韓国が求める輸出規制強化の撤回、日本が呑めぬ理由
貿易管理の問題を再び元徴用工の問題にすり替えさせてはならない
2020.5.20(水) 武藤 正敏
(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
文在寅政権は、日韓関係において歴史問題にこだわり、元慰安婦問題、元朝鮮半島出身労働者問題(いわゆる「徴用工」問題)など、既に解決済みの問題を繰り返し持ち出し、日本側から新たな譲歩を引き出そうとしてきた。
しかし、こうした問題は日韓請求権問題の根幹に触れる問題であり、日本側が取り合うはずもなく、現在も宙に浮いたままの状態となっている。
尹美香疑惑に当惑する韓国の政府与党
そうした中、元慰安婦・李容洙(イ・ヨンス)さんが、正義記憶連帯(以下「正義連」。
旧称・韓国挺身隊問題対策協議会[挺対協])の尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長が寄付金を慰安婦のために使わず、私的に流用したのではないか等の疑惑を提起したため政府与党は当惑した状態になっている。
当初、与党は正義連とその元理事長を庇う姿勢をとり、
「この問題を積極的に取り上げるのは親日勢力の野党・未来統合党と保守メディアだ」と逆に批判するような有様だったが、
尹氏の疑惑が深まるにつれ、このまま静観できないとの雰囲気が広がってきた。
市民団体の告発を受け検察が動き出したことも、政府与党を焦らせたはずだ。
これまで、国内で政権に対する問題が持ち上がると、国内世論を宥めるため、韓国政府与党は「親日批判」と「反日」を利用してきた。
こうした見地に立つと、日本の韓国への輸出規制強化の問題はこれまで固有の貿易管理の問題として通商当局の間で対話を進めてきたわけだが、そこで片付かないとなると、再び元徴用工問題の報復との議論にすり替えてくる可能性もある。
それは日本としては看過できない事態となる。
貿易管理の問題が燃え上ったのは1年前であるので、詳細を忘れてしまった読者も少なくないと思う。
そこで、当時の経緯を含め、その後の対話、韓国における制度是正の動き、現在の両国の立場、そして残された問題について解説してみよう。
輸出規制強化の問題は韓国の杜撰な貿易管理を是正する問題
韓国の成允模(ソン・インモ)産業通商資源部長官は今年の3月6日、日本が韓国に対する輸出規制の強化の理由として挙げた事項をすべて解消したとして、日本に規制強化措置の撤回を強く求めてきた。
日本政府は昨年7月に半導体・ディスプレー材料であるフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト(感光材)の3品目の韓国への輸出規制を強化し、8月には輸出管理の優遇対象である「グループA(ホワイト国)」から韓国を除外した。
日本はその理由として
(1)両国間の輸出管理に関する政策対話が3年間開かれておらず、信頼関係が損なわれたこと、
(2)通常兵器に転用される可能性がある物質の輸出を管理するキャッチオール規制の法的根拠の不備、
(3)輸出管理体制、人員の脆弱性を挙げていた。
成長官は、規制強化の撤回を求めるにあたり、「この5か月間、両国の輸出管理当局は課長級会議や局長級の政策対話などを通じ、韓国の輸出管理に関する法規定、組織、人員、制度などについて十分に説明し、両国の輸出管理に対する理解を深めて十分な信頼を構築した」と述べた。
実際、韓国国会では、輸出管理の実効性を高める対外貿易法改正案が成立した。
これによって戦略物資の輸出許可に関する条文に、大量破棄兵器とともに「通常兵器」も厳しく審査することを明記した。
早ければ6月にも施行される。
その後4月には産業通商資源部内に貿易安保政策官の下に30人規模の組織を設けた。
こうした体制整備を行ったうえで、同部の李浩鉉(イ・ホヒョン)貿易政策官は5月12日の会見で、日本は韓国に対する3品目の輸出規制とホワイト国除外に関する立場を今月末までに明らかにすべきと主張した。
