新型コロナ不況が浮き彫りにした「韓国経済の最大の弱点」とは?
文春オンライン2020年05月02日08時55分
4月15日に行われた韓国の総選挙では、文在寅政権を支える与党「共に民主党」など文在寅大統領を支持する勢力が300議席のうち、過半数を上回る180議席を獲得し、圧勝した。
韓国国民は、文在寅政権の新型コロナウイルスへの対応を高く評価し、国難を乗り越えるために変化より安定を選択した。
この結果、文在寅政権は議会での主導権を握ることになり、安定的な国会運営が可能となった。
しかし、新型コロナウイルスの影響により、しばらくの間世界経済が減速することを考えると、輸出など対外依存度が高い韓国経済の今後はかなり厳しいと予想される。
これから文在寅政権が直面するであろう韓国経済の現状を分析していきたい。
通貨問題という“弱点”
韓国の中央銀行である韓国銀行は3月19日、アメリカの米連邦準備理事会(FRB)と600億ドル規模の通貨スワップ協定(以下、通貨スワップ)を締結したと発表した。
通貨スワップ協定とは、自国の通貨の暴落というような緊急事態、つまり通貨危機が発生した際に、あらかじめ協定を結んだ相手国との間で、自国通貨と引き換えに相手国の通貨を融通してもらうことである。
韓国政府がアメリカと通貨スワップを締結するのは今回が2回目。
1回目はリーマンショックによるグローバル金融危機があった2008年10月で、金額は300億ドルであった。
今回、韓国政府がリーマンショック以来というアメリカとの「通貨スワップ」に動き出した理由は、新型コロナウイルスの影響によるウォン安ドル高の進行、株価の暴落等の金融市場の不安とドル資金の逼迫感を解消し、資金流出と通貨下落を防ぐためである。
実際、韓国で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認された1月20日には1ドル=1160ウォンであった為替レートは、米韓通貨スワップ前日の3月18日には1ドル=1261ウォンまで下落。
さらに、2月までは2000を上回っていた株価指数(KOSPI)も3月19日には1458まで暴落していた。
3月19日にアメリカと通貨スワップを締結してから金融市場に対する不安が解消された後、株価は少しずつ上昇し、ウォン安も止まるなど金融市場は安定化され始めた。
また、アジア危機があった1997年末に89億ドルであった外貨準備高は2020年3月末時点には4002億ドルまで増加した。
通貨スワップで確保したドルと外貨準備高の合計額はおよそ約6000億ドルに至った。
なぜさらに外貨準備高を増やしたいのか
このように大きな改善が見られたものの、韓国政府はさらに外貨準備高を増やす政策を続けている。
丁世均首相は今年の3月27日に開かれた記者懇談会で「(米国に続き)日本との通貨スワップも行われることが正しいと考える」と発言するなど再開に意欲を示した。
一方、日本の麻生太郎副総理兼財務相は、韓国側から「協定の再開を要求する声があるが、どうする考えか」という質問に対し、「仮定の質問には答えられない」と冷たい対応に終始した。
日本と韓国の間の通貨スワップは2001年7月に20億ドル規模で始まり、2011年には700億ドルまで徐々に拡大したが、2012年に韓国の李明博元大統領の竹島(韓国名:独島)上陸をきっかけに日韓関係が悪化したため2015年2月に終了していた。
なぜ韓国政府は、そんな経緯のある日本との通貨スワップを持ち出してまで、外貨準備高を増やそうとしているのか?
