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日本より救われている「貧困大国」アメリカの下流老人

2019-12-08 17:41:38 | 日記

日本より救われている「貧困大国」アメリカの下流老人

 2016.1.19 07:00週刊朝日#下流老人#貧困

 

 

 

アメリカの下流老人の生活は…        

 
 

「貧困大国」と呼ばれるアメリカも当然、下流老人は多い。だが、それなりのセーフティーネットがあるので、日本のような悲惨な状況にはなっていない。

ジャーナリストの矢部武が、日本の下流老人から見たら夢のような、アメリカの下流老人の生活を紹介する。
 

カリフォルニア州オークランドに住む白人男性、ジミーさん(63)はかつて大手企業で約3年働いたが、職場の人間関係が原因で辞めてしまった。

その後はホテルや建築関係などのアルバイトの仕事を転々とし、仕事がなく収入が途絶えると、政府から月150ドルほどのフードスタンプ(食料クーポン)をもらって食いつないできた。

フードスタンプは正式には補足的栄養支援プログラム(SNAP)と呼ばれ、貧困ライン以下の低所得者に最低限の食料を提供するためのものだ。

「弱肉強食」のイメージが強い米国だが、じつは低所得者向けの公的扶助は結構整っている。

SNAPのほかに、連邦社会保障局(SSA)が運営する補足的保障所得(SSI)、子どものいる困窮家庭への貧困家庭一時扶助(TANF)などがある。

日本の生活保護にあたるSSIは低所得者に最低限の生活費を保障するもので、月額750~850ドル(約9万~10.2万円)が支給される。
 

ジミーさんは収入が不安定なため、十数年前に家賃を滞納してアパートを追い出されてしまった。その後は車や小型ボートで寝泊まりしたり、友人のアパートのソファに寝かせてもらったりしている。
 

彼はいま63歳。本来なら公的年金のソーシャルセキュリティー退職年金(以下、SS退職年金)をもらえる年齢だが、保険料(SS税)を納めていないので受給できない。

SS退職年金はジミーさんの場合66歳から満額を、62歳から75%を受給できるが、SS税を最低10年間納めるのが条件だ。
 

これから無年金でどう生活していくのか、老後の不安はないのか。
 

聞いてみると、「そんな心配はしていない」との返答だった。なぜなら、下流老人への公的支援が幾つか用意されているからだ。

 まずは低所得者に最低限の生活費を保障するSSIだが、彼は65歳になれば月850ドルを受給できる。

SSIは65歳未満の人が申請すると、就労不能証明の審査が課せられるが、65歳以上の場合は収入と資産の条件だけをクリアすればよい。
 

ほかにも収入の3割を払えば残りは政府が負担してくれる家賃補助を受けられる。

これは連邦住宅都市開発省(HUD)が行っている低所得高齢者向けのシニア住宅プログラムで、条件は62歳以上、貧困ライン相当の収入であること。

これを利用すれば収入の3割を払えばよいので、たとえば、家賃千ドルの住宅でも月850ドルの収入しかなければ255ドルを払えば住める。
 

ジミーさんは65歳でSSIを受給できたら、家賃補助を受けてシニア住宅に住もうと考えている。そうすればボートで寝泊まりする生活よりも快適に暮らせる。

だから、「2年後が待ち遠しい」と話す。シニア住宅は待機者が多いので、64歳になったら、良さそうな物件を見つけて入居申請をするという。
 

彼は仕事がないときは友人の家でテレビや映画を見たり、夜はバーでお酒を飲んでビリヤードを楽しんだりしている。ビリヤードの腕前はかなりのもので、バーの常連客とお金を賭けてやり、ほとんど勝っているそうだ。

彼のような人が生活保護を受けたら、日本ならバッシングを受けそうだが、個人主義が徹底しているアメリカではあくまで個人の問題として考えるので、受給者に対する偏見はあまりないという。
 

従って下流老人も個人の権利として堂々とSSIを申請し、役所も条件さえクリアしていれば承認してくれる。しかし、日本では

それがなかなかできないので、生活苦にあえぐ下流老人がどんどん追いつめられてしまう。
 

生活困窮者への支援活動を行っているNPO法人「ほっとプラス」(さいたま市)では年間約300人の相談を受けているが、うち約半数は60歳以上の高齢者だ。

4万~5万円の低年金で暮らす人が貯金も底をついて無銭飲食したり、家賃が払えず窃盗や強盗未遂をして逮捕されるケースも少なくないという。代表理事の藤田孝典さんは話す。

