
国内外金融機関でのキャリアからグローバルビジネスに精通し、世界各国に独自の情報ネットワークを持つ真田幸光氏(愛知淑徳大教授)。
運営するオンラインサロンでも、そうしたネットワークから得られた情報を独自の視点で読み解き、わかりやすい語り口で発信し、好評を博している。
そんな真田氏が情報を分析する際に大切にしているのは、「実際に現地を見て、体感して伝える」ということ。そのために、注目している地域には積極的に足を運ぶようにしているという。
2019年夏に、訪れた地域は「イスラエル」。そこでは、今どんな変化が生まれ、世界にどんな影響を与えているのか――真田氏が現地に赴き、独自の視点から分析した“イスラエルの今”を紹介する。
※本記事は真田幸光オンラインサロン「経済新聞が伝えない世界情勢の深相~真田が現代の戦国絵図を読む~」内で公開された内容より一部を抜粋・編集したものです。
農業、灌漑、ハイテクベンチャーにおいて最先端の技術力を持つ!
世界の動きを体感するために、例年各地を訪問しています。昨年のケニアに続き、今年は、イスラエルを訪問しました。
「日本が連携する国は、英国。新日英同盟の締結を。その日英同盟を基軸として、スイス、イスラエル、シンガポールとDeal by Deal, Case by Caseでの緩やかな連携を!」
と唱えてきた私にとって、イスラエルはぜひ訪問しなければならない国の一つでありました。
まずはイスラエルについての基本的な情報を簡単に説明します。
イスラエルのGDPは、約3700億米ドルです。一人当たりの名目GDPは約42000米ドルと日本よりも多く、先進国として認定される「OECD加盟国」です。ただ、貿易収支は慢性的な赤字で、最新データでも約180億米ドルの赤字となっている点は注目されます。
イスラエルは中東のシリコンバレーとも呼ばれ、インテルやマイクロソフトなど世界的に有名な企業の研究所があります。
また大企業は少ないですが、ベンチャー企業が多いことでも知られています。失敗を恐れない起業家精神に富んだイスラエルの国民性が影響していると考えられています。
そうした新興企業の経営者を上手に束ねているのがネタニヤフ首相です。 イスラエルは約人口900万人の小さな国ではありますが、農業、灌漑、そして様々なハイテク及び電子ベンチャー産業において最先端の技術力を持つとされています。
建国からしばらくは、共同生活と、主導的立場にあった労働シオニズムの影響から社会主義的な経済体制であったとされています。
建国当時は産業基盤もない上に周辺アラブ諸国との戦争状態にあるという悪条件から、苦難を多く抱えていたようです。
その後、ドイツの補償金やアメリカのユダヤ人社会から送られる寄付金など海外からの多額の資金援助を受けて、前述したような分野を軸に経済を発展させていきました。
1980年代後半に入ると、ヨーロッパ諸国及びアメリカと自由貿易協定を結ぶなど自由主義経済へと転換していき、1990年代に加速度的な経済成長をはたします。
GAFAによるイスラエル進出
2001年から2002年にかけて、ITバブルの崩壊とパレスチナ情勢の悪化により経済成長率がマイナスに転じるものの、2003年以降は堅実な成長を続け、2008年のリーマン・ショック以降も基本的にはプラス成長を維持、2010年にはOECDにも加盟しました。
なお、イスラエル経済の発展にはアメリカ政府からの累計で300億米ドル以上という多大な経済援助が大きく寄与しているとの見方がある点、付記しておきます。
1990年には、イスラエルへの直接投資は1.51億米ドル、証券投資はマイナス1.71億米ドルという僅かなものでしたが、それが直接・証券ともに漸増していき、特に1998年から飛躍、2000年には直接投資が52.7億米ドル、証券投資がプラス46.13億米ドルに達しました。
こうした外資の集中投下がイスラエルの経済成長率を回復させ、2011~2013年の間にはアップル、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、アマゾンがイスラエルのベンチャーキャピタルを買収、2012年でイスラエルのベンチャーキャピタル投資額は、総額で8.67億米ドル、英仏独とおよそ等しく、日本やカナダの3/5程度となりました。
国内総生産対比では、イスラエルのベンチャーキャピタル投資は0.36%と米国を上回っています。
砂漠地帯の多さが育んだ先進的な農業技術
また、イスラエルのバイオ、アグリなどの農業技術は先進的であり、国土のほとんどが砂漠または半砂漠で、降雨量も少ないという農業には厳しい環境ながら、食糧のほとんどを自給でき、農産物の輸出も行う農業大国となっています。
少ない水資源を有効に活用するため、水のリサイクルに力を入れ、リサイクル率は70%を超えており、また水の利用効率が高い点滴灌漑を行っています。