その一つ目の理由は韓国の通貨がドルや円のような基軸通貨ではないからである。
アメリカや日本のような先進国は外貨が足りなくなった場合、量的緩和を実施し、通貨を発行することで外貨不足の問題を解決することができる。
しかしながら、自国の通貨が基軸通貨ではない韓国のような新興国は、外貨が足りなくなると他の国から外貨を借りなければならない。
外貨が借りられないと通貨危機に直面することになる。
1997年のアジア通貨危機がその良い例である。当時、韓国では、ウォンの急落により外貨で借りていた借金が膨らんだ。
外貨準備高は39.4億ドルしかなく、海外からの資金は引きあげられ、外貨を借りることもできなかった。
結局、韓国はIMFに緊急支援を要請することになった。
そして、二つ目の理由に、現在保有している外貨準備高が十分ではないと韓国政府が判断している点を挙げられる。
最近、韓国の学会で発表されたある論文では、韓国の外貨準備高の適正水準は、IMF基準を適用すると6810億ドル、BIS基準を適用すると8300億ドルであると推計されている。
この推計結果と比べると韓国の外貨準備高は適正水準を大きく下回っているのだ。
IMF基準やBIS基準には短期対外債務額や外国人投資家の株式保有額などが含まれている。
短期対外債務額は短期間に返済する必要があり、外国人投資家が保有している株式は、韓国の景気が悪くなるとすぐ売買され、資本が海外に流出する可能性が高い。
もちろんこの推計結果に反対する声も少なくないが、短期対外債務の対外貨準備高比は低下傾向だが、まだ3割以上(2019年32.9%)を占めている。
また、外国人投資家の株式保有額は年々増加傾向にあり、外国人投資家の株式保有比率(金額基準)は2019年時点で33.3%に達しているのは事実である。
韓国政府にとっては、依然として通貨スワップに頼らざるを得ない状況なのだ。
高い貿易依存度という負担
さらに、今後の韓国経済に大きな影響を与えるのが、新型肺炎の感染拡大による輸出の減少だ。
中国経済への貿易依存度が高い韓国経済にマイナスの影響を与えることは確かである。
昨年、韓国経済は米中貿易戦争の長期化の影響などを受け、輸出が減少し、年間経済成長率(実質)は2.0%に留まった。四半期別では2度も経済成長率がマイナスになった。
今年も米中貿易摩擦が続くと、韓国経済の回復は厳しいと予想されていた。
しかしながら、1月15日にアメリカと中国が、貿易戦争の緊張緩和を目的とした合意文書に署名したことにより、韓国国内では景気底打ちへの期待感が高まっていた。
このような状況の中で中国を震源地とした新型肺炎の拡大は韓国経済にとって大きな痛手に違いない。
ムーディーズは、3月6日に発行した報告書で、韓国の今年の実質経済成長率を既存の1.9%から1.4%に0.5ポイント引き下げた。
さらに、新型コロナウイルスにより広範囲で長期的な不況が続いた場合、韓国の今年の経済成長率は0.8%まで急落する可能性があると見通した。
また、スタンダード&プアーズも3月23日に発表した報告書で、今年の経済成長率がマイナス0.6%まで落ち込むと予想。
IMFも4月14日に今年の韓国の経済成長率の見通しをマイナス1.2%へと下方修正した。
このように海外の信用格付会社やIMFが韓国の経済成長率の見通しを大きく引き下げたのは、
韓国経済が内需より交易や輸出に大きく依存していることと、主な交易相手である中国やアメリカを含む世界経済が新型コロナウイルスの影響により大きく減速する可能性が高いからだろう。
韓国における2018年時点の貿易依存度(GDPに対する貿易額の比率)と輸出依存度(GDPに対する輸出額の比率)は、それぞれ66.25%と35.15%で、日本の28.18%と14.37%を大きく上回っている。
さらに、韓国経済は中国への依存度が高く、2019年基準で輸出額の25.1%、輸入額の21.3%を中国が占めており、2位のアメリカ(輸出13.5%、輸入12.3%)と大きな差が出ている。
サプライチェーンが一国に偏りすぎると、何か問題が発生した際のリスクが大きい。
今回も新型コロナウイルスの影響で中国から部品が供給されず、多くの工場が生産を中断するなど被害が拡大している。
文政権の経済対策は何が問題か
では、韓国国内の経済政策はどうなっているのか。
文在寅政権の経済政策の柱は、所得主導成長、公正経済、革新成長であり、この中でも所得主導成長が重視されてきた。
所得主導成長とは、家計の所得を増やすことにより消費を増やし、経済を成長させる政策である。
文在寅政権は、所得主導成長政策の一環として、所得不平等を解消し家計の所得を増やすために最低賃金を大幅に引き上げる政策を行った。
しかしながら、最低賃金を2年間で29%も引き上げた結果、経営体力の弱い自営業者は、人件費負担増に耐えかねて雇用者を減らした。
また、一部のコンビニや食堂では週休手当が発生しないようにアルバイトの時間を週15時間未満に制限した。
最低賃金の引き上げにより一部の労働者の所得水準は改善されたものの、零細な自営業者や小規模な商工業者の経営状況はさらに厳しくなった。
さらに、最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合である未満率は15.5%まで上昇した。
一方、長時間労働を解消し、新しい雇用を創出するために時間外労働の上限を規制する「週52時間勤務制」も実施された。
