児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

愚図

2022-11-28 | 物語 (電車で読める程度)
仕事してることが偉いわけじゃないやろうけど、会社の人に相談できないのはいやや。

別に妻は会社の同僚でも上司でもない。
具体的なしんどさを解決してくれるわけでもない。

けれども、やっぱり自分勝手なのかもしれない。悔しいけれど。

妻の育児のしんどさと比べれば俺なんてカスみたいなもんなんや

急に自分がくだらないやつに思えた。

俺なんか淀川に浮かぶポリ袋がお似合いや

遠くに水門が見えた。

固く閉ざされていた、下唇。


【おわり】

電車

2022-11-16 | 物語 (電車で読める程度)
立ち往生した電車のなか。
長女ほどの子どもちゃんが、
とてとてといつもと違う車内とかけていた。
隣に座る韓国人のお姉さん方は旅行客のようで、心斎橋の話の後に、ててててと走るその子を微笑ましくみていた。
運転手が、遠くの車両トラブルだといい、パンタグラフを下ろすので、空調が効かないことを頭を下げながら説明していた。
サングラスをかけたじいさんが文句を言っていた。

「立ってたら危ないやろ。」

厳しい声色で叱責したのは同じじいさんだった。
お母さんはもっと焦ったようすで子どもを注意するけどうまくいかない。
電車はようやく少し動いて、また線路のうえに止まった。その間も子どもはぐずりお母さんは絞り出すようにすわろうねと言い聞かせていた。それは子どもではなくこの場で黙っている大人たちに対してだ。
最寄り駅に何とかついて、それでもその子は泣いていていて、思わずいってしまった。
「お母さん、なにか手伝いましょうか、
子どもよりも泣きそうな顔のお母さんが「ベビーカーおさえといてください。」と言ってくれて、うれしくて「もちろん」と言ってしまった。
その子はベビーカーに座ると、さっきまでとはうってかわって落ち着いたので、
あまり気のきくことも思い付かなかったから「でんしゃ、うごいてよかったね。」「ばいばい」と手を降ると、遠慮がちにちいさく振り返してくれた。

それがうれしかった。

同時に二人のお世話をしてくれている妻をおもった。

とにかく電話してありがとうって伝えたかった。

【おわり】

皆既月食

2022-11-11 | 物語 (電車で読める程度)
とても惨めな気持ちになったとき、
どんなに愉快な娯楽も、
どんなに良質な睡眠も、
どんなに美味な食事も、

なにも慰めにはならない。

どこか遠くへいって、とても美しい景色のなかに溶けてしまいたい。

そうして、なにもない世界になって
なにもないものになりたい。

そうやって、一切合切とは無縁の
本当に必要なものだけをわずかに握りしめて生きていることを思い出したい。


【おわり】