児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

なめらかな小石

2015-04-10 | 物語 (眠れない日に読める程度)


キチンとした部屋に私は招かれた。部屋の主は大学時代の友人だ。サークルは同じじゃなかったけれど、目指す道が同じだった私達はお互いに切磋琢磨し合う仲だった。だからふたりの夢が叶った時は抱き合って喜びを分かち合ったし、お互いの結婚式にも出席した。披露宴の挨拶で私の祝辞を彼女が冒頭からマネした時は本当に笑ってしまった。私にとっては親友と呼んでも差し支えない人である。

あれから長い長い月日が経って、私の息子が私と同じ夢を追う頃、友人が自宅でお茶しようと誘ってくれた。

部屋を通された私の最初の感想は「とても整理整頓された空間」だった。
いかにも料理が捗りそうなキッチンに、ゆったりとしたオフをラフなカンジで過ごせそうなリビング、揃えられた少しの靴が並ぶ玄関、不快のないトイレ、窓や置物etc…。それはなんだかとっても「ちゃんとした“おうち”」の模範解答であった。私はおそらくそれほど高価ではないであろう(けれど清潔な)椅子に友人と向き合う形で腰かけた。私は息子が小さかった頃、お友だちのおうちに遊びにいくときには「いってらっしゃい」と「気をつけるのよ」を言って、帰ってきたときは「おかえりなさい」と「どんなおうちだった?」と必ず聞いていた。

子どものつたない語彙力でもおうちの様子を聞けば大体その子・親のことはわかってしまう。だらしない、見栄っ張り、神経質、甲斐性なし…。私はそれをやんわりと息子に伝え、注意を促した。

だから私のこれまでの経験上からいえば、友人の自宅はキチンとした部屋で
、彼女はそれ相応の人格の持ち主だといえる。思えば私が夢の最前線から離脱してもなおこの子はあそこに残り続けていたのだ。


どうぞ、とすすめられて親戚から貰ったという紅茶をすする。


無難な味わいだ。


私達は当たり障りのない昔話に花を咲かせ、やがて枯れ落ちる頃にはお茶もなくなり、私も彼女の粗探しをやめていた。会話は凪いで、この部屋の掛け時計は秒針さえ聞こえないタイプなのだと今はじめて気がついた。




「ねぇ。」


しばらくしてから彼女が口をひらく。
私は悟られない程度に身構えて次の言葉を待った。


「…ずいぶん前に“自分磨き”なんてものが流行ったけど、結局わたしは磨いても磨いても誰かの宝石にはなれなかったみたい。」


空っぽのカップを手に取り、一瞬だけ中を覗きこんで そうね、と安易に相槌をうちそうになるのをこらえた。

きっとこれは私の役目なんだろう。
そのために彼女は私をここに呼んだんだ。


そして私は、目の前の彼女にたったひとつの不快感を言った。








「この部屋に あなたはいない。」







無難な部屋。
キチンとした部屋。
誰も不快にさせない部屋。




その中の どこにも 彼女を表すものがなかったのだ。





光沢はまばゆい。しかしその輝きはただ光を反射するばかりで、いくら磨いても突然発光しだしたりはしない。

きっと彼女はそれに気づかないまま、
自分を磨き過ぎたのだろう。誰にも悪く思われたくないという気持ちは、誰にとっても何も思われないことに近いのだ。でも、ならどうして私は…


「でも、ならどうしてアナタは今も幸せそうにしているの。」


彼女ははっきりとそういった。
それは私を妬むというよりも、心底わからないといったようだった。

「それは、」

彼女にいわせてみれば私なんて磨きの足りない人間なんだろう。たしかに私達が社会や世間で生活するためには、ザラザラとしていてはとっても生き辛い。けれど人間って奴は本来デコボコしているのだ。完璧じゃない。そして、夫はそんな不恰好な私をいいといってくれた。私にとって弱点や虚勢だと思っていたことは、彼には“私らしさ”にみえたようだった。

もちろん それは他の誰かにとっては不愉快なものだったかもしれないし、
彼にとっても私が理想の全てではなかったと思う。

けど、私は彼と結ばれた。

そして今も幸せだ。




私はもう一度言い直す。

「それは、…今のあなたに言っても伝わらないとおもう。」


「そっか。」

彼女はため息と一緒に吐き出した。そして2つの空っぽのカップに気がつくと お茶淹れてくるね といって席を立った。その時彼女の胸元で一瞬キラリと光ったものを私は見逃さなかった。

