児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

叫び

2015-06-19 | 物語 (電車で読める程度)


あぁ、いらない


いらないんだ!



なにも必要ない!



アタシにはこれだけで十分だ!








左手から血がでる。フレットが赤く染まる。Z字型のピックアップから伝えられた電気信号はライヴハウスなんかのアンプから重低音となって放たれる。塗装の剥げ落ちたサンバーストのプレベンションベースはアタシの手のひらでは押さえきれないほど弦幅があった。繰り返す轟音と軽やかなオクターヴ。これはアタシの声だ。か細いアタシの喉よりも哀叫ぶ歌に似た慟哭だ。アタシは四本の弦を叩きはじく。ステージライトが暑すぎて前髪がはりついた。アタシの意識はブライトなステップに煽られて、穢れきった黒から白色不透明なものへと洗練されていった。




もう、なにも持たなくていいんだ!



なにも抱え込まなくたっていいんだ!



くだらない生活、

しょーもない悩み、

大したことない自称“友達”共。


全部メロディの中に吐き捨ててやる。


くだんない。
つまんない。うっとうしい。

アタシにまとわりつく茫漠とした不安の全部を叩き壊してやる!


高校なんて、恋愛なんて、家族なんて、将来なんて、みんなみんな見せかけのハリボテだ!


どこにもリアルなんてない!





どこにも実感なんてない!





どこにもぬくもりなんてない…







あぁ、ねぇ誰か教えて!
アタシはいったいなんだったの?
なにもいらないアタシは誰にも必要とされない「いらない子」だったの?

アタシはいったい誰だったの?
どんな子であれば正解だったの?



あぁ、頭が痛い。
吐きそう。



要領よく生きる賢さなんてアタシは生憎持ち合わせていない!

だから、ゲロにまみれて世界に中指をたててやる!







そして、アタシとベース以外何も無くなってしまったその世界で思いっきり泣き歌ってやる!


轟音とオクターヴの輪廻を越えて



ガラガラの声で

可愛くない声で

誰にも媚びない声で











ドラムのクラッシュでギター&ベースの音色が止まり、パイプオルガンの旋律だけが梅田のヨドバシカメラで一万円もしたヘッドフォンから流れる。アルバムの最終トラックをリピートするか悩みながらアウトロの残響に両耳を委ねた。

最後の三小節目で「おねぇちゃん! お母さんが『晩ご飯まだか』 だってぇ!!」という弟の呼び声が部屋のドア越しに聞こえた気がした。



【おわり】


平行線の夢

2015-06-18 | 物語 (電車で読める程度)


夜の県道にいた。

片側2車線にも関わらず通る車はほとんどなく、たまにチラホラと大型トラックがすごいスピードで横切るくらいだった。一際明るい自販機には虫が群がり、僕らはそのすぐ脇のバラック小屋のそばで腰を降ろしていた。僕は甘いミルクティーを、彼女は無糖コーヒーをそれぞれ買って飲んだ。

「別れよう」彼女を表すアイコンの吹き出しには、ただそう一言書かれていた。信じられない思いで僕は慌てて返事を送り、とりあえずよく使う待ち合わせ場所に来て欲しいといった。
彼女の気持ちがどこまでなのか直接確かめたかったのだ。

「わかった」とだけ記された緑の吹き出しを信じて自転車を走らせた。

一番ベタベタだった頃は、毎朝ここで待ち合わせて、よく一緒に登校していた。二年後こうやって制服を着ていたらコスプレになるね、なんて話しもしていた。僕らの朝はここから始まり、僕らの関係は深夜のここで終わりそうだった。

しばらくして、上り線の方から彼女が歩いて来た。

静かな時間。
僕らはふたりならんで座り、ほとんど見えない月を探していた。






あのね、私 進学するの

だから もう一緒にはいられない



「進学」と「一緒にはいられない」の因果関係に僕は納得できなくて、
つい「どうして」の前に彼女の目をのぞきこんでしまった。それが彼女にとってホントはとっても苦手なことだと知っていたのに。



迷惑がかかる。



そう彼女はいう。


けど、それでも僕は腑に落ちなかった。だって僕は迷惑じゃないのに。



僕はこれからたくさん働いて稼ぐ。きっとはじめは貧乏かもしれないけれど、いつか家を出て彼女と一緒に暮らして、やがて子どもも生まれてそして…

僕は、自分が描いていた夢のような理想を膨らました。

シャボン玉のように溢れる思いをこらえながら夢の切れ端を彼女に渡した。



けれど、彼女は何も応えてはくれなかった。


カランと缶コーヒーが倒れる。彼女はもう飲み干してしまっていたようだ。


ゆっくりと彼女は口を開く










あなたの夢の中にわたしを閉じこめないで。









その時僕はようやく気がついた。












ホントは僕が迷惑だったってことに。





【おわり】

真っ白な残酷

2015-06-03 | 物語 (電車で読める程度)


静かなオフィスに軽やかなピアノのメロディーが鳴った。俺の携帯が「そろそろ出ないとマジで終電なくなるよコール」で教えてくれたのだ。おそるおそる手元の書類をチラ見し、やっぱりまだ半分も終わっていないことを再度確認した。終電よ、俺をおいて先にゆけ!そう心で叫んでデスクに向き直った。

時計の針は午前2時をまわり、俺はいっこうに減らない書類の束を眺めながら絶望に浸っていた。これ終わんねーよ。声に出して言っても笑ってくれる同僚はいない。そういえば、と手を止めて俺は昔の幼馴染みが先月結婚したことを思い出した。仕事一筋だった幼馴染みは晩婚ではあったがなんか優しそうな人と結ばれたようだった。いつだったか最後にやった中学の同窓会では、俺とアイツだけが独身で、俺達は一生このままなんだろうなって笑いながら酒を飲んでた。それが今ではついに俺だけになってしまった。

俺もいい年してこんなことを言うのもガキ臭いが、たぶんアイツは運命の人と出会ったんだろう。

「既婚者の約7割は30歳までに今のパートナーをみつけている」どこかのネットニュースでみた記事がよみがえった。そもそも34年という俺の人生の中で、「彼女」という存在は登場しなかった。おそらく縁が無かったんだと思う。たしかに中高と決して愛想のいいやつではなかった。大学もバイトばかりやって、あんまり交友関係も広くはなかった。当時はそれでいいと思っていたし、今もそれで間違いはなかったと思っている。

けれど顧みる家庭がないということは気楽な反面、何かが足りないような気がした。

今感じているもの足りなさを「結婚」の二文字がなにもかも解決してくれるような錯覚に陥る。


俺の手は完全に作業を中止し、書類とキーボードの代わりに財布と煙草をつかんで、オフィス横の休憩スペースへと足を向けた。



もし俺に「彼女」なんてふざけた存在があったとすれば、それは彼女ただ一人だっただろう。


それは実ることはなく、けれども枯れ落ちることもなく。とても不完全で曖昧な存在。



「あなたが幼馴染みで本当によかった。」


披露宴の後、真っ白なウェディングドレスに身を包んでその人はそう言った。







【おわり】