2015年12月21日 10:51企業・経済
韓国経済ウオッチ~苦境に陥っている韓国鉄鋼産業韓国経済ウォッチ
日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
韓国の鉄鋼産業は、深刻な業績不振に見舞われている。
中国メーカーの低価格の輸出攻勢、その間の中韓の競争的な生産拡張による供給過剰、世界経済の低迷による需要の鈍化など、業績不振の理由はいろいろある。
鉄鋼産業が韓国のGDPに占める割合は、全産業のなかでは3.0%、製造業全体では9.7%を占めている。
「鉄は国なり」という表現もあるように、製鉄産業は、自動車、造船、建設業界などとも深い関係があるだけでなく、韓国の基幹産業として韓国経済を支えてきたことは言うまでもない。
韓国の鉄鋼産業を語るうえで、欠かすことのできない浦項製鉄の話を少しすると、韓国の最初の製鉄会社である浦項製鉄は、日韓国交正常化により日本から入った資金を活用し、それから技術も日本のエンジニアの協力を得て建設することができた。
浦項製鉄はその後、社名をポスコに変えたが、ポスコは韓国の発展とともに成長を続け、超優良企業として世界的な企業に成長したのは、周知の通りである。
ところが、そのポスコでさえ、2013年から赤字を計上し、業績悪化で苦しみ、株価も下落を続けている。
ポスコ株価は、一時期は50万ウォンもしていたが、現在では16万ウォンくらいになっているため、どれだけ株価が下落しているのがかよくわかる。
今、韓国の鉄鋼業界に何か起こっているのか、苦境に陥った原因は何なのかを、今回考えてみよう。
15年の世界粗鋼生産能力は22億8,300万トンであるのに対して、消費量は16億6,300万トンなので、6億2,000万トンも生産過剰になっている。
その元凶として、中国と韓国の鉄鋼メーカーが槍玉に上げられている。
中国はリーマン・ショックがあったとき、景気を刺激するために巨額の投資を断行した。
その中国政府の投資は、中国経済を危機から救い、世界経済を牽引する役割を果たした。
その設備投資は、中国経済が旺盛に成長するときはよかったものの、今のように景気が減速すると、供給過剰という問題となって現れた。
中国はさまざまな業種で過剰問題が深刻化しているが、この問題が一番深刻な業界は、実は鉄鋼業界である。
中国はダブった製品を低価で輸出に回すことによって、世界的に鉄鋼価格に値崩れを起こしている。
こ
のような中国の鉄鋼製品の輸出攻勢により、韓国ですら中国製品のシェアは40%ほどになっている。
もちろん価格は、以前に比べ40%ほど下落している。
中国の鉄鋼製品が価格を武器に韓国市場に流れ込んでくると、市場を失った韓国企業の鉄鋼製品は、輸出に向かわざるを得ない。
しかし、そこにはすでに低価の中国製品があるので、いいビジネスになるわけがない。
それで韓国の鉄鋼業界の苦戦は続いているわけである。
それに、原油価格が暴落することによって、産油国の建設工事も減少しているし、11月の造船の受注も中国が8割を占めていて、いろいろな要因が重なって韓国の鉄鋼産業は深刻な状況に置かれている。
韓国の粗鋼生産能力は、現在、7,100万トンで、世界シェアは以前の5.1%から4.3%に低下している反面、
中国の粗鋼生産能力は8億2,300万トンで、世界シェアは以前の15%ほどだったのに、現在は50%に急激に上昇し存在感が大きくなっている。
問題は、この供給過剰は、当分続きそうだというところにある。
なぜかというと、設備投資の結果で、最近でも生産量が減少していないからだ。ポスコはインドネシアに年間300万トンを生産できる一貫製鉄所を建設し、14年5月から正常稼動に入っている。
中国の宝鋼集団も15年末から稼動する年間893万トンの製鉄所を建設した。
このような生産過剰のあおりを受けて、建設を中止また保留するケースも発生している。
ポスコはインドにも製鉄所を建設しようとして検討しているが、供給過剰だけでなく、いろいろな問題があり、先送りしている。
日本のJFEスチールも、ベトナムでの製鉄所の建設を中止すると発表している。
それでは、何が原因で韓国の鉄鋼業界は苦しんでいるのだろうか。韓国の鉄鋼産業を代表するポスコを中心に話をすると、韓国の鉄鋼業界がよく理解できるだろう。
ポスコの前会長の在任期間は2009~14年である。この期間中に、ポスコは急激に業績が悪化した。