おそらくネックレスに吊るされたそれは、

















小粒のダイヤがはめられた指輪だった。















【おわり】

鼻×花

2015-02-14 | 物語 (眠れない日に読める程度)


まだまだ寒い2月の休日、私は娘と二人でだだっぴろい畑の畔にいた。春になったらここはレンゲソウの花が辺り一面を埋めつくす。茶色い畑はやがてどこまでも薄紅紫に染まるのだ。ちっちゃな手を握り、私たちは畦道を歩く。
「去年ここに来たこと、覚えてる?」
私はあえて間延びした声で娘に聞いてみた。いや、ホントは聞いてなかったのかもしれない。この鉛色の空に向かって言ったのかもしれない。娘は仏頂面で畔の雑草なんかを探し物でもあるかのようにキョロキョロと足元をみていた。握った右手をぶらぶらさせながら「ここでレンゲソウを摘んで、写真をとったんだよ。」とまたひとりごとのように呟いた。

悪いことは、また別の悪いことを運んでくる。よくないこと、上手くいかないこと、不快なことが次から次へと数珠繋ぎになって、私を縛りつける。外見だってそう。私が気にしている団子っ鼻は見事に娘に遺伝しまった。きっとこの子が大きくなった頃、また私と同じように悩むのだろう。そう考えると堪らなく自分が憎かった。
「外見より中身が肝心よ」と言ってくれた私の母は結局のところ、要領がよかっただけのように思える。私は母ほど生きることが得意じゃなかった。それは甘えだったのか、もっと向上心があれば解決できたことなのか、今となってはわからないし、正直わかりたくもなかった。でも、

私はこの子になんて言ってあげればいいんだろう?

いつの間にか近くの小石を蹴っていた。小石はしばらく真っ直ぐ転がってゆき、やがて何かにぶつかったのか変な方向に跳ね、溝に落ちてしまった。娘がその小石を追いかけて私の手を振りほどく。その小さな背中がもっと小さくみえて、つい立ち止まってしまった。所詮そういうことなのだ。

深呼吸すると湿った土の臭いがした。やっぱりカメラはもって来なくてよかったかもしれない。ちょうど畔道から外れたところに自動販売機をみつけて、吸い寄せられるようにそちらへと向かった。お茶でも買ってわけて飲もうか。小銭をじゃらじゃら入れてボタンを押す。ガコンと落ちてきたお茶をとりだしながら娘の名前を呼んだ。返事はない。一瞬のうちに私の胸のなかに冷たいものが流れ込んだ。


「ねぇねぇ、お母さん。」

私の真後ろに娘は立っていた。

「もう、驚かさないでッ!」

そう声に出す前に娘が何かを突きだしていた。

「これ、なに?」

かがんでみると、そこにはちぃさな花が握られていた。ちぃさな握りこぶしからぴょんっと飛び出たちぃさな花。まだ咲ききっていないのか半分花びらが閉じている。私の小指にも満たない小ささで、けれどとっても綺麗なコバルトブルーの花びらをもっていた。

「さぁ… なんて名前の花なんだろうね。 どこでみつけてきたの?」

すると、「そこ。」と言って私が歩いてきた道端を指した。近づいてみれば、同じ花がいくつもかたまって咲いていた。全く気づかなかった。むしろ、何度同じ道を通ったところで私ひとりでは気づかなかっただろう。それほど小さな花だった。娘の手が肩に触れそっと振り返ると

そこには天使がいた。

まんまるな瞳をお星さまにさせて
ニコニコと笑うわが子がいた。

「このお花、どんなにおいがするの?」

そう言って私の答えも聞かずにそっと目を閉じ花を鼻にあてる。

モノクロの空を背景にこの子と名も知れぬ花の青だけが色彩を放っていた。山からそよ風が流れ、まだ薄い幼子の髪をゆらした。

その一瞬は触れられないほど繊細で、神聖なものであるように感じた。

そこで、あるひとつの情景が甦る。それは去年の春。一面 薄紅紫の花畑のなか、イタズラっぽく笑いながらレンゲソウに鼻を近づけそっと蜜をかぐこの子の姿だった。私はそこでも同じものを感じた。そして、取り憑かれたように一心不乱でシャッターを切ったんだ。

