(デジタルトレンド・チェック!)ウィンドウズ10の予約は要注意
2015年6月18日10時53分
マイクロソフトがウィンドウズ10の提供開始日を7月29日と発表しました。今回提供されるのは、ウィンドウズ7や8.1搭載パソコン向けの「無償アップグレード」版。発表された6月1日には、該当するパソコンの画面に「予約」をうながす表示が表れました。しかし、ウィンドウズ10へのアップグレードは簡単と限りません。注意すべき点を説明します。(ライター・斎藤幾郎)
■突如表れた「予約アプリ」
6月1日の昼過ぎごろから、ウィンドウズ7や8.1が動作するパソコンの画面右下にある通知領域に、ウィンドウズのロゴマークのアイコンが表示されるようになりました(画像1)。ウィンドウズ10の「予約」をうながすメッセージも出ます。
アイコンをクリックすると「Windows 10のアップグレードを入手する」というアプリ(以下、「予約アプリ」)が起動します(画像2)。複数の画面にわたって説明が表示されますが、どの画面にも「無料アップグレードを予約」というボタンがあるのみです。予約操作をしたあともアイコンは表示され続け、メイン画面も呼び出せます。後日、準備完了などの通知を出すのにも利用されるようです。
このアプリに対する反応は大きく三つありました。
まず、ウィンドウズ10の無償アップグレードについて知っていた人が、「ついに来たか」とさっそく予約するケース。次に、情報を知らない人が、突然画面に「無料」という表示が出たために「詐欺ではないか」などと心配になったケース。筆者の元にも知人から相談の電話がありました。パソコンメーカーのサポート窓口にもかなりの問い合わせがあったようです。そして最後は、情報を知っているかどうかにかかわらず、とりあえず予約せず放置したケースです。
ウィンドウズ10の無償アップグレードは、マイクロソフトが昨年から方針を明らかにしていたものです。ウィンドウズ10の発売から1年間に限り、ウィンドウズ7(サービスパック1適用済み)とウィンドウズ8.1(8.1アップグレード適用済み)が動作しているパソコンに対して、ウィンドウズ10への無償のアップグレードが提供されます。インストールはインターネット経由で行います。ウィンドウズ・アップデートの仕組みが利用されると見られます。
現在パソコンで動作しているのがウィンドウズ7の場合、「スターター」「ホームベーシック」「ホームプレミアム」の各エディションには基本となるウィンドウズ10ホームが、「プロフェッショナル」と「アルティメット」の両エディションにはビジネス向けの機能が追加されたウィンドウズ10プロが提供されます。
ウィンドウズ8.1の場合は、エディション名のない通常のウィンドウズ8.1と同with Bing(ウィズ・ビング)にはウィンドウズ10ホーム、ウィンドウズ8.1プロにはウィンドウズ10プロが提供されます。
とりあえず、上の2番目の「心配になっている人」から相談を受けた場合は、本当に「予約アプリ」が表示されているのか確認してから、正式なものだと安心させてあげてください。
その上で、すべてのユーザーに改めて確認して欲しいことがあります。「予約して大丈夫なのか」ということです。
■問題なく動くとは限らない
実は、予約アプリで予約ができたからといって、そのパソコンでウィンドウズ10が問題なく動くとは限らないのです。確認すべき点は、「互換性の有無」と「メーカーの動作保証の有無」です。
予約アプリには、そのパソコンのハードやソフトがウィンドウズ10に対応しているかを確認する機能が内蔵されていて、自動的にチェックしています。予約アプリの画面を呼び出し、画面左上の「ハンバーガーアイコン」をクリックしてメニューを表示してみましょう(縦に重なる三本線をハンバーガーに見立てた呼び名です)。
メニュー内の項目のひとつに、「PCは準備完了」と「PCのチェック」のいずれかがあるはずです(画像3)。前者であればチェックで問題が無かったということですが、後者の場合はすでにアップグレード前の対応が必要だと分かっていることを示しています。
いずれの項目も、選ぶとチェック結果を表示します。項目名が「PCのチェック」の場合は、互換性チェックに引っかかった項目がリストアップされます(画像4、5)。画面には「ウィンドウズ10はこのPCで動作します」とありますが、「何らかの対応が必要」というわけです。
