もうやめて
頭を掻きむしる彼女は僕にとって大切な人だった。
苛立った声と、何もかもを壊してしまいたい衝動にかられた。
こんなに、大切に思っているのに、
一生懸命やっているはずなのに、
これ以上になにが不満なんだって、
行き詰まった考えは身体中を暴れまわっていまにもぼくを突き破ってしまいそうだった。
彼女が泣き出したとき、ようやくつかまり立ちができた娘も泣き出した。
ふぇえって、あんまりにも悲しそうになくものだから慌てて抱き上げた。
どうして、こんなにも上手くいかないんだろう。きっとお互いひどく疲れているだけなんだ。頭ではわかっているのに、その先のことをおもうと余計に腹が立った。
けれども、いまこの状況が、なによりもよくないってことだけはわかる。
どうしろってんだ。
かわいいお洋服を着た娘を抱えなおす。
毎日洗濯されたお洋服。安かったのだと言って彼女が嬉しそうに買ってきてくれた日のことを思い出した。
暖かそうな羊さんのお洋服。まんまるのシルエットがかわいい緑のお洋服。足まですっぽり覆われる茶色いくまちゃんの服。
ごめんね、ごめんね。
どうしたらいいんだろう。
どうしたらよかったんだろう。
六畳の寝室をぐるぐるまわって、お祈りを捧げるように固く目をつむった。
どうか、どうか。
どうしていいかちっともわからないけれど
また仲直りできますように。
どんな魔法よりも、いまはただそれだけだった。
【おわり】