「ねぇ、ほら。」
「なに?」
でも、それはお母さんにはやっぱり見えなかったみたい。
雨上がりのとっても晴れの日、ウチは空に大きな龍をみた。
「大きな雲だねぇ。」
そんなことはわかってる
けど、ウチにはそれが龍にみえた。
昨日の授業で習った星座のはなしがふと頭によみがえる。オリオン座にかに座、子犬座や牡牛座。教科書に書かれているそれらは、どうみてもいろんなパーツが足りなくて、ウチは全然納得できなかった。それにちょっとでも街が明るければ星なんてほとんど見えない。せいぜい夏の大三角形くらいだ。
でも、雲は違う。天気のよい日にはいつもあるし、その時々でいろんなものがみつかるんだ。
目も鼻も口もある。大きな龍は「じゃあの。」と言ってマンションの向こう側に消えた。
「じゃあね。」
ウチは雲と雲を結んで空にいろんな生き物をみつける。それはたぶん、ウチにしかみつけられなくて、きっとウチにしかできないことなんだ。
けど、できればお母さんには教えてあげたい。だってこんなにもたくさんの動物がいるんだから!
昔、保育園へ行く途中でモクモクした雲からぴょこっと頭を出した鹿が見えた。嬉しくってすぐにお母さんに教えたけれど、お母さんは空を見渡しても「どこかわからないよ」と残念そうに笑うばかりだった。「ドンマイ」って鹿が言ってるみたいでちょっとムッとした。
でも、ホントはみつけた時の嬉しい気持ちをお母さんにも知ってほしかった。
だってお母さんは
いつも携帯ばかりみていて、
ウチはその顔がちょっとだけこわかったから。
それに難しい顔をするお母さんの肩ごしにはいつも真っ青な空に白くてモフモフした生き物たちが愉快にどんちゃん騒ぎをしていた。
だから
ねぇほらお母さん、
ウチたち ふたりっきりじゃないんだよ。
【おわり】