明日、どうしても学校に行きたくないから
世界を救おうとおもった。
青白い明朝で冴えた頭は
ボクを何かに駆り立てた。
それに、ボクがパジャマの袖で
鼻水をぬぐうこの瞬間も
世界は争いに明け暮れていた。
手始めにボクは世界中の涙を集めて、
兵器の全てを沈めた。
あまりのしょっぱさに瞬く間に武器は錆びた。
次に中毒性を引き起こす一切合切を
釜に詰め込んだ。
ぐつぐつと煮えたぎりる釜のなかに
飛び込もうとする人達を押し退けて、
ボクはこの世で最も不味い料理を作った。
結局みんなそれを食べてしまったけど、
二度と食べることはなかった。
そしてボクは世界中の人達に
最高級のお布団を配った。
人類はお昼寝をはじめた。
多くの会社は寝具会社に統合され、
やがて経済は冬眠した。
世界は静かに眠りについた。
蔦に覆われた団地の屋上で
特製のハンモックに揺られながら、
ボクはぼんやりと夢をみた。
それは学校に行きたくなかった
本当の理由だった。
ニュースで流れる様々な事件や差別、争いと
ボクが学校で目の当たりにするそれらは
あまりにも相似ていて愕然とした。
きっといつの時代もどこに行ったって
同じなんだとおもった。
現実ってやつはほんとは斑模様だ。
まるで迷彩柄だ。
どこへいっても不条理な色はあるし、
どんな絶望の中にも一瞬の穏やかな色味が
現れる。
でも、そんなことを考えるのは
すこぶる面倒だ。
難しそうなことはみんなヒーローと
悪者の物語だと思うことにした。
その方が昔見たアニメのように
夢中になれるからだ。
だからなんだろう、
白と黒でボクが勝手に世界を
縦縞にすることを
最後はみんな受け入れてしまった。
文明が深い寝息をたてる頃、
ボクもゆっくりと瞼を閉じた。
緑の斑模様を着た人も、
くたびれたスーツを着た人も、
おじいちゃんもおばあちゃんも
こどももあかちゃんも
おとこのひともおんなのひとも
おとこでもおんなでもないひとも、
みんな今はパジャマ姿で横たわっていた。
学校は今でも嫌だった。
でも全部が全部嫌でもなかった気もする。
それなりに仲の好かった子もいた気がするし、
好きな子もいた気がした。
理科室のメダカも、
美術室の絵の具のにおいも、
校庭の照り返す日差しも
嫌いじゃなかった気がした。
けれども大きな欠伸が
それらをぼんやりと曖昧にさせた。
結局ボクはそういう奴だった。
そういえば世界がおやすみのキスをする前、
悪の根源みたいなある国の政治家が
ボクに吐き捨てた言葉がふとよみがえった。
「お前は罪深い。
お前は世界を滅ぼしたことを
生涯後悔するし、
命をかけてその罪を
償わなくてはならない。」
ボクの心のどこかがズキリと痛んだ。
たしかにそうかもしれない。
ややこしいことをゆっくり考えようとして、
けれどもやっぱり眠気には勝てなかった。
月が映える夜だった。
朝を待たずにそのままボクは二度寝をした。
とても穏やかな最期だった。
【おわり】