09年度は負債比率が38.7%だったのに、14年には88.3%に急激に増えている。
営業利益率も09年は10.6%だったのに、14年には4.9%に半分以下に落ち込んでいる。
前会長は、鉄鋼産業でシェアを増やしていくのは容易ではないことに気づき、事業多角化という名目の下、鉄鋼以外の分野に力を入れた。
建設、資源開発、発電事業などである。それによって、36社あった系列会社は、71社に急激に増加した。
その事業の多角化は、現在では収益の改善どころか、ポスコの足かせになりつつある。
このような経営的なミス以外に、現代製鉄の登場も製鉄業界の風向きを変えている。
10年に、現代製鉄は高炉2基を建設することによって、年間400万トンの生産能力を持つことになった。
ポスコは、そのときまでは国内で独占状態であったのに、現代製鉄が登場することによって、
現代自動車という大事な顧客を奪われただけでなく、場合によっては現代製鉄と競合することになったという点である。
ポスコがあせって事業多角化の道に走ったのは、もしかしたら現代製鉄が原因の1つだったのかもしれない。
韓国の鉄鋼産業をこのまま放っておくと、もっと深刻な事態を招きかねないため、韓国政府は構造調整を促している。
政府はポスコの場合には、多角化をやめて、本業に専念し、経営の質を高めていくことを求めている。
去年から会長に就任した権五俊(クォン・オジュン)氏は、系列会社の縮小、整理など、すでに構造調整に着手している。
一方、現代製鉄の場合には、自動車用の鋼板などに注力することが求められている。
現代製鉄も13年の第3高炉の建設を最後に、その後、積極的な投資はしていない。
ポスコと現代製鉄は、体力はあるが、その他の中堅会社の経営も減収減益が続いて、経営が圧迫し、危機に瀕している。
世界経済が回復し、需要が伸びれば別問題であるが、当分の間、需要の伸びは予想できないなかで、中国製の鉄鋼製品は市場に氾濫し、値崩れを起こしている。
これから韓国企業は、中国企業がつくれない高付加価値の製品の開発、生産工程の改善によるコスト削減など、早期に対策を講じないと、基幹産業である鉄鋼産業は、根幹が揺れることになりかねない。(了)
韓国経済ウオッチ~苦境に陥っている韓国鉄鋼産業韓国経済ウォッチ
日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
韓国の鉄鋼産業は、深刻な業績不振に見舞われている。
中国メーカーの低価格の輸出攻勢、その間の中韓の競争的な生産拡張による供給過剰、世界経済の低迷による需要の鈍化など、業績不振の理由はいろいろある。
鉄鋼産業が韓国のGDPに占める割合は、全産業のなかでは3.0%、製造業全体では9.7%を占めている。
「鉄は国なり」という表現もあるように、製鉄産業は、自動車、造船、建設業界などとも深い関係があるだけでなく、韓国の基幹産業として韓国経済を支えてきたことは言うまでもない。
韓国の鉄鋼産業を語るうえで、欠かすことのできない浦項製鉄の話を少しすると、韓国の最初の製鉄会社である浦項製鉄は、日韓国交正常化により日本から入った資金を活用し、それから技術も日本のエンジニアの協力を得て建設することができた。
浦項製鉄はその後、社名をポスコに変えたが、ポスコは韓国の発展とともに成長を続け、超優良企業として世界的な企業に成長したのは、周知の通りである。
ところが、そのポスコでさえ、2013年から赤字を計上し、業績悪化で苦しみ、株価も下落を続けている。
ポスコ株価は、一時期は50万ウォンもしていたが、現在では16万ウォンくらいになっているため、どれだけ株価が下落しているのがかよくわかる。
今、韓国の鉄鋼業界に何か起こっているのか、苦境に陥った原因は何なのかを、今回考えてみよう。
15年の世界粗鋼生産能力は22億8,300万トンであるのに対して、消費量は16億6,300万トンなので、6億2,000万トンも生産過剰になっている。
その元凶として、中国と韓国の鉄鋼メーカーが槍玉に上げられている。
中国はリーマン・ショックがあったとき、景気を刺激するために巨額の投資を断行した。
その中国政府の投資は、中国経済を危機から救い、世界経済を牽引する役割を果たした。
その設備投資は、中国経済が旺盛に成長するときはよかったものの、今のように景気が減速すると、供給過剰という問題となって現れた。
