【動画】大台ケ原からダイヤモンド富士=新林正真さん撮影

 富士山の頂に太陽が重なる「ダイヤモンド富士」が、277キロ離れた大台ケ原付近(奈良県川上村)から美しい朝焼けとともに撮影された。撮ったのは天理市の住職新林正真(しんばやししょうしん)さん(46)。撮影ポイントと気象条件をパソコンで読み取り、貴重な光景を記録した。

 山並みのはるか向こう。北東の地平線に台形の富士山の陰が見える。4日午前4時40分。左側の山裾に白い太陽が現れた。カメラのモニターで見ると、その直径は火口の約3倍ある。太陽は山のかたちに沿って、ゆっくり昇る。2分後、頂へ。ダイヤモンド富士だ。

 「富士山の望遠写真を30回は撮っていますが、今回ほど神々しい風景を見たのは初めてでした」

 新林さんは、とにかく遠くから富士山を撮ろうと、心を砕く。県内だと撮影場所はいずれも山の中だが、入念に事前調査をするので、撮影の成功率は高い。

 前日の3日、近畿地方梅雨入り。だが、夜にパソコンで東海地方のライブカメラを調べると、雲一つない。気象庁の海上予報では視界も良さそうだ。

 午前2時に自宅を出て、原付きバイクで大台ケ原ドライブウェイへ。途中から林道に入り、4時前に事前にパソコン用地図ソフトで割り出した場所に着いた。標高1350メートルの山腹。地平線はもう濃いオレンジ色だった。波打つような雲が幾重にもたなびいていた暗い空も、20分後には一面が炎のように焼け始めた。

 「いい写真が撮れる」。いつも以上に高ぶった。500ミリの望遠レンズを着けた一眼レフは、三脚でビデオ撮影。もう一台のカメラは、一脚に据えて構えた。

 ダイヤモンド富士は、ズーム撮影すると、太陽と周りのコントラストが強くなり、空は黒っぽい単色に写る。今回は、慎重に空に露出を合わせた。折り重なった雲が、空に絶妙な陰を生んだ。

 「ジーンと来ました。高揚感は数日続きました」

 望遠写真に夢中になるきっかけは、約10年前、知人から「天理市の山あいから西を望むと明石海峡大橋が見える」と聞いたことだった。2年前、富士山世界遺産登録を機に、被写体を東に向けた。

 次に狙うのは、292キロ離れた大峰山系の仏生(ぶっしょう)ケ岳(上北山・十津川村境)からの撮影。2年前に挑んだ時は、一応は撮れたが、不鮮明だった。山に通じる道路はなく、さらに入念な準備が必要だ。

 「ここが最望遠地。いつか、完全で、きれいなダイヤモンドを撮りたい」

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 新林さんによると、大台ケ原から望むダイヤモンド富士は11日からが本番。最高峰の日出(ひで)ケ岳からは、天気が良ければ15日ごろまでと29日~7月3日ごろに見られるという。(筒井次郎)

■見たことない美しさ

 富士山研究で知られる田代博・明治大非常勤講師の話 私自身、ダイヤモンド富士を500回以上撮影しているが、この朝焼けは今までに見たことのない美しさだ。しかも超望遠。梅雨入りの時期の厳しい気象条件での撮影という点でも素晴らしい。