児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

夕暮れの殺意

2021-07-26 | 物語 (電車で読める程度)
憎しみが湧きあがった。
弾け飛びそうな暴力性を堪えるため、奥歯を噛み締めた。

きっと、おかしくなるなるまでほんの僅かなんだろう。いつなにかの拍子に心も身体も裏返って、何もかもを認識できなくなってしまったら、そのまま風に任せて壊れるだけなんだろう。

大切な人を幸せにできるのは僕だけだ。
けれども、いま危うい橋を渡っているのに変わりはない。


【おわり】

近畿生存圏日記 7/4

2021-07-04 | 物語 (電車で読める程度)
 近畿生存圏として、繁栄するエリア3は旧世界の文明を僅かに維持しつつ、緩やかに衰退していた。もしエリア外の人類のうち「要安眠者」というまともな人間がまだいるのであれば、エリア3にいる生存者達が皆、等しく口を揃えて謳う馬鹿げたプロバガンダを聞けば呆れて二度寝を決め込むだろう。エリア3を敢えて説明するとすれば、「よく食べ、よく寝て、よく遊ぶ」という子ども地味た文言こそ真理であると、本気で言い出したイカれた保育園だと言う他ない。いずれも慢性的な食料不足かつ旧世界の文明を冬眠させた原因不明の集団不眠による現状を鑑みれば当然矛盾している。質の良い食事と睡眠、健全な生活によって真の安らぎを得るということらしいが、現状は味気ない人工栄養食と粗悪な睡眠導入剤、爛れた性欲を指す。要安眠者とは、エリア外にいる文明人のうち、エリア3の庇護によって真の安らぎを直ちに必要としている者とされている。それ以外は夢遊病に犯された獣であり、旧世界より引き継いだ懇切丁寧なカウンセリングと薬物治療によるプログラムによって安眠を施さなければならないが、真にやむを得ない場合はこの限りではないため、つまるところ排除されることが多い。

 そういうことをきちんと理解した時、私達は本当に幸運だったと身に染みて感じたのだった。あの日、エリア3の防衛陣地から程近くのコミュニティーで生まれた私達は、物心がつくかつかないかの年頃に、要安眠者としてエリア3に収容もとい保護された。当時エリア3の実権を握っていた左派政治によって行われた要安眠者の積極的保護政策により、私達はこの地で生きることもなった。それがよかったことなのか、今となってはわからないが、結果として寿命が延びたことは事実である。


遅刻の向こう側へ

2021-07-04 | 物語 (電車で読める程度)

胸が苦しい、心臓ががデタラメに暴れまわって、呼吸が……浅く、な、る。

ぜいぜいと息が上がる

これまでのことを走馬灯のように振り返っていた

あぁごめんなさい


バイト先の人たちひとりひとりの顔が浮かぶ

行かなくちゃ、行かなくちゃ

明日は今日の先にある
だから今日を越えなくちゃ明日はやってこない。


クビになったとしても、辞めるとしても、今日は、せめて今日だけは行かなくちゃ、逃げたことに、なによりそう、自分自身に逃げたことになる
ネットでたくさん検索した
無断欠勤って選択肢だって何度も頭をめぐった

でもだめなんだ、胃が昨日の晩御飯をフルリリースしそうになる
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ

身体中が嫌だと叫んでいる
わかってる!でもだまってろ!
息があがる
心臓の鼓動がアフリカの民族音楽を超越する。
呼吸はできず、コンガよりも早い鼓動の波に溺れていく。


たすけて


私よ、やめろ。やめるんだ!!


叫びそうになるメーデーを「行く」の発声でぬり潰す


一歩!そう、もう一歩だ!!

私はない胸を鷲掴みながらお馴染みのコンビニを左に曲がる


苦しい、苦しいよ!!!

脳はWARNINGを身体中に発令する。

いつのまにか頭上の雲は黒く重く私にのしかかっていた

大丈夫!あと一歩!

なんとか改札を抜けて、電車に乗り込む

電車のいいところは車などとはちがって私の意思とは関係なく目的地まで運んでくれるところだ!


「そんな、うそだ。」
駅の外は土砂降りの雨だった


私はこれまで生み育ててくれた両親のことをおもった

いい子だと何度もいってくれた祖母のことを思い出した

バイト先の人の険しい顔が脳裏によぎる



私は行かなくちゃ!

行かなくちゃいけないんだ!!


脳内会議は紛糾した

終わった後のご褒美派は議会から叩き出されたものの、外でデモを繰り広げていた


あぁ!どうにかなってしまいそうだ!!



この世の森羅万象が私の行く手を阻んでいた。


どうか、どうか…


もはや祈る思いで最初の半歩を踏み出す。
無機質なアスファルトを捉えたが、そこで全てが停止してしまいそうだった。

とにかく、行く!

心がギリギリとすりつぶされる様を横目に、無我夢中でもう一歩目を蹴り上げた。

春風が鼻腔をくすぐる。

【おわり】