韓国政府は、日本の輸入規制が施行された後、「これは日本による元徴用工問題に対する報復だ」として反発し、韓国として日本への輸出規制、WTOへの提訴といった報復措置を取るとともに、日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)廃棄の動きを見せてきた。
なお、GSOMIA廃棄については米国介入により条件付きで期限を延長することになった。
その後、日韓はGSOMIAの扱いをめぐる協議の中で、輸出管理に関する対話を行うことになった。
当初韓国側は「日本の輸出規制強化撤回に関する協議だ」と主張し、日本側は「貿易管理に関する政策対話だ」と主張してかみ合わなかった。
しかし、韓国側は日本側に規制強化撤回を促すため貿易管理体制の整備を行った。
韓国は、これまで日韓の交渉では自国の国民感情を背景に、日本側に譲歩を迫ることがほとんどで、韓国側が客観的に日韓関係の相互利益に沿った対応をしたことは極めて珍しかった。
しかし、この輸出規制問題は歴史問題と異なり、国民感情を刺激する問題ではなく、ビジネスライクに現実的な対応をしたのだろう。
その点では、韓国側の対応と努力は評価してもいいのだろう。
日本側の規制強化撤廃を求めた「最後通牒」
しかし、日本側から色よい返事が得られないと悟ると、韓国側は最後通牒のように今月末までの規制緩和を求めてきた。
その理由として、次の2点が考えられる。
第一に、韓国が条件付きでGSOMIA延長を決めたのが昨年11月であり、それから6か月経つ。
この時点で、日本が規制強化を撤回する可能性があるか最終的に打診する必要があると考えた可能性がある。
韓国政府はこれまで水面下で対話を進めてきたが、日本側に誠意は見えないと受け止めている。
GSOMIAの終了の判断をこれ以上延ばしても成果はないと考えたのだろう。
第二に、新型コロナや米中の対立によって輸出が厳しくなっている韓国企業にとって、将来への不安を少しでも取り除きたいと考えた可能性だ。
米中対立によって、米国の対ファーウェイ制裁がメモリー半導体にまで拡大すれば、サムスンとSKハイニックスが直撃を受ける可能性があるからだ。
韓国は戦略物資の管理をどう運用しているか
しかし、日本側は制度の運用実態を見極めてから輸出優遇国に戻すかどうかを慎重に見極める対応だ。
特に文在寅政権は日米韓の連携よりも中朝に寄り添う姿勢であり、戦略物資が両国に不正に輸出されている可能性が排除できない。
そもそも日本政府が韓国に対する輸出規制強化に動いたのは、当初の3品目について不適切な再輸出の疑いをつかんだからである。
また、戦略物資について「ホワイト国」から除外したのは、韓国から戦略物資が無許可で流出した不正輸出案件が韓国側の資料で明らかになっているからである。
韓国産業通商資源部が国会議員に提供した資料によれば、2015年から19年3月までに156件の不正輸出があった。
これは核兵器や生物化学兵器の製造に利用可能な物質を含むものであり、
流出先は中国が最も多く、ほぼすべての東南アジア各国、ロシア、インド、パキスタン、イラン、シリア、アラブ首長国連邦などである。
これらの中には北朝鮮との関係が緊密な国々がいくつも含まれており、
北朝鮮にこうした物資が流れていれば日本の安全保障上大きな懸念材料となる。
しかし韓国は、こうした物資が韓国からさらに北朝鮮に輸出されたのではないかとの指摘について、「日本が一方的に嫌疑をかけたものである」と反発している。
ただ、北朝鮮に流れた疑いを晴らすべきは韓国であり、日本に反発するのは筋違いである。
韓国はそもそも自主的にどの企業が関与し、どの国に再輸出され、何に使われたかの実態を調査し、日本に報告すべき問題である。
日韓の政策対話の中で果たしてこれが行われたのか。
行われていないとすれば、いかに組織や人員を強化しても、北朝鮮に強く寄り添い、中国には何も言えない韓国なのだから、「きちんと運用されているし、今後も運用されるであろう」と日本は確信できない。
