児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

オレンジの海をみせて

2015-04-18 | 物語 (電車で読める程度)


「おまたせ」 
って 言ってくれた
そんなことがたまらなく嬉しくて

つい、 「遅い」
って言ってしまった

少しずつ暗くなっていく空
開け放たれた窓から差す
薄いオレンジと緩やかな風が
放課後のあなたと
放課後のないわたしを包んでいった。


「先生いーひんねんな。」


その言葉が、私には意味深に聞こえた。


「今は、おらんよ。」


わたしはあくまで外に目をやった。
あなたはプリントとノートを数冊、そっと戸棚に置いた。


「…じゃあ、もうオレ帰るな。」


その言葉をわたしは否定した。


「なら、先生くるん待とか?」


それも違うと言った。

あなたはしばらく困った素振りをみせると、近くの丸椅子に座ってうつむいてしまった。





「学校、たのしい?」



なるべく、語気に気を付けて言ったはずだったのに、あなたはよけい黙りこんでしまった。 話題を変えよう。


「保健室ってさ、なんで全然プライバシーないんやろな。」


あなたが顔を上げる。


「ベットで休んでても、別の子が保健室の先生に悩みを相談したら 全部聞こえるし。」


あなたが心配そうな顔でいる。


やだ、そんなつもりで言ったわけじゃないのに


「でも、今はそんなことも気にならへんけどな。」


少し元気に言ったつもりなのに、あなたはまた下を向いてしまった。


「ごめん。」


そんな言葉があなたの口から零れる。次にそこから紡がれる言葉はただわたしを苦しめるだけの言葉だった。


「オレのせいで…」

「ねぇ、」


わたしは被せるように少し声を張って、あなたに一方的なお願いをする。

「今度は必ず、海に連れて行ってや。絶対やで。」


あなたは目を丸くして驚いていた。


「でも、」

「いいの、もう怒ってへんから。」


怪我なんて、時間が経てば治る。

けど、

生真面目なあなたはいつまでも自分を責め続けてしまうだろうから、


「ずっと前に教えてくれた、海に沈む夕日をわたしにもみせて。」



そして次こそ本当にそれをみることができたら、

その瞬間からあなたが昔よりもわたしを大切にしてくれている証明になるはずだから。


本当は内気なわたしを連れ出してくれた、あの日のようにもう一度。





あなたは何か決意したように、眉間にしわをよせながら


わかった、行こう。必ず、行こうな。
と約束してくれた。





いつの間にかオレンジは黒く、闇に溶けていた。







去り際に、
「手術、成功するよう祈ってる」
と言ってあなたは病室を出て行った。









バイクの音は聞こえなかった。










【おわり】

そわそわ

2015-04-17 | 日記


たぶん春のせいだと思うんですが

そわそわします(笑)



浮き足立ってる ともいうのかな。


あれしたい これしたい

なんて、駄々っ子のように言っても

体がついてこなかったり、そもそもちゃんと考えれてなかったり。


「大学は4年という時間を買ったようなものだから、自分でしっかり考えて使いなさい」

といってくれたお父さんは裏を返せば、卒業すればその時点でメリハリをつけなさいと言う意味でもあって、

なんだか自分の時間の使い方がヘタクソな気がして不安におもったりします。



しかもボクの場合、「自分がしたい」ことってヤツに素直じゃなくて、

なんだか気がつけば明後日の方向に爆走してたりします(笑)






うーん、

素直に 好きなことを

好きって言えたらいいのに。





チャンスに貪欲になるには

まずは自分に素直になるところかなと





新しく入学してきた後輩と話してて感じました。


なめらかな小石

2015-04-10 | 物語 (眠れない日に読める程度)


キチンとした部屋に私は招かれた。部屋の主は大学時代の友人だ。サークルは同じじゃなかったけれど、目指す道が同じだった私達はお互いに切磋琢磨し合う仲だった。だからふたりの夢が叶った時は抱き合って喜びを分かち合ったし、お互いの結婚式にも出席した。披露宴の挨拶で私の祝辞を彼女が冒頭からマネした時は本当に笑ってしまった。私にとっては親友と呼んでも差し支えない人である。

あれから長い長い月日が経って、私の息子が私と同じ夢を追う頃、友人が自宅でお茶しようと誘ってくれた。

部屋を通された私の最初の感想は「とても整理整頓された空間」だった。
いかにも料理が捗りそうなキッチンに、ゆったりとしたオフをラフなカンジで過ごせそうなリビング、揃えられた少しの靴が並ぶ玄関、不快のないトイレ、窓や置物etc…。それはなんだかとっても「ちゃんとした“おうち”」の模範解答であった。私はおそらくそれほど高価ではないであろう(けれど清潔な)椅子に友人と向き合う形で腰かけた。私は息子が小さかった頃、お友だちのおうちに遊びにいくときには「いってらっしゃい」と「気をつけるのよ」を言って、帰ってきたときは「おかえりなさい」と「どんなおうちだった?」と必ず聞いていた。

子どものつたない語彙力でもおうちの様子を聞けば大体その子・親のことはわかってしまう。だらしない、見栄っ張り、神経質、甲斐性なし…。私はそれをやんわりと息子に伝え、注意を促した。

だから私のこれまでの経験上からいえば、友人の自宅はキチンとした部屋で
、彼女はそれ相応の人格の持ち主だといえる。思えば私が夢の最前線から離脱してもなおこの子はあそこに残り続けていたのだ。


