶の湯の席で、寛ぎながらも背筋の伸びた空気を作り出すのが、茶の湯炭の「ハレの炭火」なんじゃないかなどとも考えました。
また、炭火というのは空気を支配するものなんだなあと考えたら、今の地球温暖化と森林の関係なども繋がってきて、炭の懐の深さに感慨を憶えずにはいられませんでした。
<炭職人は森の化学者・森の技術者>
感慨を憶えずにはいられなかったのは、炭そのものだけではありません。炭を焼いている職人の方たちの熱意には驚かせられました。良い炭を焼くための研究に余念が無い。話を聞いていると、炭焼き釜から昇る煙の微妙な色の違いを熱く語り、その時の化学反応を推測し、まるで化学者の集まりのようなのです。煤で真っ黒になりながら、日々実験する森の化学者です。
しかもその研究は、あくまでも炭の「歩留まり」を良くするためという地に足の着いた研究です。歩留まりとは、焼いた炭のうち、ちゃんと商品として出荷できるものの割合のこと。今の世の中で、炭焼きで暮らして行こうと思ったら、この「歩留まり」を上げて、付加価値の高い炭をなるべく多く出荷するしかありません。
そういった経済活動を行いながら、彼らがやっていることは、一方で森林保全の役割を担ってもいます。
これは、今回クヌギ林の見学に行ったときの写真です。
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良い炭を焼くために、クヌギ林の管理は欠かせない仕事です。まっすぐで傷の無い炭を焼くためには、幹にツルが巻き付いて跡がついたりしちゃあいけないんですよね。私たちも、ツルを切ったり下草狩りの体験をさせてもらいました。
炭焼き職人にとって、森林の整備は良い炭を焼くための準備なのだけれど、そうすることで、森林自体も元気になっていきます。よく見ると、ドングリがなっていました。このドングリが少ないことで、今、森から熊が里に下りてきて騒ぎになっているのです。
そうかんがえると、本当に「炭焼き」はすごい。一方では「茶の湯」という文化から、一方では自然保護、また一方では私たちの生活に「炭火」というくつろぎと楽しさを与えてくれる。
これは、守っていかねばならんと思いましたよ。
そして、私にできることは何かを考えた時、それは、「炭火」っていいよーとみんなに呼びかけることくらいかなあと思ったのです。実際私は火鉢を使っているし、常々その楽しさを伝えたいと思っておりました。
今回その炭の楽しさに「茶の湯」の要素も加わって、人をもてなす空間というものはどういうものかという新しい研究課題もできました。
火鉢と茶の湯は一見まったく違うけれど、シンポジウムで木村宗慎氏が語っていた、茶は形式ではないという話を支えに、炭とか火鉢とか茶とかくつろぎとかもてなしとか、美しいとか楽しいとか嬉しいとか気持ちいいとか何でもかんでも考えたいと思ったというのが火鉢クラブ設立の発端でありました。
<炭焼き名人>
そうそう、今回の大会の主催者を紹介するのを忘れていました。
そもそも私がなぜ、このようなマニアックな会を知ることになったかというと、東京新聞に「茶の湯炭全国大会」の実行委員長となっている内子の炭焼き名人大木一さんとその弟子山岡亨さんのことが紹介されていたからです。
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左が弟子の山岡亨さん 右が名人・大木一さん
山岡さんは、東京の歌舞伎座で大道具として働いていましたが、娘さんの喘息がきっかけで内子町に移住(もともと愛媛松山の出身だそうです)。たまたま出会った大木さんの炭焼きに魅せられ、この道に入ったのだそうです。現在、山岡さんの他にも、元競輪選手、元自衛隊員という方も弟子入りしていて、ここ内子町石畳では後継者不足の問題はないようです。
こちらは森を背景にした炭焼き窯
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短く切る前の炭
短く切った炭は、おばちゃんたちがチェックしながら箱に詰めていきます。
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この箱詰めも大切な作業。茶の湯炭の種類を熟知し、きちんと組み合わせてきれいに箱詰めするのは、熟練のいる仕事だとか。おばちゃんも炭焼き職人の一員なのです。
内子町大木さんの炭焼きについては、こちら
「愛炭企業組合」のホームページをご覧下さい。
<最後に>
私は、もうひとつ「出島DEJIMA2010」というブログを持っていて、
そこで「出島DEJIMAプロジェクト」というものを提示しています。
そのテーマは、地方の手仕事の再生、継承、雇用の拡大、文化の再興、森林の再生など。
まさにこの炭焼きの事例は、「出島DEJIMA」のテーマに合致します。
「火鉢クラブ」を入り口に、「出島DEJIMA」のコンセプトを広めていけたらと思います。
みなさんもご意見ご感想などお寄せください。よろしくおねがいします。
ブログ「出島DEJIMA2010」はこちら
「出島DEJIMA2010」