NTTが、サイバー攻撃に備える人材を増やそうとしている。鵜浦(うのうら)博夫社長は10日、朝日新聞のインタビューで、東京五輪が開かれる2020年までに専門要員を現在の4倍の1万人に増やす考えを示した。トップレベルの人材には高額の報酬も準備するという。

 国内外の注目を集める東京五輪ではサイバー攻撃も急増する懸念がある。人材が国内で24万人不足しているという国の試算もある。NTTは東京五輪のスポンサーにも選ばれ、対策のかじ取りを期待されている。

 鵜浦社長は「あらゆるものがネットでつながり、攻撃対象が増えている。電力、交通システム、放送局も狙われるかもしれない」と人材を増やす理由を説明した。社員の意欲を高めるために人事部門に指示し、有能な人材を別の報酬体系で処遇する検討を始めたことも明らかにした。

 また、「スピード感が必要だ。1社では対応できない」とも述べ、経済界全体で取り組む必要も訴えた。

 その一環としてNTTは情報通信、金融、電力など15業種の約30社に呼びかけて人材の発掘や育成に取り組む検討会をつくり、9日に1回目を開いた。

 教育機関とも連携する。NTTは4月から、早稲田大サイバー攻撃に対応するノウハウを教える寄付講座を開いた。検討会の参加企業にも呼びかけ、来年以降、ほかの大学や専門学校にも広げる考えという。

 現場では、どんな人材が求められるのか。

 グループ会社のNTTコムセキュリティ(東京)は2千社超の顧客をサイバー攻撃から守る社員約150人の専門家集団。不正アクセスを24時間監視するチームの川田孝紀さん(35)は「新しい技術や攻撃手法が次々に生まれ、10年やってもわからないことだらけ。まずは手を動かし、からだで覚えられる人が向く」。

 ウェブサイトを疑似的に攻撃し、弱点を探す業務に携わる東内裕二さん(41)は「ひとりでも粘り強く仕事できる能力」を挙げる。大手サイトの弱点を2年ほどかけて見つけ出し、数百万円もの報酬を得ている技術者の例もあるという。(真海喬生、志村亮)

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 NTTの鵜浦(うのうら)博夫社長のインタビューのおもなやり取りは以下の通り。

 ――サイバー攻撃に備える人材を増やすのはなぜでしょうか。

 「社内のサイバー攻撃に備える人材を2500人から1万人に増やす。五輪があると、世界中の悪意をもった人たちがくる可能性がある。あらゆるモノがネットワークでつながる社会になる。電力、交通システムがやられるかもしれない。放送局が狙われるかもしれない。まず自分たちが育成するところから始める」

 ――そうした人材の中から、「トップガン」と呼ばれる特に有能な人材を育てる目標も掲げています。

 「トップレベルの人材を社会的に価値のある人として認定し、プロ野球選手のような、若い人たちにとってのスタープレーヤーにすることが必要だ。憧れるぐらいの処遇も考えている。トップレベルになれば、もっと力をつけるために他の企業にいきたい人も出てくる。そうした人が移りやすい仕組みもつくりたい」

 「トップだけではなく、人材の裾野を広げることも重要だ。五輪まで時間がない。裾野を広げることで、人材育成のスピードを上げたい」

 ――人材育成のため、異業種も含めたほかの企業と連携する検討会も発足させました。

 「一企業だけですべてに対応できない。検討会には各業界から集まってもらったが、ここに参加する企業だけで人材を抱え込むわけではない。ノウハウをそれぞれの業界に持ち帰り、コアとなって、その業界で人材を育成してもらいたい。そうすることで、人材育成の良いサイクルができる」

 ――サイバー関係の技術は、守ることにも、攻撃することにも使えます。両者を分ける境目は何だと思いますか。

 「攻撃する能力がないと守る能力もない。守る職業が社会的に価値がある職種だと位置づけることが必要だ。悪用を完全に防ぐことは難しいが、社会が破壊されることを防ぐ人材が必要なんだときちんと位置づければ、だいぶ違うと思う」

 ――日本年金機構の情報流出事件が置き、改めてサイバーセキュリティーへの関心が高まっています。

 「ひょっとして自分のところでも起きるかもしれないと考える企業も多いはずだ。メディアも、事件として問題視するだけではなく、これをセキュリティー対策に取り組むきっかけにしようと呼びかけて欲しい」