それは、 あなたが映る世界を残しておきたくて。たった今、この一瞬にいつまでも居たくて。でも なぜか、とっても痛くて。私がもう少しあなたの鼻を高くして生んであげればよかったのに。そんなドロリとした感情を
ファインダー越しに悟られないよう、何度も何度もシャッターを切り続けたのだ。

なにもかも忘れていた。
あの時の私はもうこの一瞬は二度とやってこないと確信していた。
でも、ちがう。
あの一瞬はやってこなくても、また新しい一瞬がやってくる。
上手く言えないけど、それはきっと悲しいことではないはずなんだ。

なぜか、そう 今思えた。




「なにも におい しない。」

ぽいっと花をなげると娘は喉が渇いたのか、さっき買ったお茶をねだった。

「そろそろ、おうちに帰ろっか。」




そして、私たちは来た道を手をつないで帰ったのだった。








【おわり】

ダンゴムシのエドワード

2015-02-05 | 物語 (眠れない日に読める程度)


十二月の寒い公園で

ボクはリオンちゃんといっしょに

どろだんごを 作ってた

右の手も 左の手も

冷たくてイタかったけど、

リオンちゃんがたのしそうに

もにゃもにゃ

っとわらうから

ホントはちっともたのしくないけど

にこにこ

って がんばって

口をひっぱりわらうんだ

だって[がんばること]は

いいことだから

お母さんも昨日、


「いつもニコニコわらってなさいな。」


って言ってたから

だから、


[がんばってわらうこと]は

もっといいことなんだよ!




でも、どうしてだろう

リオンちゃんはすこしかなしそう

どうしてだろう なんでだろう




ボクはわからないから きいてみる


「どうして そんな顔するの。」


「カイくん、どろだんご作ってて ホントにたのしい?」


「どうして そんなこときくの。」


「カイくん、どろだんご作ってて あんまり たのしそうじゃなかったから。」


「え! どうして わかったの?」




「だってカイくん、がんばって
わらってたんだもん。」




でも 、どうしてだろう

リオンちゃんは どうして

わかったのかな

どうしてだろう なんでだろう

がんばることは いいこと なのに

わらっていることは いいこと なのに

がんばって わらっていることは

わるいこと なの?



ボクは あっ とおもいついて

きいてみる


「リオンちゃんも がんばって わらってた?」


すると リオンちゃんは

ムスッ と口をへの字にまげて


「もう カイくん なんて きらい。」


って言われちゃった

リオンちゃんは おこって せっかく

たくさん作った どろだんごを

右手のぐー で、

クシャ クシャ クシャ クシャッ


ボクのも ひとつ つぶされて、

ちょっと かなしく なったんだ

ちっとも たのしくなかった

どろだんご

だけど せっかく せっかく

せっかく なのに

せっかく たくさん 作ってたのに

せっかく たくさん 遊んでたのに


せっかく たくさん わらってくれた
のに




「もう 帰る。」


そういって リオンちゃんは

どろんこのまんま

おうちに かえっちゃった

ボクは もっっと かなしくなった

しんぞうが ぎゅうぅぅぅ って

しぼんでいくみたい

リオンちゃんの せなかが

みえなくなって

ようやく ボクは 泣く




「 そおおおおおおーんなに
泣かないでくれよぅぉーんッ!!!」


すっごく うるさい こえ

だれだろう まわりをみわたしても

だーれもいない


「ヘイヘイッ!! そっちじゃねーぜ
ベイビー しただしたした!」


した?

あぁ、下か

下をみると 一匹の ダンゴムシが

えらそうに ボクの 生きのこった

どろだんごの横で 立っていた


「おんなじ だんごなのに ボクの
どろだんごのほうが 大きいね。」


っていったら


「おいおいおいいい、ちっがーぅ
だんごは大きさじゃねぇ、
たましいだ。」


「でも、キミのほうが ちいさいよ。」


「からだは ちっこくても
たましいは でっかいんだよ!
それに《キミ》っていうな
オレの名前はエドワードだ。」


ボクは なんだか わらってしまった

すると エドワード はニシシッ と

たのしそうに


「そう、それだよッそれ!
その笑顔のほうが
キュートだぜオレてきに!」


とわらった

そこで ボクは ぴこーんときた


いまのは がんばらなくとも わらえた!


