面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「新怪談必殺地獄少女拳 吸血ゾンビと妖怪くノ一大戦争」

2009年02月17日 | 映画
時は江戸時代。
伊賀のくノ一・スガル(大野由加里)は、頭領(五味龍太郎)の命令に従った結果、実母を殺してしまう。
忍者として生きるための冷徹さを求めた頭領が仕組んだものだったが、そんな仕打ちに耐え切れず、人間らしく生きるために、スガルは抜け忍となる。
「抜け忍には死あるのみ」という厳しい掟に従い、仲間のくノ一・カスミ(高嶋ひとみ)は頭領の命により刺客となり、スガルを討つべく彼女を追う。

そして二年の月日が流れた。
とある山中で戦うカスミとスガルの前に突然ゾンビが現れ、居合わせた村娘を喰い殺した。
呆然とする二人の前に次々とゾンビが現れ、周りを囲まれて窮地に陥るスガルとカスミ。
しかしそこへ、妖魔退治人・愛玲(森愛子)が登場、瞬く間にゾンビを倒して二人を救う。
愛玲と旅を共にする妖怪研究家・カラーサワ俊一郎(唐沢俊一)は、今や巷にはゾンビが溢れており、徳川の天下は崩壊寸前だと言う。
そしてそのゾンビ達を操るのは、ヨーロッパからやって来たという吸血鬼、ドラキュラ(盛井雅司)だった。
ドラキュラは、吸血鬼カーミラ(金子珠美)、吸血蝙蝠チュチュ(赤神こだま)、吸血蛇女アナ(田中美鈴)、吸血魔女バラバラ(金沢涼恵)を従えてヨーロッパを荒らし回り、次に中国に魔の手を伸ばし、更には日本へと渡ってきたのである。
愛玲はドラキュラ退治を依頼され、中国からドラキュラを追って日本にやって来た、妖魔退治人だったのだ。

ドラキュラは、日本でのキリスト教弾圧政策に便乗し、吸血鬼の王国を築こうと企んでいた。
そんなドラキュラ達による横暴な振る舞いに対して、日本の妖怪達は見て見ぬふりをしていたが、それに我慢ならない妖怪たちもいた。
そんな妖怪である化け猫のすず(中西絵理奈)、河童のかあこ(佐々木彩乃)、鎌鼬のふうこ(uta)、雪女のゆきよ(岡本朋子)、女郎蜘蛛のおいと(藤崎小梅)の5人は、徒党を組んで闘いを挑むが、吸血鬼軍団の圧倒的な強さに歯が立たない。
強大な敵・ドラキュラの前に、追い詰められ、進退窮まるくノ一、刺客、妖魔退治人、日本の妖怪たち。
生き残りをかけた決戦の火蓋が切って落とされた…

どこかのスタジオの暗がりにしか見えない洞窟、怖さのカケラも無くショートコントの幽霊のようなゾンビ、赤い光が映り込んでいるだけにしか見えないCG処理による血しぶき。
とことんチープなセットに特殊メイク、ほんわかとしたCG処理。
究極まで経費をかけずに特撮画面を撮るとこうなるのか!?と、改めて勉強になる。
いや、あのCG処理は、前衛芸術的な美しさとして観るべきか。

緩い殺陣ながら、ミニスカ風のくノ一スタイルで思いきり敵を蹴り上げて見事な開脚で下着を披露し、ほのかなお色気を漂わせて奮闘するも観客は欲情できない(少なくとも自分は)女優達。
大学の「映画研究会」もかくやと思わせる、何かに毛が生えた程度というべき台詞回しと、“女優オーラ”の薄い華の無さが、そこはかとなく哀愁を漂わせる。
いや、これは日本の伝統である「詫び・寂び」ととらえるべきか。

戦闘シーンで、いよいよ派手なアクションへと移る!と思いきや、突然役者達を画面から消してしまう驚愕のカメラワーク。
話は江戸時代であり、清国からやってきたという「妖魔退治人」アイリンが、「中国」という言葉を使ってしまう緩い台本…

凄い映画だ!
頭をハンマーで殴られたような衝撃ではない。
観終わった瞬間は軽い脱力感のようなものを覚えるだけだが、劇場を後にして時間が経つほどに、己の中の常識が揺らぎだした。
まるで心に長時間、低周波を浴びていたかのようだ。
そう、90分の上映時間の間、自分の心はずっと低周波に曝され、微細な振動を与えられ続けていたのだろう。
もし本作の続きが上映されていて、劇場で連続して観ていたならば、二度と日常のサラリーマン生活に戻ることはできなかった。
こんなに“心地よい世界”にどっぷりと我が身を浸らせた感覚を味わったのは、学生時代以来ではないだろうか。
自分が身を置くべき場所は、もしかすると…?やはり…?

くノ一、チャイナドレス、ゾンビ、ドラキュラを登場させ、モンスターに緩いスプラッター・ホラーを織り交ぜた挙句、朝日放送の「必殺仕事人」シリーズにヒントを得たシーン(いわゆるパクリ?)まで、寄せ鍋というより“闇鍋”のようなゴッチャ煮映画。
正論に基づきこの映画を酷評しようとすれば、いくらでもそのタネは掘り起こせる。
しかし、この作品の本質は、そんな皮相的なところには無い。
頭で観るのではなく、五感のみならず第六感まで駆使して、思い切り“感じる”作品。
京極夏彦のナレーションも納得。

なお、エンドロールの後に次回作とおぼしき作品が紹介された。
題して「呪殺 うらみごろし」。
恨みを晴らすべく呪い殺すのか!?呪い殺し?恨み殺し?どないやねん!?
み、み、観たい…っ!!
山田誠二監督、恐るべし。


新怪談必殺地獄少女拳 吸血ゾンビと妖怪くノ一大戦争
2009年/日本  監督:山田誠二
出演:大野由加里、森愛子、高嶋ひとみ、中西絵理奈、盛井雅司