児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

ハッピーバースデイ

2019-06-27 | 物語 (電車で読める程度)
 先ほどの喧騒とはうってかわって、そこは静かだった。冷たい壁に身を預ける。窓に映る皺だらけの老人がこちらを見つめ返していた。しかし、それをただのつまらない自分だと認めるのは少し野暮なことだった。
 天国というのは生前、想像していたものよりもずっと面倒で、なにかと多忙で、そして何よりも馬鹿っぽかった。腹を抱えて笑ったこともあった。想像する天国とは違ったが、その一瞬は羽も生える夢心地で、頭のわっかは夜なにかと便利だった。常に隣には誰かがいた。そいつがそもそも何者だったのかはよくわからない。けれどもわるいやつはいなかった。だからだろう、今はこの1人の空間に満ちた静けさが、ふと自分を映す水面のように感じられた。
 窓の外、壮年の彼の向こう側には下界の森羅万象が見下ろせた。乗り込んだエレベーターはどうやらもう一度俺を現世のどこかに運んでくれるらしい。小さな灯りだった現世はやがて迫り来るにつれて、燃え盛る練獄の地であることが明らかとなった。
 


 どうせなら、次は誰かを精一杯愛してやりたい


窓辺の青年の先に迫り来る現世が垣間見えた。
 

 けれども、
少年はゆっくりと深く息を吐いた。




 本当はそれ以上に誰かに愛されたい


 次こそは誰かから一心に愛されたい




 地上に激突する間際、赤子の泣き声が大地に響きわたった。






【おわり】
 

袋のネズミ、謳う

2019-06-07 | 物語 (電車で読める程度)

どうしようもない、
僕の声は結局誰にも届かなかった

声を張り上げて歌った
けれども声はでなかった
からっぽの歌がただただ僕のなかで響いた

さよなら、さよなら

誰に別れを告げているんだろう

酩酊した頭で僕は闇雲にただ歌った

悲しいとおもったこと
うまくいかないこと

その全部だ


僕はこんなにも弱くて、ちっぽけで
きっとどこにも僕の居場所なんてないんだろう

悲しくて泣いた
悲しくて喚いた

もうどうだっていいやって
人から失望されても、見捨てられても
僕は僕にさよならとは言えなくて
でもそれは仕方のないことで
きっとこれからなにもかもうまくいかないんだっておもった
きっとこれからどうやったって袋小路なんだっておもった
僕は、
僕は、

だだの木偶で
ただの愚図で

それはわかりきっていたことだけど

でも生きていかなくちゃいけなくて

仕方がなくて
でも悔しくて悔しくて

どうして上手くできないんだろうねって悲しくて

わけがわからなかった

それはそれで仕方のないことなのかもしれなかった

明日晴れるといいね

どこからか声が聞こえた気がした

けれどもそれは風のざわめきだった


空耳だった


嫌な空耳だった


涙が滲んだ
そもそも見えていなかった



どうしようもないくらい虚しくって
でもそれはただの甘えで

けれども甘えたかった


さよなら

さよなら


何度も別れの言葉を唱える

それは誰かに対してじゃなかった

これから来るかもしれない失望の視線に
ただ、終わった世界の片隅で毛布にくるまってうずくまるような
そんな、
誰にでもなく、

失望される世界への
別れだった


さよなら

さよなら

心の奥底では僕は僕をやるしかないとわかっていても、それでも僕はちがう何かになってしまえばいいとおもっていた

僕は、僕だ
仕方のない

けれども、これからどうするんだろう

これから僕は何千回もこの弱さの前に立ち向かっていけるのだろうか

これは誰でもない僕の問題だ。
誰のせいでもないし、
誰かの何かでもない

僕の欠点が招いた現象だ
世界はなにも僕を待つ必要はない


僕はけれども、生きていかなくてはいけない
愚図で木偶な自分で渡り歩いていかなくちゃいけない

船はない、
オールは壊れてる、
穴の空いた木舟で
ぐるぐる ぐるぐる
おなじところを、回っている
きっと、
そのわっかはちいさくなっていって
袋小路にはまりこんでいくんだ

しかたない しかたない

どうしろっていうんだ

ちっともまっすぐ進まない舟に
僕はとうのむかしにあきらめているけれども
僕を取り巻く波風はそれを許してはくれない
次第に滝壺へと追いやられ
僕は真っ逆さまに奈落へと落っこちてしまうんだろう

それが悲しくてないた
それが嫌でないた
でも、本当に幼くて、馬鹿げてるけれども
どうしていいかわからなかった

どうしていいかわからなかった