一部の労働者は残業時間が減ることにより、ワーク・ライフ・バランスが実現しやすくなり、また新しい雇用も生まれた。
しかしながら労働時間の制限により賃金が大きく減少してしまう労働者も現れることとなった。
特に、製造業で働く労働者の場合は生活水準を維持するために時間外労働をするケースが多かったので、時間外労働の上限規制による打撃は大きかった。
また、与えられた時間内に仕事が終わらず、仕事を持ち帰り家やカフェなどで仕事をする隠れ残業も増加した。
こうした背景の中、2019年の失業率は3.8%まで上昇し、非正規労働者の割合も36.4%まで上昇した。所得格差も拡大傾向にある。
このような厳しい状況の中で、文在寅大統領にとって追い風となったのが、2月29日には909人まで増加した新型コロナウイルスの1日の感染者数の減少だ。
具体的には、軽症者を隔離する「生活治療センター」の設置により医療崩壊を防ぎ、ドライブスルー検査をはじめとする積極的な検査対策により感染拡大を最小化したことなどが評価された。
その結果3月1週目には48.1%まで低下した大統領の支持率は4月1週目には53.7%まで上昇し、冒頭で紹介したとおり、4月15日に行われた総選挙では、文在寅大統領を支持する勢力が圧勝することになった。
文政権は経済政策の修正を
しかし、経済成長、格差税制など、文在寅政権が解決すべき経済的な課題は山積している。
これまで分析してきたとおり、新型コロナウイルスの影響により、対外依存度が高い韓国経済の今後は厳しい。
さらに所得主導成長論に基づいたばらまき政策が続くことが予想され、財政赤字が大きく拡大されるのではないか心配だ。
したがって、文在寅大統領は、所得主導成長論を中心とした経済政策を抜本的に修正し、規制を緩和するなど企業が投資しやすく、また、成長できる環境を構築すべきである。
残りの2年という限られた時間の中で、何をすれば国民の満足度がより高まるのか、慎重に考えて行動に移す必要がある。文在寅大統領の指導力や力量が問われるところである。
(金 明中/Webオリジナル(特集班))
文春オンライン2020年05月02日08時55分
4月15日に行われた韓国の総選挙では、文在寅政権を支える与党「共に民主党」など文在寅大統領を支持する勢力が300議席のうち、過半数を上回る180議席を獲得し、圧勝した。
韓国国民は、文在寅政権の新型コロナウイルスへの対応を高く評価し、国難を乗り越えるために変化より安定を選択した。
この結果、文在寅政権は議会での主導権を握ることになり、安定的な国会運営が可能となった。
しかし、新型コロナウイルスの影響により、しばらくの間世界経済が減速することを考えると、輸出など対外依存度が高い韓国経済の今後はかなり厳しいと予想される。
これから文在寅政権が直面するであろう韓国経済の現状を分析していきたい。
通貨問題という“弱点”
韓国の中央銀行である韓国銀行は3月19日、アメリカの米連邦準備理事会(FRB)と600億ドル規模の通貨スワップ協定(以下、通貨スワップ)を締結したと発表した。
通貨スワップ協定とは、自国の通貨の暴落というような緊急事態、つまり通貨危機が発生した際に、あらかじめ協定を結んだ相手国との間で、自国通貨と引き換えに相手国の通貨を融通してもらうことである。
韓国政府がアメリカと通貨スワップを締結するのは今回が2回目。
1回目はリーマンショックによるグローバル金融危機があった2008年10月で、金額は300億ドルであった。
今回、韓国政府がリーマンショック以来というアメリカとの「通貨スワップ」に動き出した理由は、新型コロナウイルスの影響によるウォン安ドル高の進行、株価の暴落等の金融市場の不安とドル資金の逼迫感を解消し、資金流出と通貨下落を防ぐためである。
実際、韓国で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認された1月20日には1ドル=1160ウォンであった為替レートは、米韓通貨スワップ前日の3月18日には1ドル=1261ウォンまで下落。
さらに、2月までは2000を上回っていた株価指数(KOSPI)も3月19日には1458まで暴落していた。
3月19日にアメリカと通貨スワップを締結してから金融市場に対する不安が解消された後、株価は少しずつ上昇し、ウォン安も止まるなど金融市場は安定化され始めた。
また、アジア危機があった1997年末に89億ドルであった外貨準備高は2020年3月末時点には4002億ドルまで増加した。
通貨スワップで確保したドルと外貨準備高の合計額はおよそ約6000億ドルに至った。
なぜさらに外貨準備高を増やしたいのか
このように大きな改善が見られたものの、韓国政府はさらに外貨準備高を増やす政策を続けている。
丁世均首相は今年の3月27日に開かれた記者懇談会で「(米国に続き)日本との通貨スワップも行われることが正しいと考える」と発言するなど再開に意欲を示した。
一方、日本の麻生太郎副総理兼財務相は、韓国側から「協定の再開を要求する声があるが、どうする考えか」という質問に対し、「仮定の質問には答えられない」と冷たい対応に終始した。
日本と韓国の間の通貨スワップは2001年7月に20億ドル規模で始まり、2011年には700億ドルまで徐々に拡大したが、2012年に韓国の李明博元大統領の竹島(韓国名:独島)上陸をきっかけに日韓関係が悪化したため2015年2月に終了していた。
なぜ韓国政府は、そんな経緯のある日本との通貨スワップを持ち出してまで、外貨準備高を増やそうとしているのか?
