絶望的な診断結果を受けた翌日
あなたは隣町にあるシクラメン農家へ
連れていってとお願いされた
その日は9鉢
翌週に7鉢
そのほとんどを手渡しで届けた
お見舞いのお礼とお歳暮だと言ってはいたが
最後の贈り物を選ぶように
あげる人を思い浮かべながら花の色を選んでいた
僕には
長い間お付き合いしてくれてありがとう
この鉢を私だと思って大切に育ててねと
あなたの背中が言っているように思えた
ハイビスカス
絶望的な診断結果を受けた翌日
あなたは隣町にあるシクラメン農家へ
連れていってとお願いされた
その日は9鉢
翌週に7鉢
そのほとんどを手渡しで届けた
お見舞いのお礼とお歳暮だと言ってはいたが
最後の贈り物を選ぶように
あげる人を思い浮かべながら花の色を選んでいた
僕には
長い間お付き合いしてくれてありがとう
この鉢を私だと思って大切に育ててねと
あなたの背中が言っているように思えた
ハイビスカス
9月に第3クール
10月末には第4クールが終わった
これで打つ手は全て打った
あとは神様にお祈りするだけだ
主治医からは ガンが何年か小さいままの人もいれば、
すぐに再発する人もいる
いづれにせよ
同じ抗がん剤のおかわりは当面はない
期待と不安の中
11月には精密検査が行われた
食欲も戻り
足腰の痛みもあまりなく
絶好調だった
でも1週間後の結果は
最悪なものとなった
一時は小さくなってた肝臓のガンは再びおおきくなり
肺や脊髄、頭の骨にも転移が疑われた
これが
極めてたちの悪い神経内分泌ガンの本性なのだ
10万人に3~4人の希少ガン
あのアップルの故スティーブジョブズ氏も同じ病気だったとか
抗癌剤治療の第2クール終了時
主治医が言った一言
あなたの命はメチャクチャ長くはない
肝臓のガンが消滅することはないだろう
小さいままならラッキーだ
10月に入ると
近くのスーパーに買い物にも行けるようになり
外食にも出かけた
体重もガン発症前ちかくにまで戻ってきた
あなたの体調がどんどん良くなってきている一方
心の片隅には
絶えず嫌な予感があった
この頃から
あなたとよく口喧嘩をした
決して顔には出さなかったが
自分が死ぬことへの恐怖と絶望がどんなに
あなたを苦しめたことか
僕も
あなたがこの世からいなくなり
一人残されてしまう不安で
心が張り裂けそうな日々だった
お互いに思ってることは一緒なのに
何故か意見が違った
僕がもっと優しくなれたら
あなたに悲しい思いをさせずに済んだ
自分の器の小ささに後悔ばかりが残る
あと何年僕が生きるかはわからないが
残りの人生は
あなたへの謝罪の日々だ
ただ少しの救いがあるとすれば
あなたが感情をむきだしにて怒るのは
僕に対してだけだった
禊萩
7月の発症から
やられっ放しだった希少ガンに対して
まさに生死ギリギリで手に入れた抗がん剤は
見事なまでに効果を発揮した
痛み止めも飲んではいたが
背中や腰の痛みが少なくなり
食欲も出てきた
一時36キロまで減った体重も
8月末には40キロ台まで回復してた
8月末から9月にかけて
抗癌剤治療の第2クールも終わった
9月の中旬の精密検査では
食道ガンは消滅し
肝臓のガンも小さくなっていた
あと2回の抗がん剤治療に
大きな期待と希望が溢れてた
カンナ
1回目の抗がん剤治療が終わった8月の初旬
あなたはすぐに行動を起こした
1番目は次男にバリカンで頭を丸刈りにしてもらった
2ヶ月後あなたの妹とウイッグを作りに行って来た
でも、まともに被ったのは5~6回しかなかったかな
2番目はこれまでの手帳タイプから5years diaryに替えた
1ページ目は初めて地域の病院で検査を受けた日に遡っていた
せめてあと5年は生きたかったよね
3番目は旅たちの準備ノートを書き始めていた
いわゆるエンディングノート
僕が目にしたのは半年以上もあとのことだった
書かれていたのは
いっさいの延命治療を拒否し、自然に死をおだやかにむかえたい
死装束はクローゼットにあるネイビーのスーツ
葬儀は家族とごく親しい人だけで暖かく見送ってほしい
葬儀は質素に
葬儀の後連絡して欲しい人のリスト
自宅で死を迎えたいがパパの体が心配だから
ホスピスでもいい
祭壇にはたくさんの花を飾ってほしい 白とブルー系
子供3人の命名の理由
家族と過ごした心に残る想い出
など
紅葉葵
昨年の7月30日入院
31日から3日間抗がん剤投与
8月6日退院
退院3日後の9日 37℃超えの発熱で再入院
原因 白血球の約5割を占める好中球の減少
体内に侵入する細菌を攻撃する
抗生物質と好中球を増やす注射で改善し
14日あなたのお母さんの新盆に無事帰ってくることができた
主治医のギリギリの判断により手に入れた
希少ガンと戦う武器で
一時は8月を迎えられないとまで言われた
あなたの命をつなぐことができた
天にも昇る気持ちで感謝と喜びが溢れた
昨晩から注射した左の肩に痛みがでた
なんとなく微熱もありそうだ
早めに就寝したが
なんか2~3時間おきに目が覚める
朝起きて体温を測ると37.2℃
まあまあだね
左腕も痛みがすくなくなったかな
1人暮らしの人の気持ちとか不安を
考えたことは一度もなかった
あなたが一緒にいてくれたから
ここまで突っ張って生きてこれたんだ
いい歳して
そんなこともわからなかった自分が恥ずかしいよ
夏水仙
今日は僕の4回目の接種予定日だ
運動公園11時
1回目の時に腕を上げるとちょっと痛いのが2~3日
あとの2~3回はまったく副反応なし
今回も問題ないと思うけど
もうあなたはいない
熱が出たらどうしようなんて弱気になる
昨日は土用の丑の日だった
仏壇の中の皆さんと一緒に食べた
昨年の7月30日に入院
31日から抗がん剤治療が始まった
第1クールは3日間連続投与し
4週後に第2クールの3日間
同じサイクルを4回繰り返して終了となる
入院までのこの1週間は血液検査を3日に1回受け
肝臓の数値がこれ以上上がらないことをただ祈り続けた
ちょうど東京オリンピックが始まったが、夏の暑さも
全く記憶にない
生きたいと強く願うあなたの気力が勝り
なんとか肝臓の数値が抑えられ
ガンと戦う武器をやっと手に入れることができた
ガンの種類も神経内分泌癌と判明し
適した抗癌剤が投与された
宗ちゃん8日ぶりに無事退院できた
コロナ第7波が急拡大
とくに小児病床は緊急搬送受け入れ困難とか
あと1週間遅かったらと思うとぞっとする
それも
宗ちゃんのもってる強い運だ
もちろん
誰とも面会できなかった宗ちゃんのそばには
あなたが付き添ってたよね
あなたは
残された家族13人の守り神だ