中国はさまざまな業種で過剰問題が深刻化しているが、この問題が一番深刻な業界は、実は鉄鋼業界である。
中国はダブった製品を低価で輸出に回すことによって、世界的に鉄鋼価格に値崩れを起こしている。
こ
のような中国の鉄鋼製品の輸出攻勢により、韓国ですら中国製品のシェアは40%ほどになっている。
もちろん価格は、以前に比べ40%ほど下落している。
中国の鉄鋼製品が価格を武器に韓国市場に流れ込んでくると、市場を失った韓国企業の鉄鋼製品は、輸出に向かわざるを得ない。
しかし、そこにはすでに低価の中国製品があるので、いいビジネスになるわけがない。
それで韓国の鉄鋼業界の苦戦は続いているわけである。
それに、原油価格が暴落することによって、産油国の建設工事も減少しているし、11月の造船の受注も中国が8割を占めていて、いろいろな要因が重なって韓国の鉄鋼産業は深刻な状況に置かれている。
韓国の粗鋼生産能力は、現在、7,100万トンで、世界シェアは以前の5.1%から4.3%に低下している反面、
中国の粗鋼生産能力は8億2,300万トンで、世界シェアは以前の15%ほどだったのに、現在は50%に急激に上昇し存在感が大きくなっている。
問題は、この供給過剰は、当分続きそうだというところにある。
なぜかというと、設備投資の結果で、最近でも生産量が減少していないからだ。ポスコはインドネシアに年間300万トンを生産できる一貫製鉄所を建設し、14年5月から正常稼動に入っている。
中国の宝鋼集団も15年末から稼動する年間893万トンの製鉄所を建設した。
このような生産過剰のあおりを受けて、建設を中止また保留するケースも発生している。
ポスコはインドにも製鉄所を建設しようとして検討しているが、供給過剰だけでなく、いろいろな問題があり、先送りしている。
日本のJFEスチールも、ベトナムでの製鉄所の建設を中止すると発表している。
それでは、何が原因で韓国の鉄鋼業界は苦しんでいるのだろうか。韓国の鉄鋼産業を代表するポスコを中心に話をすると、韓国の鉄鋼業界がよく理解できるだろう。
ポスコの前会長の在任期間は2009~14年である。この期間中に、ポスコは急激に業績が悪化した。
09年度は負債比率が38.7%だったのに、14年には88.3%に急激に増えている。
営業利益率も09年は10.6%だったのに、14年には4.9%に半分以下に落ち込んでいる。
前会長は、鉄鋼産業でシェアを増やしていくのは容易ではないことに気づき、事業多角化という名目の下、鉄鋼以外の分野に力を入れた。
建設、資源開発、発電事業などである。それによって、36社あった系列会社は、71社に急激に増加した。
その事業の多角化は、現在では収益の改善どころか、ポスコの足かせになりつつある。
このような経営的なミス以外に、現代製鉄の登場も製鉄業界の風向きを変えている。
10年に、現代製鉄は高炉2基を建設することによって、年間400万トンの生産能力を持つことになった。
ポスコは、そのときまでは国内で独占状態であったのに、現代製鉄が登場することによって、
現代自動車という大事な顧客を奪われただけでなく、場合によっては現代製鉄と競合することになったという点である。
ポスコがあせって事業多角化の道に走ったのは、もしかしたら現代製鉄が原因の1つだったのかもしれない。
韓国の鉄鋼産業をこのまま放っておくと、もっと深刻な事態を招きかねないため、韓国政府は構造調整を促している。
政府はポスコの場合には、多角化をやめて、本業に専念し、経営の質を高めていくことを求めている。
去年から会長に就任した権五俊(クォン・オジュン)氏は、系列会社の縮小、整理など、すでに構造調整に着手している。
一方、現代製鉄の場合には、自動車用の鋼板などに注力することが求められている。
現代製鉄も13年の第3高炉の建設を最後に、その後、積極的な投資はしていない。
ポスコと現代製鉄は、体力はあるが、その他の中堅会社の経営も減収減益が続いて、経営が圧迫し、危機に瀕している。
世界経済が回復し、需要が伸びれば別問題であるが、当分の間、需要の伸びは予想できないなかで、中国製の鉄鋼製品は市場に氾濫し、値崩れを起こしている。
これから韓国企業は、中国企業がつくれない高付加価値の製品の開発、生産工程の改善によるコスト削減など、早期に対策を講じないと、基幹産業である鉄鋼産業は、根幹が揺れることになりかねない。(了)