一億年前の光はきっと孤独なんだろう。
読んでもいない詩集の表題が浮かんだ。
その人は頼りになる人だった。
誠実だったのだとおもう。
とあるよく似た兄弟の、勉強が取り柄な兄が最後の日に会いたがっていた人だった。
体力がついたことを、自信がついたことを
伝えたかったのだと、細腕の力こぶを見せながら彼なりに言っていた。
彼が運動をしたがらなかったこと。人前で踊るとき、泣きながらうずくまっていたことをおもいだした。
その人は何光年も先の彼に触れたのに、
その後その人はもっと遠くにいってしまった。
仕事の過労心労とはいったいなんだったのだろう。その日から何が続いて、その後何があって、なぜ踏み外したんだろう。
新しい場所は陰惨な場所だったのだろうか。息も出来ないほどだったのだろうか。
たった一人になりたくてハンバーガーを囓る。もうひとりの同志がいて、その人が濁った水をすすっていたことを伺い知った。
指輪のない左手が品のよい薄桃色の携帯カバー掴んでいた。その手が過ちに染まり、その手が良心を奮い立たせたのだろうか。
誰もいないホールで佇むとき、なにを思ったんだろうか。
後輩に親身になる姿も、必ず正座で目線を合わす姿も、自棄になった姿も、すべてその人だったはず。いつの間にか、脇腹の傷口がどこまでも遠い孤独に投げ出されたのちに、膿んでしまったのかもしれない。
だとすればそれは悲劇だ!だって正義のヒーローになる人だった。だからその人は右手を挙げたのだ。結局どれもこれも風のざわめきだ。けれど、それでも身勝手といわれたって嘘だと言ってほしかった。…だからこそなんだろうか。
誰もその人を知らないまま当然のように石を投げる。いくつも降り注ぎ、その人の周りの、その人を追いやった、寄り添った人の額に命中する。
ならばやっぱりこれは悲劇だ。
どこまでも遠い、手に届かない程の孤独がもたらした悲劇なのだ。
そう言い聞かせて自分を納得させることにした。
【おわり】