「セックスと嘘とビデオテープ」 (‘89)で衝撃的デビューした、スタイリッシュな演出で知られるスティーブン・ソダバーグ 監督の代表作は誰もが「オーシャンズ」 シリーズと認めるところと思います。
そのソダバーグ監督最新作「ローガン・ラッキー」 は、まさに田舎版「オーシャンズ」と言えるクライムサスペンス映画。ところどころにニヤリとさせたり、ホロリとさせるスパイスが効いています。巨大な金額が動く「シャーロット・モーター・ウエイ」レースの売り上げを根こそぎ頂こうとする男たちの物語は「オーシャンズ」シリーズと基本的には同じ。けれど構図設定は全く真逆。
舞台はきらびやかなラスベガスなどでは無く、山間のウエストバージニア州 の田舎町。ウエストバージニアは全米50州の中にあって、人口も面積も40位位の内陸州。で、登場人物も、ジョージ・クルーニー やブラッド・ピット みたいなクールな犯罪者では無く、どれもこれも、うだつの上がらない落ちぶれた設定。ディープサウスの影響を受けた保守的白人社会の世界は、まさにトランプ支持者の巣窟みたいな雰囲気(この設定が、後々すごく効果的に効きます)。
主役のローガン兄(チャニング・テイタム )は、かつて地元高校のアメフトのスター選手だったんだけれど、膝を痛め、建築現場からは解雇されて携帯電話代も払えない始末。嫁には逃げられ、小さい娘に会いに行くことが人生最大の楽しみ。
ローガン弟(アダム・ドライバー )も、イラク戦争で左手を失った前科持ちのバーテンダー。兄はこの弟のバーで、弟の義手を小ばかにした客にケンカふっかてたりしてるダメダメな生活ぶり。 兄チャニング・テイタム と 弟アダム・ドライバー
ちなみに、この主役二人は近日公開の「キングズマン」 (1月公開)と「スターウォーズ」 (12月公開)最新作にもそれぞれ出演しています。兄役のチャニング・テイタム は「キングズマン」において、ここでもアメリカンスタイルのカウボーイスパイ役。↓↓↓
弟アダム・ドライバー は前作に引き続き、ダースベーダー の孫にしてその崇拝者カイロ・レン 役。ちょっと話は脱線しますが、ラストこの弟の義手が「スターウォーズ」のパロディとも思える演出でニヤリとさせます(ヒント:ベーダーもその息子のルークも機械義手)。↓↓↓
さて、注目すべきは金庫破りの達人ジョー役で、あのダニエル・クレイグ が出演していること。D・クレイグと言えば、颯爽としたタイトなスーツを着こなす007 ことジェームズ・ボンド 役が代表作で、ファンはジョージ・クルーニー のようなカッコよさで登場と期待するかもしれませんが、刑務所囚人として登場冒頭からそういう期待は一切裏切られます。
本作においては、彼もイマイチうだつの上がらない、だみ声の野卑な田舎アメリカンとして役作りに成功しており、そういう意味においては歴代の007役者達が正統な英国紳士イメージから抜けきれなかった役者キャリアの中で、彼だけは今後もかなり幅の広い役(悪役を含め)をこなせることを証明しています。
さて、映画はこの完全犯罪をあっと驚くどんでん返しまで一気に見させてくれるのですが、あらゆる偶然に助けられたりして、突っ込みどころはたくさんあるわけ。例えば、事なかれ主義の官僚そのものの刑務所長や、金盗まれる主催者の保険で補填されるから捜査には関係ねぇっと言わんばかりの拝金主義者に、主人公たちは結果的に助けられたことになっていたりします。しかし、そんな脚本上の小さな欠点(狙ってるかもしれませんが)を補って余りある魅力が本作にはあります。例えばラスト近くのこのシーン・・・
美少女コンテストに登壇した愛娘の晴れ舞台に、大仕事(泥棒)終えたダメ親父が、間一髪間に合います。末席に父の姿を確認した娘は、この日のために一生懸命練習してきた持ち歌を披露することを止め、父が大好きな大好きな「カントリーロード」 を駆けつけてくれた父のためにアカペラで歌いだします。年端もいかない幼子のその歌は決して上手いとは言えません。しかしもはや賞狙いではないその純粋な歌声に、観衆も一緒にこの名曲を歌いだします。カメラは一緒に歌うアメリカ人一人一人をとらえ、心で泣いている父の姿を逆光で浮かび上がらせます・・・。 以下歌詞。
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Almost heaven, West Virginia 天国のようなところさ、ウエストバージニアは
Blue ridge mountains, Shenandoah river ブルーリッジ山脈、シェナンドー川
Life is old there, older than the trees
そこでの暮らしは木々よりも古く
Younger than the mountains, growin’ like a breeze
山より若く、そよ風のように時は流れる
Country roads, take me home
カントリーロード(故郷へと続く道よ)私を故郷へ連れて行って
To the place, I belong
私の居るべき場所へ
West Virginia, mountain mama
ウエストバージニアの母なる山へ
Take me home, country roads
私を連れて行っておくれ、カントリーロード (略)
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小生は思わず嗚咽を漏らすかと思いましたよ。こんなに感動する「カントリーロード」を聞いたことがありません。日本のアニメではダメなんですよ、この歌は。
何故、この映画の舞台はアメリカの田舎(ウエストバージニア)でなければなかったのか。
何故、「オーシャンズ」のようなスタイリッシュなかっこいいスタイルではなかったのか。
ここではっきりと解ります。ここに開拓民から生まれたアメリカの原点を見たような気がするわけ。
じゃぁ、何で泥棒映画なんだよっ!!
・・・って、突っ込まれればそれまでなんですが・・・
解るでしょ、師走が近づくと日本国民も千昌夫「北国の春」とか八代亜紀「舟唄」みたいな歌聞きたくなって、田舎帰りしたくなるんすよ。
まぁラストはね、あっけらかんとした大ハッピーエンドで終わるので、いかにもアメリカらしいっちゃ、アメリカらしいんですがね。ちょっと論理的な整合性の取れない尻切れトンボな文章になりましたが、是非一度鑑賞することを強くお勧めします。 大御所ジョン・デンバーの「カントリーロード」VIDEO