「低年金のおじいちゃん、おばあちゃんが明日家賃の支払日だけど払えないとなると、“どうしたらいいんだろう、この年齢で追い出されたら”と追いつめられてしまう。“こうなったら、刑務所に入るしかない”とコンビニでナイフをちらつかせたりするが、

本気で傷つける気はないから、未遂で終わることが多いのです」

 この人たちはそうなる前に生活保護を申請し、その基準額と年金収入との差額を受給できたはずだが、そうしなかった。なぜかといえば生活保護に対する誤解が広がっていて、年金を受けていると受給できないと思っている人が多いからだ。

週刊朝日  2016年1月22日号より抜粋 


日銀が破綻しお金が“紙くず”になる日が来る? 生き延びる方法は?

2019-12-08 17:14:44 | 日記

日銀が破綻しお金が“紙くず”になる日が来る? 生き延びる方法は?

 藤巻健史×原真人緊急対談〈週刊朝日〉

12/3(火) 10:14配信    

    

AERA dot.

 外資系銀行で活躍し、「金融界のレジェンド」とも評された藤巻健史さん。週刊朝日で8年間連載したコラム「虎穴に入らずんばフジマキに聞け」がこのほど完結した。参院議員としても活躍し、日本の財政や競争を阻害する仕組みについて警鐘を鳴らしてきた。
【画像】対談した原真人さんの写真などはこちら

 今回は特別編として、「アベノミクス」の問題点を一貫して訴えてきた朝日新聞の原真人編集委員との対談を紹介する。
 藤巻さんも原さんも、日本銀行が国債を大量に買って政府の借金を助けている現状は、事実上の「財政ファイナンス」に当たると指摘。本来やってはいけないこの政策を続ければ、経済危機は避けられないと批判する。危機が現実化する「Xデー」がやってくれば、私たちの大事なお金が“紙くず”になりかねない。どう備えるべきかについて語ってもらった。

◇    ◇ 藤巻 日銀が国債をほぼ買い占める状況が続いている。政府が発行した国債を日銀が直接引き受ける「財政ファイナンス」が、事実上行われているのだ。これは財政の規律を緩め通貨の価値を危うくさせるため、世界中で禁止されているし、日本でも法律で禁止されていることだ。
 私は参院議員の時に、財政ファイナンスの問題について、日銀の黒田東彦総裁に質問したがきちんと答えてくれなかった。国債市場を通じて買っているので直接引き受けではないとか、デフレ脱却が目的だから財政ファイナンスじゃないとか、言い逃れのような答弁を繰り返した。私は、「放火だろうと失火だろうと火事は火事だ」と何度も反論したが、議論が深まらないまま終わってしまった。
原 黒田総裁はいつもまともに答えようとしていませんね。記者会見でも、木で鼻をくくったような回答を繰り返している。私もこれまで7年間にわたって質問してきたが、「財政ファイナンスとしてやっていないから財政ファイナンスじゃない」といったトートロジー(同義反復)でかわそうとしている。
藤巻 国会で、「日銀は債務超過にならないのか」という質問をしたが、きちんと答えられない。金利の上昇で日銀の健全性がどう影響を受けるのか、シミュレーション結果を出すように求めてきたが、最終的に逃げられた。
 米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、スタッフペーパー(組織の正式文章ではないが所属職員の研究発表)という形でシミュレーション結果を公表している。私は金利が上昇すれば日銀は債務超過になると思っているが、日銀はいろんなケースが想定されるなどとして結果を出さない。
 いろんなケースがあるのは分かるが、債務超過にならないケースがあるなら示して欲しかった。実は、私も日銀は結果を出せないと思っている。出したら市場がパニックになりかねないからだ。
原 本来は市場の信頼を得るためにも、日銀はシミュレーション結果を出すべきだ。財政ファイナンスや日銀の健全性の問題を深刻に受け止めている政治家は、数えるほどしかいない。安倍政権のメンバーを含め、政治家がこの問題を正確に理解しているのか疑わしい。その雰囲気が国会全体を覆い、国民にも伝播(でんぱ)して、なんとなく「このままで大丈夫」という感覚が蔓延している。
藤巻 数年前は、「このままでは危ない」との指摘もあった。いまや危ない水準を超えようとしているのに、悲壮感はなくなっている。