梶山経済産業大臣は記者団の質問に15日、「引き続き様々なレベルで対話していく」と答えたが、これは「韓国側の対応はまだ十分でない」との立場を明らかにしたものだ。
北朝鮮の軍事技術の飛躍的向上の影に「韓国の技術」使用疑惑
朝鮮日報に、尹徳敏(ユン・ドンミン)元外交安保研究委員長が寄稿したところによれば、
昨年5月から北朝鮮が再三試射してきた長射程放射砲と短距離ミサイルが10年前延坪島を奇襲攻撃した北朝鮮軍からは想像できないほど飛躍的な進歩を遂げているのは米国や韓国の技術が流出しているとしか思えないという。
そのため、「延坪島の後、北朝鮮のハッキング部隊は韓国の国防科学研究所、国防部、国防関連企業に対する大々的なハッキング工作を展開した。
韓国国民を守るために開発された韓国の技術が北朝鮮に渡り、北朝鮮軍砲兵勢力の技術的急進の実現に用いられたと推定される。
また、少し前、国防科学研究所の研究員らが、機密を大量に国内外に持ち出したという報道もあった」というのである。
さらに韓国は、北朝鮮に対し輸出が禁止されている原油の海上における「瀬取り」の取り締まりを怠っている。
また最近では、陸海空軍による大規模合同火力訓練の実施予定だったのを、来月に延期したが、これは北朝鮮の非難を受けた青瓦台が「北朝鮮の顔色を窺い」延期することを指示したものだという。
このように政権発足以来続いている北朝鮮に対する一方的な接近姿勢は、韓国が北朝鮮の不法行為を取り締まれない実情を反映している。
さらに中国に対しては、習近平国家主席の年内訪韓を求め、その際THAADをめぐる報復措置を撤回してもらうことに汲々として、何も言えない。
このような韓国の実情は、気の毒なくらい卑屈である。
発足以来一貫して中朝に接近しようとしている文政権は、日米から離れ、「レッドチーム入り」することが懸念されている。
こうした状況では、いくら貿易管理の体制を高めても実行が伴わない恐れが強い。
日本が輸出管理の在り方を「ホワイト国」前の状況に戻せるのはこうして懸念が晴れてからである。
輸出管理の問題が再び日韓の政治問題に
日本が輸出規制強化の撤回に動かない場合、果たして韓国はどのように対応するだろうか。
月末までに日本側の対応がない場合、韓国はWTO提訴手続きを再開したり、GSOMIAカードを再び取り出したりする可能性がある。
新型コロナ対策で日韓ともに直近の経済の落ち込みが深刻となる中、日韓の対立が深まれば、経済にとってさらなる悪材料となるだろう。
総選挙後の文在寅政権は、歴史問題でいっそう対日強硬に転じる可能性がある。
『文在寅の謀略―すべて見抜いた』(武藤正敏著、悟空出版)
文大統領は先の総選挙で、新型コロナを封じ込めた成果によってこれまでの3年間の失政を問われることなく、圧勝し政治的な主導権を握った。
特に新型コロナの問題では、
監視カメラの活用、電話基地局とクレジットカードの情報を提供させ、
国民のプライバシーを犠牲にした強権的手法で新型コロナを封じ込めたが、
これも国民の支持も集めており、いっそうの“独裁体制”を確立したと言ってよい。
そうした独裁的手法を今度は日韓関係にも当てはめようとする可能性もある。
これまで、慰安婦や徴用工の問題で日本と対立・譲歩を求めて来ても、日本が応じなかったためなす術がなかった。
しかし選挙に勝利して強権的手法に味を占め、同様な手法で日本に対応することになれば、日韓関係はいっそうこじれることになろう。
6月以降の輸出管理の問題で、文大統領がWTO提訴再開やGSOMIA破棄をまた言い出すようならば、日韓関係を取り巻く歴史問題にも暗い影を落とすことになるだろう。
貿易管理の問題を再び元徴用工の問題にすり替えさせてはならない
2020.5.20(水) 武藤 正敏
(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
文在寅政権は、日韓関係において歴史問題にこだわり、元慰安婦問題、元朝鮮半島出身労働者問題(いわゆる「徴用工」問題)など、既に解決済みの問題を繰り返し持ち出し、日本側から新たな譲歩を引き出そうとしてきた。