どうぞ、とすすめられて親戚から貰ったという紅茶をすする。


無難な味わいだ。


私達は当たり障りのない昔話に花を咲かせ、やがて枯れ落ちる頃にはお茶もなくなり、私も彼女の粗探しをやめていた。会話は凪いで、この部屋の掛け時計は秒針さえ聞こえないタイプなのだと今はじめて気がついた。




「ねぇ。」


しばらくしてから彼女が口をひらく。
私は悟られない程度に身構えて次の言葉を待った。


「…ずいぶん前に“自分磨き”なんてものが流行ったけど、結局わたしは磨いても磨いても誰かの宝石にはなれなかったみたい。」


空っぽのカップを手に取り、一瞬だけ中を覗きこんで そうね、と安易に相槌をうちそうになるのをこらえた。

きっとこれは私の役目なんだろう。
そのために彼女は私をここに呼んだんだ。


そして私は、目の前の彼女にたったひとつの不快感を言った。








「この部屋に あなたはいない。」







無難な部屋。
キチンとした部屋。
誰も不快にさせない部屋。




その中の どこにも 彼女を表すものがなかったのだ。





光沢はまばゆい。しかしその輝きはただ光を反射するばかりで、いくら磨いても突然発光しだしたりはしない。

きっと彼女はそれに気づかないまま、
自分を磨き過ぎたのだろう。誰にも悪く思われたくないという気持ちは、誰にとっても何も思われないことに近いのだ。でも、ならどうして私は…


「でも、ならどうしてアナタは今も幸せそうにしているの。」


彼女ははっきりとそういった。
それは私を妬むというよりも、心底わからないといったようだった。

「それは、」

彼女にいわせてみれば私なんて磨きの足りない人間なんだろう。たしかに私達が社会や世間で生活するためには、ザラザラとしていてはとっても生き辛い。けれど人間って奴は本来デコボコしているのだ。完璧じゃない。そして、夫はそんな不恰好な私をいいといってくれた。私にとって弱点や虚勢だと思っていたことは、彼には“私らしさ”にみえたようだった。

もちろん それは他の誰かにとっては不愉快なものだったかもしれないし、
彼にとっても私が理想の全てではなかったと思う。

けど、私は彼と結ばれた。

そして今も幸せだ。




私はもう一度言い直す。

「それは、…今のあなたに言っても伝わらないとおもう。」


「そっか。」

彼女はため息と一緒に吐き出した。そして2つの空っぽのカップに気がつくと お茶淹れてくるね といって席を立った。その時彼女の胸元で一瞬キラリと光ったものを私は見逃さなかった。

おそらくネックレスに吊るされたそれは、

















小粒のダイヤがはめられた指輪だった。















【おわり】

ウンコマンの「その後」

2015-04-01 | 物語 (電車で読める程度)


入学式は雨が降っていた。一昨日お母さんに買ってもらった上下セットで1万円のスーツを着て、ボクは慣れない道を歩いていた。
道にはボクと似たような全身黒一色の群れが、わらわらと門へと吸い込まれてゆく。その様はまるで蟻のようだった。皆いちようにわざとらしく黙り込んで、周囲の音や笑い声に耳をそば立てていた。

まるで 全部が嘘みたいだ。


入学式のしおりを配られても
学生証に自分の名前があっても

それらはボクがここに本当にいる理由にはならなかった。

おめでとう おめでとう
これから きみたちの あたらしい せいかつがはじまります

全部、他人事だ。

全部、絵空事だ。


全部、終わってしまったんだ。

自分のあらゆる可能性が閉じられてしまった。そんな気がして、いや、そんな「気」のせいでボクの首はゆるやかに締め付けられた。


10年前、ボクはウンコマンだった。
ボクが触れたものには全部、菌が繁殖するらしい。もちろんそれはごっこ遊びだ。トイレに顔を突っ込まれたりとか、そんなドラマかマンガみたいな大袈裟なやつじゃない。それは言ってしまえば鬼のかわらない鬼ごっこのようなもので、つまりはたっちしてもたっちしても、触れても、掴もうとしても、永遠と続くお遊びのようなものだ。

それから10年後、ボクの周りでウンコマンと呼ぶ人物はいない。
でも、ボクが周りからウンコマンと徐々に呼ばれなくなっていくにつれて悲しいかなボクは本当のウンコマンになっていってしまった。


クソッタレ。

人と話すことが苦手になったり、ちょっと授業がわからなくなったり、そんなことは些細なことで。
どうにもこうにもボクの性格そのものがねじまがってしまった。


そうして、いつの間にかウンコマンになっていたボクは何か全てがチャラになるような証が欲しかった。


でも、でもさぁ


ボクはガイダンスも うわの空で、
自分がここにいることを確かめようとした。



本当は こんなはずじゃなかったんだ。











窓の外に目をやると
桜蹴散らす雨が続いていた。

















それから ウンコマンは

××がきっかけで××や××と知り合い、

××で××な新しい環境の中で××と感じる。

そして××や××と一緒にいることで
自分も××だと考え、

案外自分は××なのかもしれないと思えるようになる。

そうしてようやくウンコマンは自分の××に気付き、

やがてウンコマンから××へと少しずつ変わってゆくのであった。


そんな嘘みたいな出来事を知る由なんて当時のボクにはなかったのだ。










4年後

桜舞い散る花吹雪の中にて。









【おわり】