 原 アベノミクスの異次元の金融緩和や財政ファイナンスは、私が予想していたより長持ちしている。株式市場や債券市場の投資家たちは「猫にまたたび」状態で、大量の日銀マネーと永久緩和という“麻薬”に酔いしれてしまっている。アベノミクス開始からすでに7年経ってしまったが、これからさらに10年、20年くらいもつかもしれない。そういう状況で警鐘を鳴らしても「オオカミ少年」とみなされてしまっている。なんだオオカミなんて来ないじゃないか、と。最近では、いくら財政赤字を積み上げても大丈夫だというMMT(現代貨幣理論)の支持者まで増えつつある。
藤巻 日本は計画経済になってしまった。政府は大きいし、結果平等だし、規制が多い社会主義的な国。国債市場では日銀が圧倒的な存在を占める。株式市場も来年には日銀が最大の株主になるかもしれない。世界で金融政策として株を買っている中央銀行はない。不動産投資信託(リート)を購入することで、不動産価格もコントロールしている。
 金融マンだった2000年代まではこんなことはなかった。自由市場であるべきなのに中央銀行がコントロールするのは計画経済。旧ソ連と同じようにしばらくはうまくいっても、いつか無理が来て崩壊する。
原 中国人民銀行だって株までは買っていない。中国の経済学者のなかには「日銀はあまりにも“社会主義的”すぎる」と指摘する声さえあるという。反論できませんね。
藤巻 こんな計画経済の国はない。そこが一番の問題。世界でダントツのビリ成長で、30年前に比べ日本のGDPは1・4倍にしかなっていない。中国は57倍にもなっている。
 スイスやドイツみたいに財政赤字に歯止めをかける「財政均衡法」があれば、こんなことにはならなかった。経済が伸びなければ税収は増えるわけがない。経済が2倍になれば税収も2倍になって、国民も豊かになる。
 バブル経済の1990年と比べるとGDPはほとんど伸びていない。2018年度の一般会計の税収は約60兆円で過去最高になったというが、90年度とほとんど同じ。GDPが膨らまないので税収は増えない。経済の実りを消費増税で国がより多く取っていくので、国民には不満がたまる。
 一方で、歳出は90年度は約69兆円なのにいまは100兆円。税収が同じなのに歳出を増やすので借金がたまる。
 これを解決するには二つしかない。税収が伸びないなら我慢して歳出を抑える。それができないなら、歳出に見合った経済成長をする。日本は世界でもダントツのビリなので、工夫すればもっと成長できると思っている。政治家の役目はビリの理由を考えていかに成長させるかなのに、票につながりにくい長期の成長戦略には積極的でない。
原 20年前と比べても、政府の歳出の中の防衛費や公共事業費、地方交付税交付金などはほとんど増えていない。増えているのは社会保障費と国債費。高齢化が進めば社会保障費が増えるのはやむを得ない。この状況では、私は歳入増のためには増税するしかないと思う。成長させることも必要だろうが、それに頼みすぎた極端な例がアベノミクス。成長で歳入と歳出のつじつまを合わせようとしたが、結局実現できていない。
 異次元の金融緩和や成長戦略を打ち出しても成長できないのなら、これが日本経済の定常状態だと思う方が自然だろう。それに欧州や米国の成長も日本の状況に近づいてきている。過去200年でみると、先進国の1人あたりGDPの実質成長率は、どこも2~3%ほどだそうだ。日本はバブル経済のころまで4%を超えるような高成長をしていた。バブル崩壊以降の成長率が低いのは、それまで成長を前倒しした分の帳尻合わせをしている可能性がある。

