基本のレールセットが出来たので、いよいよゆるキャン車輌を走らせる事にした。嫁さんも家事や風呂をササッと済ませて、興味津々で横に座っていて「さあー、初めての運行ですよー、なんかワクワクする、嬉しくなるー」と、私の気持をそのまま代弁してくるのだった。
箱から取り出して、手のひらに置いてしばし見つめた。これの実車に何度も乗って、本当に楽しかったのを思い出しつつ、ラッピングデザインの細部まで精巧に再現された、造形クオリティも高い精密なNゲージ車輌のフォルムを端から端まで見渡した。本物と同じように前後のライトも光るのだなあ、と前照灯および尾灯ものぞきこんだ。確かにライト部がクリアパーツになっているのを、初めて知った。
説明書の通りに、リレーラーと呼ばれる青い長いスロープ状のプラ板の上に車輌を乗せて、ゆっくりとレールの上に移動させた。リレーラーの表面にレールにつながる溝がついていて、車輌の車輪がそれに沿ってレールにスムーズに乗せられるという仕組みである。
なるほど、直に置くと車輪がレールにしっかりと合わなかったり、ズレたりして、車輪やレールを痛めてしまうこともあるから、リレーラーで滑らせて確実に線路に「入線」させるわけなのだな、と納得した。嫁さんもリレーラーの何たるかを初めて知ったようで、リレーラー本体を手にとって「こんな便利なツールあるんですねー」と感心していた。
続いて説明書の通りにパワーユニットをセットし、D.C.フィーダーNと呼ばれるコードをパワーユニットからレールに接続した。これによって電気がレールに送られて、その電気をパワーユニットによって制御して車輌を走らせたり止めたりするわけである。
このパワーユニットは、トミックスから出ている各種の製品のなかでは、初心者向けの最もシンプルなタイプだそうである。川本氏によれば「走らせるだけの機能のみ」しかないそうである。本格的なパワーユニットになるとポイント切り替えスイッチなどが接続出来たり、音楽や走行音のサウンドが再現出来たり、実際の運転席のようなマスコンやブレーキレバーが付いたりするそうである。
私のはただ回るだけのレイアウトであるから、このパワーユニットで充分なのだろうが、仮に今後レールを追加してポイントも加えるのであれば、ポイント切り替えスイッチなどが接続出来るタイプのパワーユニットが必要になってくるだろう。そのときになったらまた考えよう、と思った。
パワーユニットの電源スイッチをオンにした。緑色のインジケーターランプがパッと点灯した。思わず、オーと声が出てしまったが、横の嫁さんも同じように「おおー」と呟いて口元に寄せた両手で小さくパチパチしていた。
続いて、スピードコントロールダイヤルをSTOPの位置からゆっくりと右に回した。これでレールに流れる電気の量および電圧を調節するわけであるが、川本氏に教わったところによれば、車輌を安定走行させるには直流12V程度の電圧が使われるそうだが、上図のパワーユニットは初心者向けの10Vクラスである。
本格的なパワーユニットでは、最大電圧が14Vから16Vくらいはある製品もあるそうだが、実際の運転では12Vの半分程度の電圧で十分な速度が出るから、10Vクラスでも充分なのだ、と教えてもらった。つまりは6Vから5Vぐらいで事足りるわけであるが、スピードコントロールダイヤルは半分ぐらいまで回せば良いのか、と考えてゆっくり回すと、半分もいかないうちにするするとゆるキャン車輌が動き出したのであった。
実に感動的な瞬間であった。本当にライトも点いていて、視点を低く床に寄せれば本物と大して変わらないであろうリアルさであった。何よりも動いているのが、実にグッとくる。川本氏があれだけ「走るんやぞ」と熱っぽく繰り返していた気持ちがよく分かった。嫁さんもテンションが上がって、スマホを近づけて撮影しはじめた。
「動きましたねー、走ってますねー」
「うん」
「動くのに、一年近くもずっと飾ったままでしたもんねー、川本さんが勿体無いと言うたのも、分かりますねー」
「うん・・・」
「鉄道模型って、走ってるのが当たり前なんですよねー」
「うん」
「私たちのプラモデルは、ガンプラも戦車も軍艦も、基本的に動かないですからね、動いてるのが新鮮に見えちゃいますー」
「同感やな・・・」
上図ではちょっと分かりづらいが、尾灯もちゃんと赤く点いていた。いったん止めてから、パワーユニットのディレクションスイッチを反対に入れて、車輌の走る向きを変えて走らせると、ちゃんとライトの前後関係も変わって後ろの尾灯が赤く光るのであった。ライトの配線とかはどういう構造になってるんだろう、と電気関係の知識は全く無い空っぽの頭を傾げたことであった。
嫁さんが「多分、レールに流れる電気のプラスマイナスが逆になると、ライトの前後関係も逆に切り替わるんでしょうね」と話していたが、その通りだな、と頷いた。
以前に川本氏に、「レールにプラスとマイナスの電流が流れて、その電気が車輌のモーターにいって回すのだが、このプラスとマイナスの電流を逆にすればモーターも逆に回るわけ。つまり車輌は反対方向へ進むわけ。同時にライトが点く車輌はライトも逆になるんや」と教わったのを思い出した。
それからは、しばらくの間、嫁さんとコーヒーを飲みつつ、走っているゆるキャン車輌をずっと眺めていた。何分経っても、全然見飽きないのであったが、つまりは楽しいわけであった。そのことに気付いた瞬間、私はある意味愕然とした思いにかられた。
どうやら、これは今後しばらくは楽しく続きそうだな、と悟ったのである。川本氏は「鉄に目覚めんだな」とか言っていたが、その通りになっていきつつあるようだ、と苦笑した。
嫁さんにそのことを言うと、「ええんじゃないですか?・・・私もこういうの嫌いじゃないし・・・。こういう模型にも、ある程度は熱中しといたほうが、後々のためになるかもしれませんよ?」と笑いつつ返してきたのだった。
後々のため、とはどういう意味かと問い返そうとして、止めた。何となくではあるが、Nゲージに少しだけハマってみることで、確かに見えてくるもの、学べる世界の広がりが、間違いなくあるんだろうな、と感じたからである。 (続く)