エドワードは ひざのてっぺんまで

ちょこちょこっと のぼり

ボクのおはなに ひとさしゆびを

つきたてた


「笑顔は人に元気を
わけてあげられるからなぁ!!!」


とっても 大きなこえで さけんだ

あわてて ボクは公園を みまわす


「ほかの人に 気づかれてもいいの?」


「いや、そいつは めちゃくちゃ
こまるけど…
まぁ、たまにはいいのさ
ダンゴムシだって
さけびたくなる日も あるのさ。」


「ねぇ 元気をあげられるって
ホント?」


「もちろんさ。 オレが うそついたことなんて一回でもあったか?」


「いま 出会ったばかりだし
そんなの しらないよ」


「一回もねーよ 安心しろ なにせオレは一番強いダンゴムシだからなッ。」


「そんなに すごいの?」


「ああ! 昨日はカエルを
二匹もたおしたんだ。」


「えー、その小ささで ムリだよ。
ウソくさー。」


「ウソじゃねーしッ。
あーあ、せっかく あの女の子と
仲なおりできる方法を
おしえてあげよーと おもったのにな あーあ、
ざんねん むねん また らいねん」


エドワードがボクのひざを
おりてしまう


「ホントにリオンちゃんと
仲なおりできるの?」


「オレの話を しんじてくれればね。」


「わかった、しんじるよ。
…ちょっとだけ。」


「ちょっとだけかよ!
でもまぁ、ありがとな。
ホントに しんじてくれたのは
アンタがはじめてだからさ…」


エドワードが おりるのを やめて

ボクに むきなおる


「そういや名前、なんて言うんだ?」


「ボクの名前は カイトだよ。」


「ふぅーん、カイトかぁ。
人間の名前なんて よくしらないけど
いい名前なんじゃないか?」


うでくみをするエドワードは

やっぱりちっちゃくて

みてて おもしろかった


「おいっ なんだよ その顔は! こっちは ほめてやってるのによぉー。」



「うん、ありがと。
ボクも名前 ほめられたのは
エドワードがはじめてだよ」


「はんっ! オレの名前のほうが
カッコイイけどな。なんたって
オレは一番強いダンゴムシ、
エドワード様だからなッ!!」


うでを ぴんと

空につきだすエドワードは

やっぱり みてて

おもしろくて

フフフと

またわらってしまった


「それじゃあ オレに ついてこい。」


おやゆびを ぐっと立てるエドワード


「どこにいくの?」


「いいから いいから、
カイトは オレについてくればいい。」


そう言って エドワードは

ブランコの横の 桜の木へと 歩いていく

でも ボクなら

三歩か 四歩で いけちゃう

エドワードは まだ 半分も 歩けてない

《一番強い》なんていっても

エドワードは やっぱり

ダンゴムシなんだ

歩くことが なんだか

とっても たいへんそう


「はこんで あげようか?
そのほうが はやいし、らくだよ。」


「カイト、オレは がんばって 歩きたいんだ。 オレのがんばりを ジャマしないでくれ。」


エドワードは きっぱりと 言う


でも、

せっかく ボクが 親切で

言ってあげたのに

ぜったい ボクが はこんだ ほうが

はやいのに

そんなに おこらなくたって

いいじゃないか


すると エドワードは


「なぁ、カイト。
オレは一番強いダンゴムシだが
歩くのはカイトよりも おそい。
でもオレはがんばって あの桜の木まで自分で行きたいんだ。だから… そこで見守っていてくれないか。」


すこし てれくさそうに言って

ボクを見上げた


「わかったよ、エドワード。」



エドワードは ゆっくり、

でもちゃんと

前に進んでいった

そしてついに やっと桜の木まで

たどりついた

エドワードは がんばったんだ!

自分の力で 歩ききったんだ!