「PCは準備完了」とあっても油断は禁物。互換性チェックはマイクロソフトの情報と照合して行われているため、マイクロソフトが確認していない機器やソフトはリストアップされない場合があるのです。
予約アプリによる確認は定期的に行われているらしく、前回の確認後にソフトの更新が行われたりすると、以前と異なる結果が表示されることもあるようです。ときどき表示を確認してみるとよいかも知れません。
■「予約=パソコンメーカーの動作保証」ではない
そしてもうひとつ、重要なことがあります。予約アプリでアップグレードの予約ができても、パソコンメーカーがそのパソコンでウィンドウズ10が動作すると保証しているわけではないということです。
パソコンメーカー各社は、自社のウェブサイトでウィンドウズ10に関する情報発信を始めていますが、6月中旬の段階ではその多くが「予約アプリ」についての説明や「詳しい情報は後日公開します」といった内容にとどまっています。
その中で、いち早くより具体的な情報を出したのがNECパーソナルコンピュータ(NECPC)です。ウィンドウズ10へのアップグレード動作確認対象製品を「2013年5月発表以降の」機種としました(一部例外あり)。2013年4月以前に発表した機種は動作確認の対象外、つまり、ウィンドウズ10の動作は保証しないとしています(画像6)。
NECPCが動作保証するのは、だいたい2年前の機種までということになります。同社広報によると、「現行機種との性能面や機能面の違いを考慮した」結果の判断で、メーカー側の負担の問題ではなく、ユーザーの使い勝手を考えた末の結論ということのようです。
ウィンドウズ7の発売は2009年でした。「無償アップグレード」を考えると、旧機種の切り捨てが早いように見えますが、実はそうでもありません。2012年10月にウィンドウズ8が発売された際、同社がウィンドウズ7からのアップグレード対象としたのは「2011年9月以降発表」の機種でした。つまり、だいたい1年前の機種までが動作保証の対象だったのです。
今回はそれと比べて倍の期間の発表機種を動作保証するというのですから、「NECPCはがんばっている」といってよいのではないでしょうか。
■アップグレード前にメーカー情報の確認を
なお、NECPCは今回の情報の公開ページで、2013年5月以降に発表した機種(動作保証する機種)でも注意事項や制限事項が発生する場合があると警告しています。ドライバーの更新などを行っても、一部の機能が使えなくなったり、ソフトが対応しなかったりということがあるのでしょう。
おそらく、他社もこのように製品の発表、発売時期を元に動作保証の有無を決め、7月中には情報を公開するだろうと予想されます。
アプリでウィンドウズ10を予約するのはよいですが、インストールをする前には必ず、パソコン、周辺機器、ソフトなどのメーカーのウェブサイトで、自分が使っているもののウィンドウズ10への対応状況を調べましょう。
ちなみに、以前はソニー、現在はバイオ株式会社から発売されている「バイオ」ブランドのパソコンは、ソニーから発売された機種についてはソニーが引き続き情報提供やサポートを行うと表明しています。
各社の情報を確認し、必要ならドライバーやソフトを最新版に更新するか、削除(アンインストール)しておきます。どうしても使い続けたいソフトや機器がウィンドウズ10に対応しないようなら、アップグレードは避けるべきでしょう。
なお、ウィンドウズの機能でも、ウィンドウズ7の「ウィジェット」機能(すでに標準で無効化されている)や、追加機能として存在する「メディアセンター」など、ウィンドウズ10に該当する機能が無く、使えなくなるものもあります。
メーカーの動作保証がなくても、ウィンドウズ10へのアップグレードができる場合もあるでしょう。その場合は、あくまで自己責任で作業することになります。場合によってはメーカーのサポートが受けられなくなることもありますので、注意と覚悟が必要です。
パソコンにとっても、ユーザーにとっても、最新OSへのアップグレードは一大作業です。使用環境によっては、現在のOSから設定やデータを引き継ぐことができず、新規インストールが必要になる可能性もあります。万一に備え、データのバックアップや復旧ディスクの作成などの準備もしておいたほうが安全です。
ウィンドウズ10を標準搭載したパソコンが出そろうのは、8月以降に発表される「秋冬モデル」とみられます。場合によっては、アップグレードより買い替えを検討するのもありでしょう。