【エルサレム=福島利之】パレスチナ自治区ガザに最近入った国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田(せいた)明宏・保健局長(63)が21日、読売新聞のオンライン取材に応じた。最南部ラファは壊滅的に破壊され、食料不足が深刻となっているガザ北部で支援物資の略奪を目の当たりにしたという。
清田氏は3月20日から4月10日までの約3週間、ガザに入った。4月8日に国連機関の車列でイスラエル軍の検問所を通って北部に入ると、1000人以上の若者らが無表情で待っていた。若者たちは車列の中にトラックを見つけ、荷台に飛び乗り略奪を始めた。
荷物は食料ではなく医薬品だったため、一部しか奪われなかったが、ラファでもトラックの略奪を目撃した。戦闘が始まる前、ガザの住民は穏やかで治安もよかった。清田氏は「建物ばかりでなく、人の心も崩壊してしまった」と大きな衝撃を受けた。
イスラエル軍はガザを南北に分断し、住民や支援物資を載せたトラックの自由な行き来を許していない。イスラエル当局は昨年10月の奇襲に職員の一部が加担したとしてUNRWA職員が北部に単独で入ることを許さず、清田氏は他の国連機関の職員と共に入った。
ガザを南北に貫く幹線道路のサラハディン通りは舗装された片側3車線の道路だったが、土ぼこりが舞うでこぼこ道となっていた。道の両側の建物は、ボロ布のように崩れていた。ガザ市出身の国連の現地職員は「ここまで破壊する必要があるのか」と憤りを隠せず、人道支援に長年従事してきた国連職員は「これほど短期間に破壊し尽くされた街を見たことがない」と漏らしたという。
武装勢力が陣取り、3月から4月にかけてイスラエル軍が激しく攻撃したガザ最大のシファ病院は、どこが入り口でどこが病棟なのか分からない状態だった。清田氏は「もはや病院ではない」と受け止めた。
ガザ市で開いているUNRWA唯一の健康センターは、医師、医療機器、薬が十分ではなく、重傷者を治療できない。蔓延(まんえん)する肝炎の薬を届けたが、量は十分ではないという。
やせ細っていた旧知の職員は「食料を手に入れるのが大変だ」と漏らした。街の食料価格は高騰し、卵1個が10シェケル(約400円)、トマトは1キロ100シェケル(約4000円)だった。
清田氏は、ガザ滞在中にラファを拠点に北部にも入り、医薬品を届けながら状況を調査した。UNRWAが拠点とするヨルダンに戻った清田氏は、「一日も早い停戦が必要。食料と医薬品を入れ続け、ガザの人々の生活を落ち着かせなくてはならない」と訴えた。
読売新聞