「やったね、エドワード!!」


グッと 親指をたててみせると


「サンキュー、カイト。」


エドワードも グッと

両手の親指を

たててみせてきた

ボクらは アハハハハって

いっしょに わらった


そのとき とっても

あったかい きもちに

なったんだ

どうしてだろう

エドワードと お話しすると

12月なのに

こんなにも あったかい

どうしてなんだろう?


むこうのすべり台から 黒いかげが

ひぃらり ひらり

ひらひら ひらり

やってくる


「まずいぞ、ナンシーがきた!
カイト、オレをポケットの中に
かくしてくれ。」


エドワードが

言いおわらないうちに

黒いかげが

ボクらの前に あらわれる


「あららのら、
これはこれは おひさしぶりね。」

あらわれたのは 一匹の

まっ黒い ちょうちょさん だった


「うるさいっ あっちいけ
イジワルちょうちょ。」

エドワードは どなって

まるくなってしまった

ボクは どうしていいか

わからなくなって



エドワードのほうをみて

ちょうちょさんのほうをみて

また エドワードをみて

ちょうちょさんをみて

エドワードをみて

ちょうちょさんをみる前に


もう一回 エドワードのほうをみてから

ちょうちょさんをみて…



オロオロして

二匹をかわりばんこに みる

すると ちょうちょさんが

話しかけてきた


「こんにちは アナタ お名前は?」


「カイトです。ちょうちょさんは?」


「ナンシーよ。
よろしくねカイトくん。」


ナンシーさんは ほんのり

オトナっぽくて

星みたいな 点点のある

きれいな 羽をもっていた


「ところで、このウソつきダンゴムシとは いつから いっしょなの?」


「あ、ついさっきからだけど。
…ウソつきって どういうこと?」


「この子ね、自分が 地味だからって
いつも 強がってばかりいるの。
そのくせ ちょっとでもイヤなことがあったら 今みたいにすぐ まるくなっちゃうの、あきれちゃうよねぇ。」


