今月出発する南極観測隊の副隊長兼夏隊長に、60回目の派遣で初めて女性が就任した。27年ぶりに南極に向かう海洋研究開発機構の原田尚美さん(51)=横浜市=だ。厳しい自然相手に計画通りにいかないことは何度も経験し、「うまくいかないところはカバーし合い、みなが成果を持ち帰れるようにしたい」と意気込む。

 原田さんは北海道で生まれ育ち、弘前大(青森県)では大気中の放射能の研究をした。指導教官から南極で研究した話を聞き、「いつか行きたい」と思い始めた。名古屋大大学院へ進むと、研究船にも乗り、海底の堆積(たいせき)物から過去の海洋環境を探った。そんなとき、研究室に観測隊員派遣の依頼があり、手を挙げた。2人目の女性隊員として33次夏隊(1991~92年)で初めて南極を訪れた。任務は生物由来の海中の微粒子採取。海に仕掛けを沈め、2カ月後、帰りに回収するはずが、見つからなかった。

 就職先の同機構では、過去の環境変遷などの研究を続け、観測船の研究チームの首席も担った。現在は地球環境観測研究開発センター長代理を務める。数カ月にわたる航海も珍しくない。研究対象の北極海へ赴く度に温暖化の著しさに驚かされ、南極への関心がふくらんできた。そこに、「初めての女性の隊長を」と考えていた観測隊派遣元の国立極地研究所に経験を買われて声がかかり、二つ返事で引き受けた。

 ログイン前の続き60次隊は夏隊69人(同行者含む)、越冬隊31人の計100人と過去最多。両隊は今月出発し、夏隊は来年3月に、越冬隊はひと冬を越して再来年3月に帰国する。原田さんは夏隊の隊長として、昭和基地への物資輸送の指揮をとり、生物や地学、雪氷などの観測で各地に散らばる隊員の把握などを担う。とりまとめに忙殺され、自分の観測をする余裕はなさそうだ。それでも、四半世紀ぶりの南極だけに、「懐かしいか、初めてのように感じるか?」と待ち遠しい。

 日本の南極観測隊への女性参加は29次夏隊が初めて。33次夏隊でも原田さん1人だったが、今回は14人(うち同行者4人)。海外勢の多くは日本より女性比率が高く、「女性を増やす道筋をつけたい」と話す。

 観測船「しらせ」は10日に東京・晴海埠頭(ふとう)を出港。観測隊は25日に成田空港を出発し、豪州でしらせに乗船して南極へ向かう