緋色のひーちゃんが空を仰いで、
きっと明日はうまくいくさって
なぐさめよりも力強い調子で
僕の太鼓を叩いてくれた。
ようやく夜が終わって、いつもならまだ眠っている頃なのに、突然目の前に地平線が広がって、どこもかしこも視界が開けていった。
「音楽はね」
ひーちゃんはいつの間にか真っ赤なテレキャスターを構えていた。
「革命なんだよ」
僕はかぶりを降った。
「ウソじゃない」
ひーちゃんをまっすぐ見ることができない。自分みたいなちっちゃいやつには眩しくて仕方がない。
「たった一曲でだれかの世界をくるんとひっくり返すよ」
音楽なんてありふれている。否定よりも鋭く、僕の胸を串刺しにしたのは往年の腐りたい欲求だった。
「ぼくらの物語を勝手に悪くないものにするんだ」
ギターのパワーコードが心を突き飛ばした。朝焼けは空を燃やし続けていた。
大嫌いな朝だ。いつも息がうまくできなくなって、もう何千年も溺れていた朝なのに。ひーちゃんのテレキャスターは星空の残滓を纏って僕を連れ出した。
僕は少しだけ泣いてしまった。こんなにも力が湧いてくるのに、実際のところ何をしたらいいのか見当もつかなかった。
「息を吸ってごらん」
「なにも考えなくていい」
「なにも成し遂げなくていい」
「なにも意味なんてなくていい」
「なんだってそう悪いばかりじゃない」
ひーちゃんがにかりと笑って、僕の口角もつられてしまった。
爆音とともにひーちゃんの声は徐々にちいさくなっていき、僕はそっとヘッドフォンを外した。
なにかを始めるにはぴったりの世界だった。
【おわり】