著者のロバート・ライシュさんは米クリントン政権で労働長官、オバマ政権では同大統領のアドバイザーを務めるなど米民主党政権において要職を歴任してきたリベラル派の経済学者であると理解しています(ここでいう「リベラル」とは日本政治における「リベラル」とは意味合いが異なります)。そのライシュさんの著作である本書(原題"BEYOND OUTRAGE"(怒りを乗り越えて))は2012年に、そしてこの和訳版は2年後の2014年に刊行されていますが、本書において著者は、表題のとおり米国における経済格差の問題点を指摘し、解決策を提示しています。
ただ、そうした格差問題について「21世紀の資本」のピケティはじめ経済学的観点からその構造や背景は各所で指摘されているものの、本書がそれらと少々異なるのは、そうした格差が放置され、拡大する背景にはその格差によって民主主義が機能不全に陥っているからである、だから機能不全に陥っている民主主義を改めるために有権者は行動すべきだというのが、本書における著者の主張であるという点です。
つまり、格差=富と権力がトップ層に集中することにより莫大な富を得たトップ層は、政治献金といったツールを通じて立法府、行政府、そして司法までを意のままに操ることで法制度、税制や司法判断を自分たちに有利に/不利にならないようにし、それにより更にトップ層への富と権力の集中が進んでいる米国の現状がある。それにより「本来万人にとって機能するはずだった経済活動や民主主義が失われ」つつあり、経済や政府がほんの一握りの権力ある富裕層、よく言われるトップ1%、のために存在するという危険な事態に直面している。従い、この事態をあらためていくためには有権者ひとりひとりが議員や立候補者に対して、
・富裕層に対する資産課税/所得課税の税率を以前の「適性」レベルに引き上げ
・金融取引課税
・軍事予算の削減(国防の質は落とさないという条件付き)
・社会保障の充実(医療費上昇の抑制、メディケア実現)
・上記による歳入増加と予算削減の成果を公共財(主に教育とインフラ整備)に回す
・金融機関に対する規制を従前のとおりに戻す
・政治献金の規制
といったことを実現するよう迫っていくべきだ、というのがライシュさんの手による本書の論旨です。
ただ、こうした主張は基本的には正論でそれぞれもっともなものだろうとは思いつつ、特に税制や金融規制の問題はグローバル化した世界経済においては国際協調が必要不可欠で一国だけでは解決できない問題(抜け駆けする国が現れればたちどころに逆回転を始めてしまう)であることから、運動としてかなりの困難を伴うものなのだろうとは思います。逆にいえば、本書が翻訳されて日本はじめ各国で読まれる意義というはそういうところにあるのでしょう。そして、本書では一貫して政敵である共和党に対する批判が展開されており、民主党の方なのだから当然といえばそうなのでしょうが、党派色はかなり強いので、その点は事前にわかっていてもなお少々鼻に突くところではあります。そして著者のロバート・ライシュさんについて言えば、2011年ころにニューヨークタイムス紙に同氏が寄稿していた記事における、米国における長期的な格差拡大の推移、そして格差が一定程度まで拡大する=世界大恐慌のような経済的カタストロフィーが近づく、という指摘が個人的には印象深く、酔狂にもピケティさんのあの分厚い本を読んだひとつのきっかけになっていたりします。
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