本作を観るまで、友川カズキというフォーク歌手の存在を、実は知らなかった。
70年代のフォーク・ブームを過ぎて、いわゆる「ニューミュージック」というジャンルが台頭してきた頃、音楽に興味を持ち始めたというような世代であり、「ポプ・コン」でメジャー・デビューしてきたミュージシャンは、けっこう“マイナーどころ”も知っていたりする。
しかしフォークソング歌手となると、そのブームの頃は少々幼すぎた。
そのため、フォークソング歌手といえば、吉田拓郎やかぐやひめ、グレープ、山本コータローとウィークエンド、杉田二郎、フォーク・クルセーダーズやシューベルツといったところが思い浮かぶばかりで、“メジャーどころ”しか印象にない。
そしてそんな彼らが歌う曲の中で、自分も知っているものとなると自ずと数は限られ、ヒット作がほとんど。
その曲のほとんどは、耳に心地よい音楽である。
多くの人々に支持されてヒットするのだから当然だろう。
翻って友川カズキ。
彼の息子がカラオケで、代表作でもある「生きてるって言ってみろ」を歌うのだが、まずこの曲の持つ独特のメロディーラインとリズムが、妙に不安感を湧き上がらせる。
彼のライブシーンにおいては、奏でられる伴奏のメロディーが、また自分の中に不安感を煽り立てる。
そして彼の叫ぶような、言葉を我々に叩きつけてくるような歌い方に圧倒され、唖然・呆然としてしまう。
なんなんだ!?この人の心を不安にさせる音楽は…!
子供の頃、あがた森魚の「赤色エレジー」を聞くと、何となく恐いような、何とも言えない不安感に襲われたものだが、あの感覚が蘇ってきた。
しかし普段の彼は、ごくフツウのオッサンだ。
大好きな競輪のテレビ中継に興奮する姿など、どこにでもいるオヤジそのものだったりする。
そんな彼がひとたびギターを持てば、正に「絶叫する哲学者」の顔を見せ、観客の心をざわつかせる歌をぶつけてくる。
詩人であり画家でありエッセイストであり俳優でありフォーク歌手であり、そして競輪ファンの酒豪である表現者という多彩な面の一旦をのぞかせる。
REMやモグワイなど、数多くのミュージシャンから絶賛を浴びているフランス人映像作家ヴィンセント・ムーンの、デジタルビデオカメラで撮りながらも昔ながらのフィルムを観ているような、心地よい質感を持った画面に、友川カズキが実によく映える。
いやこれは、ムーンが友川カズキのムードに合わせて作り上げた映像だからこそなのだろう。
心にさざなみを起こさせる独特の雰囲気が心地よい、上質のドキュメンタリー。
「友川カズキ 花々の過失」
2009年/日本 監督:ヴィンセント・ムーン
出演:友川かずき、及位鋭門、大関直樹、生悦住英夫、加藤正人
70年代のフォーク・ブームを過ぎて、いわゆる「ニューミュージック」というジャンルが台頭してきた頃、音楽に興味を持ち始めたというような世代であり、「ポプ・コン」でメジャー・デビューしてきたミュージシャンは、けっこう“マイナーどころ”も知っていたりする。
しかしフォークソング歌手となると、そのブームの頃は少々幼すぎた。
そのため、フォークソング歌手といえば、吉田拓郎やかぐやひめ、グレープ、山本コータローとウィークエンド、杉田二郎、フォーク・クルセーダーズやシューベルツといったところが思い浮かぶばかりで、“メジャーどころ”しか印象にない。
そしてそんな彼らが歌う曲の中で、自分も知っているものとなると自ずと数は限られ、ヒット作がほとんど。
その曲のほとんどは、耳に心地よい音楽である。
多くの人々に支持されてヒットするのだから当然だろう。
翻って友川カズキ。
彼の息子がカラオケで、代表作でもある「生きてるって言ってみろ」を歌うのだが、まずこの曲の持つ独特のメロディーラインとリズムが、妙に不安感を湧き上がらせる。
彼のライブシーンにおいては、奏でられる伴奏のメロディーが、また自分の中に不安感を煽り立てる。
そして彼の叫ぶような、言葉を我々に叩きつけてくるような歌い方に圧倒され、唖然・呆然としてしまう。
なんなんだ!?この人の心を不安にさせる音楽は…!
子供の頃、あがた森魚の「赤色エレジー」を聞くと、何となく恐いような、何とも言えない不安感に襲われたものだが、あの感覚が蘇ってきた。
しかし普段の彼は、ごくフツウのオッサンだ。
大好きな競輪のテレビ中継に興奮する姿など、どこにでもいるオヤジそのものだったりする。
そんな彼がひとたびギターを持てば、正に「絶叫する哲学者」の顔を見せ、観客の心をざわつかせる歌をぶつけてくる。
詩人であり画家でありエッセイストであり俳優でありフォーク歌手であり、そして競輪ファンの酒豪である表現者という多彩な面の一旦をのぞかせる。
REMやモグワイなど、数多くのミュージシャンから絶賛を浴びているフランス人映像作家ヴィンセント・ムーンの、デジタルビデオカメラで撮りながらも昔ながらのフィルムを観ているような、心地よい質感を持った画面に、友川カズキが実によく映える。
いやこれは、ムーンが友川カズキのムードに合わせて作り上げた映像だからこそなのだろう。
心にさざなみを起こさせる独特の雰囲気が心地よい、上質のドキュメンタリー。
「友川カズキ 花々の過失」
2009年/日本 監督:ヴィンセント・ムーン
出演:友川かずき、及位鋭門、大関直樹、生悦住英夫、加藤正人