面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「愛のむきだし」

2009年05月07日 | 映画
敬虔なクリスチャンの家に生まれ育ちながら盗撮のカリスマであるユウ(西島隆弘)は、盗撮仲間との罰ゲームで女装をして街中を歩いている時、暴漢達を相手に闘う少女・ヨーコ(満島ひかり)と出会い、彼女に一目惚れしてしまう。
しかしそれは、自らが幹部となっている新興宗教「0(ゼロ)教会」にユウの一家を引き入れようとする謎の女・コイケ(安藤サクラ)が仕掛けた罠だった。
自分が求めていた理想の女性「マリア」としてヨーコを愛するユウは、コイケの謀略によって熱心な信者となってしまったヨーコを助けるべく、仲間達の協力を得ながら「0教会」に立ち向かう…

人は独りでは生きていけない、「人」という字も人と人とが支え合ってできている、とはよく言われる。
そしてそれは正しい。
しかし本作を通して園監督は、更なる人間の本質を観客に提示する。

最愛の妻を亡くし、神の愛にすがるユウの父・テツ(渡部篤郎)。
自由奔放に生き、自分の愛を相手に叩きつけると同時に、相手からの愛をむさぼるように求めるカオリ(渡辺真起子)。
カオリの猛烈なアタックに溺れてしまうテツだったが、カオリが若い男のもとへと去ってしまうと性格は変貌し、ユウに毎日罪を「懺悔」するよう強要する。

父の愛を繋ぎ止めたいユウは、懸命に罪を作ろうと奔走し、ついには盗撮のカリスマとなってしまう。
母親の形見であるマリア像を大切にし、自分の理想の女性“マリア”を捜し求めていたユウは、ヨーコに“マリア”を見出して愛を捧げようとするが拒否される。
しかし、チンピラに囲まれるヨーコを助けたとき、女装している自分をごまかすために名乗った「さそり」という“女”に対してヨーコが好意を持ってしまったがため、現実との狭間で苦悩する。

ヨーコは、次々と女を連れ込んできた父親への憎しみから男を嫌悪していて、ユウのことも拒否する。
しかし、チンピラに襲われた自分を助けてくれた「さそり」という“謎の女性”に夢中になり、愛情さえ抱くようになる。
そして偽の「さそり」にのめり込んで堕ちていく…

コイケは、実の父親から虐待を受け続けていた。
その父親を殺して解放感に浸っているところへ、彼女の病んだ心の隙間に新興宗教「0教会」が忍び込み、教祖の右腕となるほどに力を注ぐ。
信者獲得のターゲットとしてユウの一家に目を付け、テツとよりを戻したカオリと共にユウの家族(妹)となったヨーコに、自分を「さそり」だと思い込ませることを手始めに一家に入り込んでくる。
更には、ユウが盗撮魔であることをバラして家族崩壊に持ち込み、テツ、カオリ、ヨーコを「0教会」の信者に引き入れることに成功する。

コイケに奪われた愛するヨーコを取り戻すため、ユウは「愛」を拠り所に戦いを挑む…


本作の根底に流れているのは「愛」。
「愛」の欠乏により人間が壊れていく様は、時に目を背けたくなるほど。
「愛」を与えられることなく育ち、「愛」がどこにもない人間の恐ろしさが極限まで描かれていて、上映中は常にザワザワと胸騒ぎがして落ち着かない感覚が続く。
しかし、一度壊れた人間も、「愛」によって復活することで観ているこちらも救われ、ようやく少し安堵できる…
これまで味わったことの無い、ホラー映画とは一味違った“ジェットコースター感”が楽しめる作品。

人は「愛」が無くては生きていけない。
人が人として生きていくためには、何よりも「愛」が必要なのだ。
「All You Need Is Love」とは、けだし名言…

上映時間237分が決して長くない(間に休憩が入るのだが)。
全編を「愛」が貫く、衝撃の問題作にして人類必見の逸品!


愛のむきだし
2008年/日本  監督・脚本・原案:園子温
出演:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、渡部篤郎、渡辺真起子