入学式は雨が降っていた。一昨日お母さんに買ってもらった上下セットで1万円のスーツを着て、ボクは慣れない道を歩いていた。
道にはボクと似たような全身黒一色の群れが、わらわらと門へと吸い込まれてゆく。その様はまるで蟻のようだった。皆いちようにわざとらしく黙り込んで、周囲の音や笑い声に耳をそば立てていた。
まるで 全部が嘘みたいだ。
入学式のしおりを配られても
学生証に自分の名前があっても
それらはボクがここに本当にいる理由にはならなかった。
おめでとう おめでとう
これから きみたちの あたらしい せいかつがはじまります
全部、他人事だ。
全部、絵空事だ。
全部、終わってしまったんだ。
自分のあらゆる可能性が閉じられてしまった。そんな気がして、いや、そんな「気」のせいでボクの首はゆるやかに締め付けられた。
10年前、ボクはウンコマンだった。
ボクが触れたものには全部、菌が繁殖するらしい。もちろんそれはごっこ遊びだ。トイレに顔を突っ込まれたりとか、そんなドラマかマンガみたいな大袈裟なやつじゃない。それは言ってしまえば鬼のかわらない鬼ごっこのようなもので、つまりはたっちしてもたっちしても、触れても、掴もうとしても、永遠と続くお遊びのようなものだ。
それから10年後、ボクの周りでウンコマンと呼ぶ人物はいない。
でも、ボクが周りからウンコマンと徐々に呼ばれなくなっていくにつれて悲しいかなボクは本当のウンコマンになっていってしまった。
クソッタレ。
人と話すことが苦手になったり、ちょっと授業がわからなくなったり、そんなことは些細なことで。
どうにもこうにもボクの性格そのものがねじまがってしまった。
そうして、いつの間にかウンコマンになっていたボクは何か全てがチャラになるような証が欲しかった。
でも、でもさぁ
ボクはガイダンスも うわの空で、
自分がここにいることを確かめようとした。
本当は こんなはずじゃなかったんだ。
窓の外に目をやると
桜蹴散らす雨が続いていた。
それから ウンコマンは
××がきっかけで××や××と知り合い、
××で××な新しい環境の中で××と感じる。
そして××や××と一緒にいることで
自分も××だと考え、
案外自分は××なのかもしれないと思えるようになる。
そうしてようやくウンコマンは自分の××に気付き、
やがてウンコマンから××へと少しずつ変わってゆくのであった。
そんな嘘みたいな出来事を知る由なんて当時のボクにはなかったのだ。
4年後
桜舞い散る花吹雪の中にて。
【おわり】