その一つ目の理由は韓国の通貨がドルや円のような基軸通貨ではないからである。
アメリカや日本のような先進国は外貨が足りなくなった場合、量的緩和を実施し、通貨を発行することで外貨不足の問題を解決することができる。
しかしながら、自国の通貨が基軸通貨ではない韓国のような新興国は、外貨が足りなくなると他の国から外貨を借りなければならない。
外貨が借りられないと通貨危機に直面することになる。
1997年のアジア通貨危機がその良い例である。当時、韓国では、ウォンの急落により外貨で借りていた借金が膨らんだ。
外貨準備高は39.4億ドルしかなく、海外からの資金は引きあげられ、外貨を借りることもできなかった。
結局、韓国はIMFに緊急支援を要請することになった。
そして、二つ目の理由に、現在保有している外貨準備高が十分ではないと韓国政府が判断している点を挙げられる。
最近、韓国の学会で発表されたある論文では、韓国の外貨準備高の適正水準は、IMF基準を適用すると6810億ドル、BIS基準を適用すると8300億ドルであると推計されている。
この推計結果と比べると韓国の外貨準備高は適正水準を大きく下回っているのだ。
IMF基準やBIS基準には短期対外債務額や外国人投資家の株式保有額などが含まれている。
短期対外債務額は短期間に返済する必要があり、外国人投資家が保有している株式は、韓国の景気が悪くなるとすぐ売買され、資本が海外に流出する可能性が高い。
もちろんこの推計結果に反対する声も少なくないが、短期対外債務の対外貨準備高比は低下傾向だが、まだ3割以上(2019年32.9%)を占めている。
また、外国人投資家の株式保有額は年々増加傾向にあり、外国人投資家の株式保有比率(金額基準)は2019年時点で33.3%に達しているのは事実である。
韓国政府にとっては、依然として通貨スワップに頼らざるを得ない状況なのだ。
高い貿易依存度という負担
さらに、今後の韓国経済に大きな影響を与えるのが、新型肺炎の感染拡大による輸出の減少だ。
中国経済への貿易依存度が高い韓国経済にマイナスの影響を与えることは確かである。
昨年、韓国経済は米中貿易戦争の長期化の影響などを受け、輸出が減少し、年間経済成長率(実質)は2.0%に留まった。四半期別では2度も経済成長率がマイナスになった。
今年も米中貿易摩擦が続くと、韓国経済の回復は厳しいと予想されていた。
しかしながら、1月15日にアメリカと中国が、貿易戦争の緊張緩和を目的とした合意文書に署名したことにより、韓国国内では景気底打ちへの期待感が高まっていた。
このような状況の中で中国を震源地とした新型肺炎の拡大は韓国経済にとって大きな痛手に違いない。
ムーディーズは、3月6日に発行した報告書で、韓国の今年の実質経済成長率を既存の1.9%から1.4%に0.5ポイント引き下げた。
さらに、新型コロナウイルスにより広範囲で長期的な不況が続いた場合、韓国の今年の経済成長率は0.8%まで急落する可能性があると見通した。
また、スタンダード&プアーズも3月23日に発表した報告書で、今年の経済成長率がマイナス0.6%まで落ち込むと予想。
IMFも4月14日に今年の韓国の経済成長率の見通しをマイナス1.2%へと下方修正した。
このように海外の信用格付会社やIMFが韓国の経済成長率の見通しを大きく引き下げたのは、
韓国経済が内需より交易や輸出に大きく依存していることと、主な交易相手である中国やアメリカを含む世界経済が新型コロナウイルスの影響により大きく減速する可能性が高いからだろう。
韓国における2018年時点の貿易依存度(GDPに対する貿易額の比率)と輸出依存度(GDPに対する輸出額の比率)は、それぞれ66.25%と35.15%で、日本の28.18%と14.37%を大きく上回っている。
