児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

近畿生存圏日記 8/9

2024-08-09 | 物語 (電車で読める程度)
徒労感にうんざりした。
エリア3は異常気象から人類を保護するため、気象工学による人為的な気候調整により厚い雲に覆われていた。これは地球の温度を一定に保つためであるといわれているが本当のところはわからない。
ただ、この雲によって日中は憂鬱な灰色であり、夜は星もない抑圧的な闇を生み出していた。

夜の退屈な町並みを眺めていた。ロジョーは相変わらず戻ってこなかった。私は自動小銃を握り防衛線の哨戒業務に従事していた。

「こいつは使えないクズだ。」同僚の不眠者に自動小銃の扱いでやっかまれた日、私は以前ロジョーと寝た後の会話をふと思い出した。「ねぇ、なまえとかないの?」
それまで「おまえ」や「おい」「こいつ」としか呼ばれていなかったので、名乗る名がなかった。
「なまえをつけてやろう。」
ロジョーの口角がいたずらっぽく上がった。整った顔立ちに人間味が沸いた。
「ニコリ。」
「ニコリ?」
「うん。おまえのなまえ。笑ったらかわいいから。」
当然笑った記憶などなかった。ロジョーがいないところでも、私は笑うことなどない。無表情を装うというよりもなにも感じないのである。
「ニコリ?」
ロジョーが私の顔を覗き込むようにしてしゃがみこんだ。
「だいすきだよ」

そんな言葉がまやかしであることはよくわかっていた。
ロジョーがほしいのは以前私が気前よくくれてやったハノンなのである。
それをかみ砕き、夢現のまどろみを噛み締めるのだ。私はあくまでその手段であり、ロジョーの言葉もそのための手段なのである。


それでも私はロジョーを抱き寄せて涙をながしていた。そのすべてが他の誰でもない私自身、驚くべき反応だった。


ロジョーのいない部屋で世界から息を潜めるように目を閉じた。

ニコリ、だいすきだよ。

あの言葉をなんども耳に溶かしながら。

無題

2024-07-14 | 物語 (電車で読める程度)
枕元で最期に全部いってやった。

これまでの一切合切を

言い返せないことをいいことに

全部ぶちまけてやった。

努めて穏やかに、怒りを滲ませて
それでもどうか伝わりますようにと



つい笑ってしまうきみはよく勘違いされてしまうし、よう巻き込まれてしまうし、よくふざけるなと怒られてしまうという。

きみはきっと笑わせる側じゃなくて、わらってあげる側だから、笑ってほしい人のエールを送れたら素敵だねといってみた。
少し出任せだっただろうか。ここでは笑ってもなんでもいいよ。と窓のない部屋。かしこまるきみ、はじめて言われましたと言ったきみはわらってなかった。

数秒間のエールとはなんだろうかとおもった。お勧めだと教えてくれたあのバス停だろうか。コーヒーをすすって何者になれないと足掻く背中だろうか。あるいは賞をとって夢を叶えた友人だろうか。自分のことのように嬉しくて嬉しくて嬉しくて妬ましかったはずなのに、そのなかには何もはいっていなかったんだ。

それでも数秒間のエールになるのだろうか。


異国からやってきた知人は次の転職でわらしべ長者となりそうだった。

私の誇りとは保険証か?家族なのか?
ぐるぐると回っている。

楽しそうにおうまさんに乗るいーちゃんははじまるまでは少し不安そうで
それでもそばを過ぎる度に手をふってくれた。ボールプールに沈むおんちゃんは今日一番の笑顔だった。そんな情景を思えば明白だった。

【おわり】

添い寝と赤いイルカ

2024-07-14 | 物語 (電車で読める程度)
添い寝と赤いイルカ

刃物男の夢

100万円の賞金は儚いウソ

蜥蜴とエイの手真似

頭では爆発するほどわかっていることでもどうしてもできないというあなたは

あるいはやめてとはなせと叫ぶきみが

ベッドや埃や水鉄砲でじゃれる夕暮れ

暗い部屋でお茶を飲むきみが

あるいは最後にあなたがかけてくれた布団が

どうか、その先に繋がりますようにと願わずにはいられなかった。


【おわり】


パティシェ

2024-06-28 | 物語 (電車で読める程度)
いつになったら、オレは夢をかなえられるんだろうか。

賑わう劇場のなか、ゲームソフトを指でなぞった。形に残るものが羨ましい。
二人とも夢を叶えた。
オレも夢を叶えた。

ただ順番が違っただけなんだ。
次はオレだ。

嘯くわりに自分の夢を一番信じていないのはオレ自身だ。



死ぬ、らしい。寿命だ。大往生だ。
ようやく長い旅が終わるんだ。
解放されるかどうかは、しらん。
両手を拘束され管だらけになった様相に、
あるいはグループホームの食堂でひとりぼっちの背中を想像してもどうしたって「可哀想」とは思えなかったのは感性が乾いてしまったからなのだろうか。
この感受性こそ、過去大切にしたかったのではなかったか?

スマートな近所のお兄さん達は子供部屋おじさんで、正社員の先輩は熟年離婚して、勝ち組の常連さんは難病で介護を受けているらしい。

じゃあさ、かぁさん。オレは立派にやっているだろうか。これまでの何もかもが報われたと喜んでくれるだろうか。


オレだって運を手繰り寄せてここまできた。おかげさまだ。
なら新譜を貪りながらそれでも心が動ないかとじっと待っている。

こんなオレはなんなんだろうか。
毒入りのケーキもいまは作れる気がしない。


【おわり】