そう言って ナンシーさんは

ケラケラ 笑顔で わらった

きらいな 笑顔だった

きらいな わらい

ボクも まるくなって

しまいたかった

エドワードは じっと

うごかないままだ








ウソつきは たしかに

よくないとおもう









けど……ッ







「ボクの友だちを いじわるに
わらわないでよ」






ナンシーさんは おどろいたように

目を まるくして ききかえす


「その子 ウソつきなのよ?」


「うん、でも いいんだっ
ボクがしんじているから!」


「でも ついさっき
会ったばかりなんでしょう?」


「かんけいないよ、がんばらなくても いっしょに わらいあって
あったかい きもちになれば
もう その日から友だちなんだッ!」


「そうだ!
カイトとオレは友だちなんだ!」


いつのまにか エドワードが

ボクのとなりに 立っていた

なみだと はな水で

顔を ぐちゃぐちゃにして

でも、それでも、

エラそうに

うでくみなんかして

ぜんぜん かっこよくなんて

なかったけど、

きっぱりと さけんだんだ




ボクと 友だちなんだ って





「あっちいけ オマエなんか
オレらの友だちじゃ ないやいッ!」


「あっそ、じゃあね。
弱虫泣き虫ダンゴムシさん」


ぷい っと ナンシーさんは

遠くの空へ いってしまった


「友だちって
言ってくれて うれしいよ。」


落ち葉で なみだを ぬぐいながら

エドワードは またわらった

今度は やさしい 笑顔 だった

なんだか ボクまで

てれくさくなっちゃって


「ボクも うれしかったよ」


なんて はずかしい本音も

かんたんに 言えちゃった


「そうだ カイト、
友だちになってくれた
おれいに いいものをあげるよ!
ちょっとまってて。」


エドワードも なにやら

ピコーンと ひらめいたようで

ボクが「べつに いらないよ?」って

言っても きかず

桜の木の あなの中へ

大急ぎで 入っていった

ブランコの後ろにある 時計をみると

もう 5時半だ

早く帰らないと、

また お母さんに しかられちゃう

どうしよう、

でも、エドワードが…




そのとき、



「おーぅい カイトォ
こっちだこっち! うえだようえうえ。」


上、をみると

ちょうど ボクの

おでこぐらいの 高さに

エドワードが ひょこりと

桜の木から 顔をのぞかせていた


「これを もらってほしい。」


そう言って エドワードが

とりだしたのは





まだ さいているはずのない

桜の花だった





「エドワード、
どうして これをもっているの?」


「へへへっ ナイショだよ。
このあなを のぞいてごらん。」


エドワードは 体をひっこめ

ボクは めぇいっぱい 背のびして

中をのぞく

すると そこには

あふれそうなほど 桜の花が

たくさん つまっていた

どこも かしこも

うすモモ色で いっぱいだ


「こんなに たくさん
どーして あるの?」


「じつはね 春になったら
かぞくみーんなで
この木に花を かざるんだ。」


「そうだったんだ。しらなかったよ」


「毎年 こっそり やるからな、
ホントは春にならないと
外に出しちゃいけないんだけど。
ひとつだけ、
とくべつにカイトに あげるよ!」


「ホントに そんな
大切なもの もらっていいの?」


「あぁ、ぜひ もらってくれ。
そしてその花を あの女の子に
わたしてあげな、
きっと 仲なおりできるはずさ。」


エドワードは ニコッとわらって


「それじゃ、そろそろ
オレは もっと桜の花を
作らなくちゃいけないし、
ここで帰るよ。

……じゃあな。」


右手をあげで あなを とじようとする

どうしよう、

エドワードが いってしまう


「まって エドワード!!」


エドワードの右手が とまる、

今だっ 言うなら 今しかない!


「ありがとぉーねー エドワード。」


すると エドワードも両手を

力いっぱいふって

はな水をすすりながら さけぶ





「こっちこそ、
ありがどぅなぁ カイトォ!」


「泣かないでよ おたがいさまだって」



















じゃあ、またね。























ボクらは もう1回だけ

わらいあって おわかれした
















ラン
ラン

ラン



ラララン


ラン、





帰り道は


夕日が キラキラで



桜の花を


そっと にぎった














リオンちゃんの おうちは

ボクの おとなりさんだ


きっと リオンちゃん

まだ おこってる だろうなぁ…


せっかく おうちの前まで きたのに

せっかく エドワードに

お花を もらったのに



せっかくだから

がんばってみよう!



ピィーーーーーーーーーーーン

ポォーーーーーーーーン


チャイムを ならす

ガチャリと ドアがあいて

リオンちゃんのお母さんが 出てきた


「まぁまぁ、
カイくんじゃないの どうしたの?」


「リオンちゃんを
よんでくれませんか?」


「もしかして 今日、
ケンカでもしちゃった?
だとしたら ごめんなさいね。
あの子 すこしおこりっぽいから
……とりあえず よんでくるわね。」


そう言うと

リオンちゃんのお母さんは

おうちの中に もどっていった

ドアのむこうので「リオンー、 カイトくんきてるわよぉ。」と

かすかに きこえる


しばらくして

リオンちゃんが ドアをあけた

やっぱり ほっぺを

ぷっくり ふくらまし、

ボクを いかくしている

リオンちゃんと

目があって

体ぜんぶが

カチコチに

かたまっちゃった




でも、



このまま きらわれたまんまで

いいのか、ボク?


このまま いじわるカイトのままで

いいのか、ボク?


それは イヤだよ…


……あやまろう、それが さいしょだっ


「リオンちゃん。」


「なによ。」


また 口をへの字にしてる

がんばれボク!


「あのね さっきは ごめん。
どろだんご遊びは、
ホントは つまんなかったけど
リオンちゃんと遊べなくなるのは
もぉっっっと つまんないんだ。
だから これあげるから
ボクとまた遊んでほしいんだ。」


しんぞうは

どっくんどっくん

してたけど、

どうにか 左手のぐーを

つきだした

リオンちゃんは ふしぎそうに

すべすべの 右手を

さしだした



そっと 手と手が かさなって



右手に さいたのは 桜の花


「わぁぁあーっ すっごい!
カイくん、マジシャンみたーい!!」


リオンちゃんは

もにゃもにゃ

って わらった

ボクは この笑顔が

一番すきだった









「また、遊ぼーね、カイくん。」
















エドワード、キミはけっして

ウソつきなんかじゃないよ

だって

ホントに ホンモノの ウソつきなら



ボクは この子と

ゆびきりげんまん なんて

してないだろう?
















《おわり》