児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

お誕生日の夜

2022-06-29 | 物語 (電車で読める程度)
うぎゃあ
大きな声がして少年は飛び上がりそうだった。慣れないことは何度くりかえしても慣れない。
また兄が「いらんこと」をしたんだ。
少年のお母さんは「いらんことする子はウチにはいらん。」といつも言っていた。
「いらんこと。」とは少年にはあまりよくわからなかったが、とにかくお母さんがしてほしくないことなんだとおもっていた。

学校に行きたくないとおもっていた。
いっても意味ないからだ。
だから算数なんかじゃなくて、仲直りの方法を知りたい。教えてくれるなら、今すぐにだってあの学校にいくのに。

なにか大きな音がして、少年はふと恐竜のマグカップを買ってもらったときのことを思い出したのだった。


【おわり】

歪み歪み

2022-06-04 | 物語 (電車で読める程度)

優しさも思いやりも、いらなければ暴力だ。むなしい。どうしてという言葉が次々と口の端で泡立った。

喜んでほしい、欲を言えば感謝されたいという下心は下品なのだろうか。

怒りがこみ上げる。身勝手だ。独りよがりだ。思い上がりだ。頭ではわかっているつもりなのに、どうしても止まらなかった。

不器用ながらのへたくそな真心が、犬も食えないゴミのように扱われたようで、悲しくて悔しくて惨めだった。

きっと自分自身の物事を捉える道理がすでに狂っていたんだろう。ピントの合わない眼鏡をかけて、野を走り回る幼子のように、最初から何もかも危険で全く不適切だったんだ。

はじめから、ずっと。



【おわり】




くじらのせなか

2022-06-03 | 物語 (電車で読める程度)
かんごくらしいよ。ここって。
ぼくらはわるい人だからここにいるんだ。
あーあ、たいくつ。はやくここからでたい。いらつく。きしょくわるい。

僕のとなりに座る彼は看守に気づかれないほどの小声で教えてくれた。もとい最後はひどい言葉を吐き捨てられて僕自身傷ついた。(彼が僕に言っている訳ではないとわかっていてもつらかった。)

視聴覚室へ向かう。僕らはまるで軍隊のように行進して、決められた席につく。
そこで、すこし前に流行ったアニメをみた。優等生の振る舞いを崩さないやつがボロボロと泣いていた。
そこまで感情が昂るわけではなかったがそこそこ面白くみていた。けれども他のやつになめられないようにすこしつまらなそうな表情に努めた。

ある日、昼食後の時間に年長者が突然話しかけてきた。肉料理のおかわりをこっそり僕が譲ったことに気づいたようで、少しばつがわるそうに受け取っていた。その埋め合わせだろうか。
ここがどこかしってるか。
かんごくなんでしょ?
ちがうよ。
じゃあどこ?
ここは船のなかなんだ。
なんで?
だってくもがずっと左に流れているし、たまに潮のにおいが風にのってくる。
そう?
僕には生き物の腐った臭いかとおもったけれど。年長者は随分と自信満々にいうものだからあまり口を挟めなかった。

もし、その話が本当なんだとすれば、僕らはいったいどこへ連れていかれるのだろう。窓のない部屋で外の波を感じようとしてみたけれど、よくわからなかった。
少なくとも、ここにいる理由を僕らは互いに知られてはいけないきまりだった。
僕らは互いに本当の名前さえ知らずに出会い、ある日突然いなくなる。知らない間に看守に呼ばれ、それから戻ってきたりそれっきりだったりする。

壁に囲まれた外は学校の運動場のようだった。