そうした設備の制御は、携帯電話などのモバイル機器からも可能であるという点がイスラエルらしい特徴です。さらに、取水も効率的であり、ヨルダン川の流域は3%しかイスラエルを通っていないのに60%を国内需要に充てているといわれています。
そして、なんと海水淡水化にも優れた技術を持ち、2005年以降、地中海沿いに相次ぎ淡水化プラントを設置し、2017年時点ではイスラエルで消費される飲料水の約8割が海水から作られているそうです。車載型の海水淡水化装置も実用化されています。
イスラエルのWatergen社は大気中の水分から飲料水を作る技術を持ち、水道の漏水防止や運営管理などを海外で請け負う企業もあります。
こうしたイスラエルに魅力を感じたインドのモディ首相は、2017年7月に、イスラエルとの間で水・農業分野の協力覚書を結んだほどです。
ダイヤモンドと兵器の輸出が支える経済
ダイヤモンド産業もイスラエル経済を語る上で重要な位置を占めるとされています。
イスラエルはダイヤモンドの流通拠点として世界的に有名であり、研磨ダイヤモンドの輸出額はイスラエルの総輸出額の約4分の1を占めています。
イスラエルはダイヤモンド産業を政府主導で基幹産業へと発展させてきました。その産業の確立にはユダヤ系資本のデビアスが貢献しました。
また、倫理観的には疑問視されますが、イスラエルは、兵器産業にも注力し、経済に大きな影響を与えています。
高度な技術の民間転用がハイテク産業を急成長させ、また兵器の輸出が直接的な収入源でもあるのです。少し古いデータですが、2010年時点では兵器製造企業は約200社ほど存在しているそうです。
鉱業に目を向けると、イスラエルの鉱業を支えているのは、カリ塩とリン鉱石です。金属鉱物は採掘されていません。有機鉱物では亜炭、原油、天然ガスを産出するものの、国内消費量の1%未満に留まっています。
なお、天然ガスについては、イスラエル沖の東地中海に大規模ガス田が発見されており、ギリシャの企業が2019年にも採掘を始める計画であると見られています。
人口増加がもたらしたテルアビブの現状

さて、私はこのイスラエルに約1週間、滞在しました。
旅のスタートは「テルアビブ」。これは、「遺跡の丘」という言葉と、新しいものを迎える季節である「春」を意味する言葉を繋げた名前です。
この街の名前には、「古きものと新しきもの、それぞれを大切にする」というイスラエルの人々の思いが込められているそうです。
テルアビブのインフラは先進国としての整備がなされています。通信には特段の問題もありませんでしたが、「道路面積に対する自動車台数の多さ」と、「鉄道整備の遅れ(因みに、トルコと中国本土に鉄道開発を任せてきているが、企画などの問題で既に3年程度遅延しているとのこと)」など、交通インフラに課題を感じました。
テルアビブをはじめとするイスラエル国内各地の主要都市では、人口増加に街が追いつかず、庶民たちから 「一生かかっても自分の家が持てない国などおかしい」との不満が出ています。
現在はテルアビブでも、高層マンションの建設に政府も力を入れているそうです。実際、街中には建設された、また建設中のマンションが見えていました。
なお、テルアビブでは、ロスチャイルドのようなグローバルビッグビジネスを得意とするユダヤ系の人よりも、ファミリービジネスを軸とするスモールビジネスを得意とするユダヤ系の人のほうが総じて多いとの話も現地で出ていました。
イカ、エビ、タコを口にしてはいけない
テルアビブの街には、直ぐに地中海が面しています。
私たちが入った日は、安息日を開けたばかりの穏やかな1日が始まっており、活気ある街という印象を持ちました。
治安の良さも際立っており、そのたとえとして「街中に忘れ置かれた荷物があると爆弾処理チームがいつの間にか現れ、処理していくほどである」との説明がなされていました。もちろん、戦闘地域は危険ですし、また、旧市街の一部にはスリがいるようです。
この国にはイスラム系の人もいて、世界的趨勢と同様に人口増加率はユダヤ系の人よりも高いそうですが、当然にこのイスラエルという国の中心は 「ユダヤ教徒」です。
イスラエルにおけるユダヤ教徒とは、ユダヤ教を信じ、ヘブライ語を理解する人、一方、アラブ人は単純にアラビア語を使う人々と言う理解が、まずはなされているそうです。
ユダヤ教徒は、教義を守りつつ、ユダヤ人としてのアイデンティティを守ることを強く意識しています。
特に「十戒にも記されている安息日」や「ユダヤ教による食事のルールとなるコーシェル」を守ることによってユダヤ教、そしてユダヤ人のアイデンティティを守り通してきていることが、このツアーで改めて感じられました。
この「コーシェル」の規定では、イカやエビやタコなどを口にすることはできません。
例えば、ホテルなどの大衆が集まるところで、日本人が好きな「のしいか」でも食べようものなら、本人のみならず、そうした旅行者を受け入れたホテルまで、ユダヤ教を守る規制委員の人に罰せられることもあるそうです。