藤巻 私は日本はもっと成長できると思っている。財政出動をしたのに成長できなかったという指摘もあるが、財政出動をしたからだめなのではないか。政府がしゃしゃり出てくると、税金をたくさんとらないといけなくなる。小さな政府で何もしなければ、税金は少なくていい。政府が金もうけをして経済成長するのは難しい。本来は規制をなくし、民間活力を使うべきだ。
 財政出動を増やせという議論はいまもあるが、政府が出過ぎた結果がビリ成長で世界最大の財政赤字。国会議員をやっているとわかるが、財政が苦しい時期なのに必要性の低い政策が実行され、政府がどんどん大きくなっている。
 米国と日本の大企業を比べると、収益力が大幅に負けている。民間活力を生かして、企業がもうけられるようにすべきだ。
原 最近の民間企業の設備投資は、人員を減らし効率化するための投資が中心。新しい需要を生み出すための積極的な設備投資は極めて少ない。介護や医療、再生エネルギーなどの分野では消費ニーズはあるのに、思い切った投資をする民間企業がなかなか出てこない。そうなると、やっぱり政府の出番が必要な部分もあるし、インフラの更新のように政府がやらなければいけない投資もある。
藤巻 日本は成長分野が少ないと思われているが、海外の需要を取り込めばいい。中国が強くなったのは通貨の人民元が安くなったおかげ。人民元は10分の1ぐらいに価値が下がったので、世界の工場になった。  為替は値段そのものだ。円高はモノに限らずサービス、賃金が値上がりするということ。日本は円高ゆえに全ての分野で競争力を失った。  先進国が成長しなくなったのは、通貨の安い新興国に経済がシフトしたせい。特に日本は先進国の中でも、円を強くしすぎた。
原 足元の為替相場は円安ドル高にふれすぎているのではないか。たくさん外国人観光客が入ってきて爆買いしている。中国人観光客らはドラッグストアで買いまくっている。日本人も円がかなり高かった時期には、海外旅行先でブランドものなどを爆買いしていた。
藤巻 為替のせいで外国人観光客が増えたわけではないだろう。スイスでも、中国や韓国の観光客が増えている。スイスフランが安いから訪れているのではなく、中国が40年間でGDPが220倍になっているから。人口が変わらなければ1人当たりの所得も220倍になったということ。経済成長すれば、通貨の人民元が安くなったとしても海外旅行を楽しめる。いま日本に外国人観光客が来ているのは、国力が落ちて、世界経済におけるプレゼンスが低下しているためだ。
原 日本人としては日本が強い国であってほしいが、先入観なく考えれば、日本の国力はこんなものかなと思う。日本は30年間ぐらい世界第2位の経済大国でビッグパワーを持った国として存在した。そのおかげで勘違いしてしまった。経済的に見ると、この50年くらいは日本の長い歴史のなかでまれに見る恵まれた時期だったんだろう。
藤巻 私は日本は潜在成長力は高くて、これからも成長できると信じている。政策ミスをしたので、もう一度やり直さなければいけない。何を間違えたのかというと一つは為替政策。根本的なミスは円が強すぎたこと。日本はその重要性に気がつかなかったが、中国は気づいている。もう一つは平等論が強くて競争を否定したこと。結果平等では成長しにくい。
原 この10年の国家全体としての日本の成長率は先進国でビリかもしれないが、国民1人あたり成長率をドルベースでみると米国並みだった。生産年齢人口1人あたりGDPでみると、日本はむしろ欧米よりいい。統計をきちんと分析すると、日本経済はそれほどひどくなかった。

