朝焼けの陽射しが彼の瞼を貫いた。夏がくたばり、秋の影がのびてくる頃。彼は彼の狭いワンルームの内側で横たわっていた。微睡みのなかで彼は、彼が手に入れて当然と思いこんでいた数々の夢を思い浮かべていた。畳が頬にめり込む。陽射しは暖かく、けれども体は恐ろしく寒かった。彼の体はもはや彼のものではなく、ただある木偶になっていた。思い浮かべた夢のなかの多くは、ごく平凡なものだった。おいしいものを食べて、あるがままにゆるりと過ごす。そんな生活だった。しかしそのどれもに一人の女性の姿があった。彼は再びきつく瞼をつむった。もう彼女はいない。彼はあったかもしれない未来を積み上げてはバラバラと自らの手で崩していった。何度も何度もその作業を繰り返すことで、彼自身絶望を乗り越えようとしているのかもしれない。しかし、その作業は彼にとってあまりにも過酷だった。
畳に一筋の露が消えた。
【おわり】