通夜の席で坊主が詠む経にはなるほど相応の雰囲気があった。
モニターに写る故人にはなんの想いも寄せられないし、棺の人形に向けて語る言葉もない。どうせ恨み言は生きてるうちにすっかり伝えてしまったから。
ぬるいビールを煽る。宵の席を後にしたらなぜだか怒りが湧いた。不思議だったが腹立たしかった。融通の効かない父親よりも、孫を見世物のように言ってしまう母親よりも、何かにつけて誇示する叔父叔母よりも、ここにいない従姉弟よりも、世間話が上手なヤニ臭い再従兄よりも、話しをうまく流せない弟よりも。
つまらないプライドが傷つけられたような気になっている自分よりも。
話題にもならない故人よりも。
もっと違う何かが喉につっかえて苛立ちが募った。だけどそれが何かわからなかった。
夜を歩いた。きっと今宵は残された人たちのための席なのだ。頭ではわかっているつもりだった。だからもう一度念仏のように唱えた。
この月は残された人たちのための光なのだと。
そして僕は自分の今の人生に誇りをもっていて、きっと今も帰りを待ってくれている家族が大切で仕方ないのだと気づかされたのだった。
【おわり】