さらに、韓国経済は中国への依存度が高く、2019年基準で輸出額の25.1%、輸入額の21.3%を中国が占めており、2位のアメリカ(輸出13.5%、輸入12.3%)と大きな差が出ている。
サプライチェーンが一国に偏りすぎると、何か問題が発生した際のリスクが大きい。
今回も新型コロナウイルスの影響で中国から部品が供給されず、多くの工場が生産を中断するなど被害が拡大している。
文政権の経済対策は何が問題か
では、韓国国内の経済政策はどうなっているのか。
文在寅政権の経済政策の柱は、所得主導成長、公正経済、革新成長であり、この中でも所得主導成長が重視されてきた。
所得主導成長とは、家計の所得を増やすことにより消費を増やし、経済を成長させる政策である。
文在寅政権は、所得主導成長政策の一環として、所得不平等を解消し家計の所得を増やすために最低賃金を大幅に引き上げる政策を行った。
しかしながら、最低賃金を2年間で29%も引き上げた結果、経営体力の弱い自営業者は、人件費負担増に耐えかねて雇用者を減らした。
また、一部のコンビニや食堂では週休手当が発生しないようにアルバイトの時間を週15時間未満に制限した。
最低賃金の引き上げにより一部の労働者の所得水準は改善されたものの、零細な自営業者や小規模な商工業者の経営状況はさらに厳しくなった。
さらに、最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合である未満率は15.5%まで上昇した。
一方、長時間労働を解消し、新しい雇用を創出するために時間外労働の上限を規制する「週52時間勤務制」も実施された。
一部の労働者は残業時間が減ることにより、ワーク・ライフ・バランスが実現しやすくなり、また新しい雇用も生まれた。
しかしながら労働時間の制限により賃金が大きく減少してしまう労働者も現れることとなった。
特に、製造業で働く労働者の場合は生活水準を維持するために時間外労働をするケースが多かったので、時間外労働の上限規制による打撃は大きかった。
また、与えられた時間内に仕事が終わらず、仕事を持ち帰り家やカフェなどで仕事をする隠れ残業も増加した。
こうした背景の中、2019年の失業率は3.8%まで上昇し、非正規労働者の割合も36.4%まで上昇した。所得格差も拡大傾向にある。
このような厳しい状況の中で、文在寅大統領にとって追い風となったのが、2月29日には909人まで増加した新型コロナウイルスの1日の感染者数の減少だ。
具体的には、軽症者を隔離する「生活治療センター」の設置により医療崩壊を防ぎ、ドライブスルー検査をはじめとする積極的な検査対策により感染拡大を最小化したことなどが評価された。
その結果3月1週目には48.1%まで低下した大統領の支持率は4月1週目には53.7%まで上昇し、冒頭で紹介したとおり、4月15日に行われた総選挙では、文在寅大統領を支持する勢力が圧勝することになった。
文政権は経済政策の修正を
しかし、経済成長、格差税制など、文在寅政権が解決すべき経済的な課題は山積している。
これまで分析してきたとおり、新型コロナウイルスの影響により、対外依存度が高い韓国経済の今後は厳しい。
さらに所得主導成長論に基づいたばらまき政策が続くことが予想され、財政赤字が大きく拡大されるのではないか心配だ。
したがって、文在寅大統領は、所得主導成長論を中心とした経済政策を抜本的に修正し、規制を緩和するなど企業が投資しやすく、また、成長できる環境を構築すべきである。
残りの2年という限られた時間の中で、何をすれば国民の満足度がより高まるのか、慎重に考えて行動に移す必要がある。文在寅大統領の指導力や力量が問われるところである。
(金 明中/Webオリジナル(特集班))