藤巻 通常の国は景気が悪い時は通貨安を求める。米国だけはドルが基軸通貨なので例外。その地位を保つためドルが強くなくてはいけない。基軸通貨だからこそ、ドル紙幣を刷るだけで世界中から何でも買えるというメリットがある。
「通貨戦争」という言葉があるように米国以外は、景気対策として通貨安が極めて有効。なのに、日本の政治家は、円高の方がいいと思っている人が多かった。
 本来、景気が良ければ通貨は強くなる。日本は景気が悪いのに円が強くなったから困ったことになった。通信簿で実力が1なのに最上級の評価5がつくようなもので、ロクなことはない。
 円高で日本の人件費は高くなり、産業が空洞化した。日本人は外国人に仕事を奪われた。
原 円高になれば、仕事は海外に奪われるかもしれないが、日本人の購買力は上がる。より多くのものを海外から買えるようになり、豊かになる。それに比べ、円安は相対的に日本人が貧しくなるように思える。
藤巻 為替は経済の「自動安定装置」で、経済力に応じて変動するべきだった。ジャパンアズNO1という本が出たくらいに日本経済が強かった1979年、当時の米国経済は落ちぶれていた。あの時は1ドルが約240円。その後日本は落ち込み米国が復活したのに、円が強くなり、ドルが弱くなった。そこが問題。為替の変動による自動安定装置が働かず、日本経済が上昇するわけがなかった。
 国内経済力が下がるとよりよい投資先を求めて国内から海外にお金が向かい、通貨安になるのが通常のパターン。ところが日本は海外に投資せず、国内でお金がたまる仕組みになっていた。本来は円安になるべきなのに、構造問題で為替変動ができなかった。
原 たしかに日本は低成長で、米国の方が経済成長率が高いが、詳しく見ると違った風景も見える。米国が成長できてきたのは、インターネット産業などの興隆もあるが、ヒスパニックを中心に移民人口が増えてきたことが大きい。
 それに同じ米国でも業種や地域によっては、ほとんど成長できていないところもある。例えば製造業では、ここ40年でみると、物価換算した実質賃金の伸びはほぼゼロだ。米国は全体として成長しているように見えるが、賃金が伸びず苦しい生活をしている人もたくさんいる。
「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域には、厳しい生活環境の白人労働者が多く、その不満がトランプ大統領が当選する原動力にもなった。
 では、日本も米国と同じように、大量の移民を受け入れて人口を増やすことによって経済成長を目指すのか。私は違う意見だ。いつまでも高成長を追い求めるのではなく、成長はそこそこでも安定した社会を築くほうがいいのではないかと思う。
藤巻 私は米国社会は好きではないところもあるが、経済的に強いのは認めざるを得ない。米国の金持ちは、「どこに投資すればもうかるのか」といった話ばかりしている。日本人の金持ちは、「どうやれば相続税を節約できるのか」という後ろ向きの話ばかり。リスクを取って投資しようとしない。
 日本が弱いのは終身雇用制度も関係している。賃金が上がりにくく、ブラック企業はなくならない。劣悪な環境なら社員が会社を見限って辞めるはずだが、終身雇用のもとで耐えている。雇用が流動化すれば、企業は待遇を改善せざるを得ない。
 外資系金融機関で在日代表兼東京支店長を務めていた時に一番怖かったのは、従業員がある日突然、ごそっと他社に移ってしまうことだった。存立の危機になってしまう。だから待遇改善を図った。
 政府の仕事は経団連に賃上げを要求することではなく、完全雇用の維持と転職市場の整備だ。日本は雇用の分野でも競争がなさ過ぎる。
原 競争はあってもいいが、セーフティーネットも必要だ。個人がいくら頑張っても、うまくいかないこともある。それこそ、このまま政府が財政ファイナンスを続け、いつかその反動で経済危機が来たときに個人ではどうしようもない。

 藤巻 私はXデーに備えよと言い続け、「オオカミ少年」ならぬ「オオカミお爺さん」と言われている。確かにXデーは来ていないので、警告は外れたと思われるかもしれない。だが、これまで危機が来なかったからといって、これからも安全だという証明にはならない。
 私は危機が先延ばしされているだけだと思う。かつて山一証券が破綻したように、損失を“飛ばし”て一時的に見えなくしている。財政ファイナンスは禁じ手中の禁じ手で、まさか政府や日銀がやるとは思っていなかった。常識外のことをやっているから今は平穏に見えるが、ひずみはたまっている。
 長男ケンタに、「政府や日銀の担当者は自分がいるときにXデーを迎えたくないと追い詰められた。『窮鼠、猫を噛む』ではないが、後先考えずに常識外のこともやる。それをよめなかったお父さんは、もうディーラーとしては失格だね」と言われた。
 財政赤字が急速に膨らんでいた時、「政府の赤字と家計の赤字とは意味が違う。政府には徴税権があるからだ」と主張する論者がいた。借金が膨らめばいつかは増税をしなければならないということだ。しかし、国民は消費増税などには猛反対するので、大増税はしにくい。
 政府に残る手段はインフレ税。インフレになってお金の価値が下がれば、政府の借金は実質目減りする。債権者の国民から債務者の国に所得移転が生じるので、増税の別形態といえる、これだけの借金をインフレ税で対応しようとすれば、ハイパーインフレにするしかない。政府には好都合だが、国民にとっては“地獄”のような生活が待っている。
 ハイパーインフレにいったんなってから、それを鎮静させるため政府が取る手段は三つ考えられる。一つ目は法定通貨を円からドルに代えること。これは独立国家としての日本の尊厳を傷つけるからできない。
 二つ目は預金を自由に引き出せなくする預金封鎖と新券発行。終戦直後のハイパーインフレの時は、新券発行が間に合わず、当初は旧券に証紙を貼って対応した。国が密(ひそ)かに新券や証紙を用意しようとしても、ばれたらパニックになって取り付け騒ぎが起きる。みんな自分のお金を守ろうと預金を引き出したり、円を外貨や貴金属などに換えたりするためだ。どうやって国は備えておくのかなと思っていたら、1万円札のデザインを福沢諭吉から渋沢栄一に2024年度から切り替えるという。
 新しい1万円札を準備しておけば、万が一Xデーがすぐ来ても対応できる。いまの福沢諭吉の1万円札を使用中止にして、渋沢栄一の1万円札だけ使えるようにすればいい。引き出せる枚数を制限したり、いまの1万円札と新しい1万円札の交換レートを設定したりすることもできる。もちろん可能性は今の時点では低いし、いざやろうとすると国民の反発を招くが、全くの想定外の話というわけではない。
 三つ目は日銀を実質的に破綻させること。これはドイツでもあったことだ。終戦後に中央銀行のドイツ帝国銀行(ライヒスバンク)がなくなり、ライヒス・マルクは使えなくなった。そして新しくドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)が設立され、ドイツ・マルクを使うようになった。
 中央銀行を破綻させることで、それまで発行してた紙幣の価値を大幅に目減りさせる手法だ。私は日本の鎮静策は、三つ目のケースになるのではないかと思っている。
 いまは憲法で私有財産権が保障され、預金封鎖をするのは極めて難しい。でも、日銀を実質的に破綻させる手法ならできるかもしれない。円は日銀の負債にすぎないからだ。企業が倒産してしまうと、「借金を返済しないのは私有財産権の侵害だ」とは貸し手は主張できない。それと同じだ。
 日銀が債務超過になり信用が失われれば、日銀が発行する紙幣の価値が低下するのは避けられない。みんなが持っているお金が“紙くず”になっても、憲法違反とまでは言いにくいのだ。

