目が覚めたわたしは、何かに取り付かれたように先程の夢の詳細を手近にあった紙に書き殴った。
夢の中でわたしは卒業式に向かっていた。
わたしがいた学校よりも、ずっと広い敷地の学校だ。けれどもわたしはその学校がわたしの通う学校だと確信していた。
式典が始まる前の猥雑な時間のなかで、相も変わらずわたしは独りぽつんとそこに立っていた。わたしはどうにかわたしの存在を認知してくれる人を探して、あるいはほんの少しの間でもおしゃべりに付き合ってくれる誰かを求めてただただ亡霊の如く広い構内をさまよっていた。
書棚が複雑に入り組んだ図書館ではたくさんの児童書や小説、ノンフィクションがきらびやかに納められており、学術的なものは少ないように思えた。
絵本棚の影から在学中あまり会いたくない人々がどっと現れ、わたしは慌てて回れ右をした。
たくさんの本はどれもわたしの興味をそそるものであったが如何せん人が多く、わたしは落ち着かないまま図書館を後にした。
式典が行われるホール前では、それを待つ人々でごった返しており、当然のようにわたしは未だ独りだった。
そこでわたしは目が覚める。
いわゆる最終学歴に相当する学校の卒業式をわたしは本来終えている。
しかし、わたしはその卒業式には出席できなかった。夢でみたその寂しさはあまりにも現実味を帯びていた。夢での卒業式は決して愉快な式典であったとは言いがたかったが、行く先もままならないままに卒業式なるものをはじめて欠席したわたしには新鮮だった。未来への目処が立った今、漸くわたし自身がささやかながら祝福してくれていたのだと感じた。そう誇示つけると大馬鹿者のように涙が溢れた。
しかし、まだわたしは卒業式に「向かっている」最中だ。幼い心からの卒業まではまだあと一歩なのだろう。
濡れた殴り書きの裏紙は朝の陽射しに照らされて、輝かしい何かにみえた。
【おわり】