フィギュアスケート・フィンランド大会最終日(4日、ヘルシンキ)グランプリ(GP)シリーズ第3戦。男子で2014年ソチ、18年平昌両五輪王者の羽生結弦(23)=ANA=がショートプログラム(SP)に続いてフリーも1位の190・43点をマークし、合計297・12点でGP9勝目を挙げた。SP、フリー、合計全てでルール改正後の世界最高得点となった。羽生は国際スケート連盟(ISU)公認大会で初めて4回転トーループ-トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を着氷。シニア転向9季目で初めてGP初戦を制した。
敬愛するスケーターに届ける熱演だった。ロシアの“皇帝”エフゲニー・プルシェンコが名演した「ニジンスキーに捧ぐ」をモチーフにした「Origin」。羽生はスコアを待つキスアンドクライで今季世界最高の297・12点を受け止めると、元世界王者の愛称を呼び、ロシア語でありがとうと伝えた。
「スパシーバ。ジェーニャさん」
黒をベースに新調した衣装を身にまとい、揺れる日の丸に見守られて銀盤へ。演技後半に差し掛かり、絶対王者が攻めた。4回転トーループ-トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の連続技だ。3回転半の着氷を必死にこらえる。国際スケート連盟(ISU)公認大会で世界初の大技を決め、シニアデビューから8季連続で勝てなかったGP初戦の初制覇につなげた。元来スロースターターの羽生が今季は滑り込むことで苦手を克服した。
「GPシリーズ初戦で勝つことが本当にできなかった。今日は戦いでした。新しいスタートがやっと切れました」
連続ジャンプの2本目は着氷する右足で踏み切らなければならない。アクセルは左足で踏み切るため、今回決めた4回転-3回転半はルール上、技のつなぎで足を踏みかえるジャンプシークエンスとされ、得点は0・8倍と見返りが少ない。
それでも挑戦するのは唯一無二のプログラムを完成させるためだ。スケート人生の原点に立ち返る意味を込め、今季のフリーを「Origin」と命名。幼少期から憧れ、今でも演技の映像を見て参考にするプルシェンコへの思いと、モットーの挑戦心を体現しようと滑り込む日々だ。
前日3日はプルシェンコの36歳の誕生日。「そういう意味で、気を引き締めて頑張りたい」。感謝と祝福の思いを込めてリンクに立ち、大台の300点に迫る好記録というこれ以上ない形で表現した。
向上心が尽きない羽生らしさが次への原動力となる。出来栄え点で減点された世界初の大技を次回は完璧にするつもりだ。「加点がつかないと意味がない。体操の内村(航平)さんも言っているけど、最後はきちっと決めないと。(加点がつく出来栄えで)決めて成功といえる」。次戦はGP第5戦、ロシア杯(16、17日)。貪欲な絶対王者が今季も銀盤の主役になる。
ブライアン・オーサー・コーチ「素晴らしい演技だった。五輪を2連覇した王者には新しい挑戦が必要で、4回転トーループ-3回転半は華々しい連続技だ」