“感染者の約3割が48時間以内に死亡”ひそかに急増する恐怖の感染症。「風邪だと思ったら…」生死の境をさまよった女性が告白
謎の痛みやめまい、ふらつき。年齢を重ねると増えるそれらは大病の前兆かもしれない。体が発するサインを見逃すことなく、原因を初期段階で摑むにはどうすればいいのか。各ジャンルの名医たちが「意外な前兆」とその対処法を伝授する!
“人食いバクテリア”と呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」が、ひそかに急増している。感染者の約3割が48時間以内に死亡。感染症の中でも特に高い致死率があり、病状が急速に悪化することが特徴だ。感染症の専門家である菊池賢氏が話す。
「初期症状としては脚に赤みや腫れ、アザが現れることが多いです。そこから高熱が出て、腫れなどが急激に拡大。やがて意識がボーッとして赤く腫れた脚が黒ずむ。この段階になるとかなり危険な状態。脚の切断や、最悪の場合には多臓器不全や敗血症などにより死に至ってしまう」
しかし、早期に人食いバクテリアだと診断されることは少なく、それがこの感染症の恐ろしいところだという。
「初期症状のサインは医師でも非常に見分けにくく、ほぼ打撲や風邪だと診断されます。気づくポイントとしては、高熱が出ることや、脚の腫れの進行が早いこと。朝には足先のみだった腫れが、昼には膝まで広がることもある。だから診察時にこれらに気づけるかが重要。そして異常を感じたら、救急車を呼ぶ判断ができるかが命の分かれ道です」
◆“人食いバクテリア”の感染源は…
では、この恐ろしい感染症はどこから感染するのか?
「水虫や足裏のひび割れ、靴ズレ、そして粘膜など感染経路はさまざまだといわれています。なので予防策としては、足を清潔に保つこと。足は手ほど頻繁に洗わないですし、小さな傷だと見逃しがち。水虫や傷口を常に確認し、適切に治療することが大事ですね」 また、原因菌である「A群溶血性レンサ球菌」は、実はありふれた菌だという。 「通称・溶連菌は通常は子供に咽頭炎など風邪に似た症状を引き起こします。ただ、溶連菌の中でも 『劇症型』と呼ばれるタイプは“毒素”の産生量が多いのです。通常のA群溶血性レンサ球菌は、菌の遺伝子にある毒素の生産を制御するスイッチがオフの状態になっていますが、劇症型の菌はこのスイッチが常にオンの状態で、大量の毒素を絶えず生成し続けています。なので感染すると、病状の進行が早いのです」 少しでも可能性を感じたら、すぐさま医師に聞いてみたほうがいいだろう。
「風邪だと思って一日様子を見ていたら、容体が急変して命の危機に直面しました」
そう語るのは5年前に“人食いバクテリア”で生死の境をさまよった佐藤恵さん(仮名・40代)。なんでも初期症状は風邪と診断されたのだとか。
「朝は何も症状はなく、昼すぎから熱が発症。インフルエンザだと思い医者の診察を受けたら結果は風邪ということで様子見でした。でも深夜には体温が39.6℃まで上昇。下痢もひどくなりトイレに行くのもやっと。翌朝、トイレの中で意識がなくなって……」
その後は家族に救急車を呼んでもらい病院へ。しかし、そこでも人食いバクテリアだと気づかれなかったようだ。
「最初は病室のベッドで寝かされて意識が朦朧としながら悶えていました。一人でトイレにも行けず、限界なので点滴を受けた。でも翌朝に朝食を食べた際に嘔吐し、容体が悪化。そこで人食いバクテリアだと診断されました」
◆病名が発覚したのは1日以上あと。ICUに運ばれ…
病名が発覚したのは、なんと1日以上が経過した後。佐藤さんはそのまま危篤状態に陥り、すぐICUに運ばれた。
ICUではほぼ意識もなく寝たきり。多臓器不全や敗血症性ショックも発症したらしく、抗生剤の投与に加え、透析や人工呼吸などの処置を受けました。悪いときで血圧が下は30台に下がり、10日間も生死の境をさまよいました」
◆「下痢が始まるだけであの時の恐怖が…」
治療により死線を乗り越えた後は一般病棟に移り3週間ほど安静にし、退院。仕事は1か月後に復帰。後遺症は?
「2年間は体力的なリハビリ期間でしたが、今は身体的な後遺症はありません。でも、パニック障害がまだ残っていて、下痢が始まるだけであの時の恐怖が蘇ってしまって……」
◆初期症状を見逃さないことが重要
そんな佐藤さんが伝えたいのは、初期症状を見逃さないことの重要性だ。
「手足の傷から菌が入ることが多いそうですが、私はけがも打撲の症状もなくて。風邪だと思って我慢せずに、何かおかしいと感じたら、すぐに救急車を呼んでください」
一見すると風邪のような初期症状が、いかに重大な疾患を示唆しているかを、改めて認識させてくれるものだ。
また、同様に近年増えているのが梅毒患者だ。新型コロナの影響で一時は減少したものの、’11年以降は患者報告数が増え続けている。
「私の勤務先が新宿・歌舞伎町に近いということもあり、ここ数年は非常に多くの患者さんが訪れます。特に若い女性です。患者さんが妊娠中で胎児まで感染しているケースもあり、社会問題として由々しき状況だと考えています」(菊池氏)
梅毒に感染すると、どのような初期症状があるのか。
「初期は陰部や口まわりに硬結という痛みのない硬いしこりができます。しかし、数週間で消えてしまうので、なかなか気がつかない人が多い。しかし、2か月くらいたつと今度は全身、特に手のひらや足の裏に『梅毒疹』と呼ばれる湿疹ができます。そこでようやく気づいて受診されるケースが多いですね」
◆「梅毒」が進行してしまうと…
とはいえ、そうした第2段階の症状もしばらくすると消えてしまうのだとか。
「自然治癒する方がいる一方で、そのまま梅毒が進行した場合、循環器梅毒や神経梅毒といって、心臓や脳が侵されます。きちんと初期段階で診断して、治療を始めるべきです。仮にリスクのある性行為をした後は、口まわりや陰茎を確認してください。予防策としては避妊具を使うこと。当たり前ですが、そういう意識のない患者が多いのです」
また、人食いバクテリアや梅毒に限らず、近年はさまざまな感染症が増加傾向にあるという。なぜなのか。
「恐らく、新型コロナの位置づけが5類になったことで感染症対策が緩んだことが影響しているのだと思います。今まで抑えられてきたさまざまな感染症が、それによって拡大傾向にあるのかと」
備えは怠ってはいけない。
【東京女子医科大学 菊池 賢氏】
1985年、信州大学医学部卒。順天堂大学などを経て現職。感染症の専門家として、現在メディア出演なども含め幅広く活躍中
取材・文/週刊SPA!編集部