原 そう考えると、個人として身を守るのは、外貨資産を持つことぐらいしかないのか。メガバンクはドル資産をたくさん持っているから、国内がハイパーインフレになっても大丈夫かもしれない。すると結局、深刻な被害を受けるのは大多数の国民ということになってしまう。
藤巻 日銀が破綻しても、メガバンクは外貨資産があるので生き残る。個人も外貨に資産を分散させるべきだ。私は外貨資産は保険だと言っている。日本人は給料も預金も年金もすべて円なので、リスクが集中している。
 円高になれば外貨資産は目減りして損をすると心配する人も多いが、いざという時に備える“火災保険料”だと思えばいい。
原 興味深い冊子を紹介しましょう。戦前の1941年に、大政翼賛会が戦費調達のため150万部刷って全国に配った「戦費と国債」だ。ここに書かれていることは、いま「借金をしてでも財政を拡大せよ」と主張している人たちと似通っている。
 例えば財政破綻の懸念について、「国債は国家の借金ですが同時に国民がその貸し手なので、経済の基礎がゆらぐような心配は全然ありません」などと説明している。
 膨れあがる国債は大問題なのに、国民全体の危機意識は高まっていない。いったん財政ファイナンスを始めると、やめることができなくなる。政府の主張通りなら景気拡大は約7年続いているが、この間、日銀は一度も金融政策を引き締めることができなかった。
 これからは米中貿易戦争や国内景気の減速など悪くなる要因が多いのに、異次元の金融緩和の出口に向かえるわけがない。日銀は永久に国債を買い続けるしかなくなっている。米FRBや欧州中央銀行は、いったんは出口に向かおうとした。日銀は出ようという意思さえ示したことがない。
藤巻 多くの人たちは異次元の金融緩和といっても、基本的には以前と同じようなものだと思っている。実際は、「非伝統的金融政策」と言うように、かなり危険な禁じ手をやっている。
 日銀は金利のつかない国債をどんどん買っているので収益力が弱まっている。余力がないので、市場で金利が上昇すれば赤字決算になり、債務超過になる恐れもある。
原 日銀の信用が失われると、資金が一気に海外に流出するキャピタルフライトが起こりうる。そうなると国家そのものがつぶれかねない。一部の危機感がある人たちの間では、資産を海外に移す動きが出ている。
 そうは言っても、大多数の国民は、政府や日銀を信じて資産を円で持っている。私は国民を守るためにも、財政ファイナンスの危険性を地道に訴えて、政府や中央銀行の姿勢を変えさせるべきだと思っている。甘言を疑い、危機感を取り戻さないといけない。
藤巻 強調しておきたいのは、残念ながらXデーが現実になったとしても、日本経済は復活できるということ。日本の財政と日銀は破綻しても、日本そのものがおしまいになるわけではない。ハイパーインフレになり円安になれば、マーケットメカニズムを通じて、経済は回復する。自暴自棄にならず落ち着いて対応すれば、危機が来ても生き延びられる。政府や日銀の言うことを信じて現状から目を背けるのではなく、一人ひとりが自分で考え準備しておくことが大切だ。 (構成 本誌・多田敏男)

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