スーパーで大割引の牛肉に飛びついたが、すき焼きにするとスジだらけでのどを通らない。悔しくて思い出したのが、中国の故事「肯綮に中る(こうけいにあたる)」だ。「肯」は骨についた肉、「綮」は筋と肉のつながる部分のことで、包丁名人はそこをうまく切り分けるという。そう、何事も急所を探り当てないことには、問題を解決できない。岸田文雄政権が打ち出そうとしている経済対策がまさにそうである。
政策の目玉である所得税定額減税は、実施が来年6月であるなど、間の悪さはもちろんだが、もっと気がかりなのは物価高の核心部分に目を向けないことだ。
グラフは円の対ドル相場と消費者物価上昇率の推移で、物価は総合と食料品に分けている。一目瞭然、円安の進行とともに値上がりが激しいのは食料であり、9月には前年に比べて9%に達した。対照的に、すべての品目やサービスの価格は落ち着きを取り戻しつつあり、9月は3%である。円安は輸入コストを押し上げるが、中でも輸入原材料に頼る割合が高い食料品が突出するのは、小学生だってわかる。
本欄の前回ではそれがエンゲル係数の急上昇に反映していると述べた。一人当たり国内総生産(GDP)で、日本の3分の1程度の中国の係数は30~31%で今の日本とほぼ同水準だ。エンゲル係数の上昇は困窮化する家計の悲鳴そのものだ。従って、今、岸田政権がただちに実施すべきは食料品の消費税軽減税率8%をゼロにするのはまさに「肯綮に中る」。
現実に、自民党の若手議員らによる「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は10月早々にまとめた消費税減税案で食料品課税ゼロを盛り込んだが、岸田政権は一蹴した。背景には近い将来の消費税増税をもくろんでいる財務省の思惑がある。政府の政策が的外れだと、問題をさらにこじらせる。