1日に1時間以上歩く高齢者は、肺炎やインフルエンザで死亡するリスクが低いことが、日本人を対象とした大規模な疫学研究で明らかになりました。
■65歳以上の日本人2万人以上を12年間追跡
肺炎は、先進国における死因の上位に位置しており、特に65歳以上の高齢者に肺炎による死亡が多いことが知られています。
これまでにも、よく歩く人や活発に運動する人は肺炎リスクが低いという報告はありました。しかし、高齢者には慢性疾患の患者が多いため、積極的に運動するのは難しい人が少なくない可能性があります。そこで北海道大学(所属は論文掲載時)の鵜川重和氏らは、日本の高齢者を対象に、心筋梗塞または脳卒中の経験があるかどうかを考慮しながら、日常的な歩行時間が肺炎またはインフルエンザによる死亡と関係するかどうかを検討しました。
分析対象になったのは、日本人のがんリスクの評価を目的とした疫学研究「JACCスタディ」に参加した、65~79歳の日本人2万2280人(男性9067人、女性1万3213人)です。
参加者には、この研究への参加を決めた時点で、さまざまなライフスタイルに関する質問とともに、1日の歩行時間を尋ねました。質問は「平均すると1日にどのくらい屋内または屋外を歩いていますか?」で、回答は「0.5時間未満」「0.5時間」「0.6~0.9時間」「1時間以上」の中から選択してもらいました。
また、心筋梗塞または脳卒中の経験についても尋ねたところ、1894人がこれらのいずれかを経験していました。内訳は、心筋梗塞のみが1210人、脳卒中のみが604人、これら両方が80人でした(したがって、心筋梗塞の経験者は1290人、脳卒中の経験者は684人)。
1日の歩行時間が1時間を超えていた人の割合は、心筋梗塞と脳卒中のいずれも経験していない人では50.4%、心筋梗塞の経験者では41.8%、脳卒中の経験者では33.9%でした。
■1日1時間の歩行で死亡リスク10%減
11.9年(中央値)の追跡期間中に死亡した人のうち、1203人(男性731人、女性472人)の死因が肺炎またはインフルエンザでした。参加者を、心筋梗塞と脳卒中の経験の有無によって3つのグループに分け、1日の平均的な歩行時間が0.5時間のグループを参照群として、肺炎またはインフルエンザによる死亡リスクの検討を行いました。
【心筋梗塞と脳卒中の経験がない人たち】
→1日の歩行時間が0.5時間のグループと比較して、1時間以上歩行していたグループの肺炎またはインフルエンザによる死亡リスクは10%低くなっていました。反対に、歩行時間が0.5時間未満のグループのリスクは、参照群より33%高くなっていました。
【心筋梗塞の経験者】
→1日の歩行時間が0.5時間のグループに比べ、1時間以上歩行するグループの肺炎またはインフルエンザによる死亡リスクは34%低いことが分かりました。
【脳卒中の経験者】
→1日1時間以上歩行していたグループに、参照群と比較したリスク低下は見られませんでした。一方、1日に0.6~0.9時間歩行するグループの肺炎リスクは35%低くなっていました。なぜこうした結果になったのかは、明らかにならなかった、と著者らは述べています。
以上の結果は、心筋梗塞歴のある人を含め、高齢者が1日に1時間以上歩くと、肺炎またはインフルエンザによる死亡リスクが下がる可能性を示しました。