しかし、こうした問題は日韓請求権問題の根幹に触れる問題であり、日本側が取り合うはずもなく、現在も宙に浮いたままの状態となっている。
尹美香疑惑に当惑する韓国の政府与党
そうした中、元慰安婦・李容洙(イ・ヨンス)さんが、正義記憶連帯(以下「正義連」。
旧称・韓国挺身隊問題対策協議会[挺対協])の尹美香(ユン・ミヒャン)前理事長が寄付金を慰安婦のために使わず、私的に流用したのではないか等の疑惑を提起したため政府与党は当惑した状態になっている。
当初、与党は正義連とその元理事長を庇う姿勢をとり、
「この問題を積極的に取り上げるのは親日勢力の野党・未来統合党と保守メディアだ」と逆に批判するような有様だったが、
尹氏の疑惑が深まるにつれ、このまま静観できないとの雰囲気が広がってきた。
市民団体の告発を受け検察が動き出したことも、政府与党を焦らせたはずだ。
これまで、国内で政権に対する問題が持ち上がると、国内世論を宥めるため、韓国政府与党は「親日批判」と「反日」を利用してきた。
こうした見地に立つと、日本の韓国への輸出規制強化の問題はこれまで固有の貿易管理の問題として通商当局の間で対話を進めてきたわけだが、そこで片付かないとなると、再び元徴用工問題の報復との議論にすり替えてくる可能性もある。
それは日本としては看過できない事態となる。
貿易管理の問題が燃え上ったのは1年前であるので、詳細を忘れてしまった読者も少なくないと思う。
そこで、当時の経緯を含め、その後の対話、韓国における制度是正の動き、現在の両国の立場、そして残された問題について解説してみよう。
輸出規制強化の問題は韓国の杜撰な貿易管理を是正する問題
韓国の成允模(ソン・インモ)産業通商資源部長官は今年の3月6日、日本が韓国に対する輸出規制の強化の理由として挙げた事項をすべて解消したとして、日本に規制強化措置の撤回を強く求めてきた。
日本政府は昨年7月に半導体・ディスプレー材料であるフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト(感光材)の3品目の韓国への輸出規制を強化し、8月には輸出管理の優遇対象である「グループA(ホワイト国)」から韓国を除外した。
日本はその理由として
(1)両国間の輸出管理に関する政策対話が3年間開かれておらず、信頼関係が損なわれたこと、
(2)通常兵器に転用される可能性がある物質の輸出を管理するキャッチオール規制の法的根拠の不備、
(3)輸出管理体制、人員の脆弱性を挙げていた。
成長官は、規制強化の撤回を求めるにあたり、「この5か月間、両国の輸出管理当局は課長級会議や局長級の政策対話などを通じ、韓国の輸出管理に関する法規定、組織、人員、制度などについて十分に説明し、両国の輸出管理に対する理解を深めて十分な信頼を構築した」と述べた。
実際、韓国国会では、輸出管理の実効性を高める対外貿易法改正案が成立した。
これによって戦略物資の輸出許可に関する条文に、大量破棄兵器とともに「通常兵器」も厳しく審査することを明記した。
早ければ6月にも施行される。
その後4月には産業通商資源部内に貿易安保政策官の下に30人規模の組織を設けた。
こうした体制整備を行ったうえで、同部の李浩鉉(イ・ホヒョン)貿易政策官は5月12日の会見で、日本は韓国に対する3品目の輸出規制とホワイト国除外に関する立場を今月末までに明らかにすべきと主張した。
韓国政府は、日本の輸入規制が施行された後、「これは日本による元徴用工問題に対する報復だ」として反発し、韓国として日本への輸出規制、WTOへの提訴といった報復措置を取るとともに、日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)廃棄の動きを見せてきた。
なお、GSOMIA廃棄については米国介入により条件付きで期限を延長することになった。
その後、日韓はGSOMIAの扱いをめぐる協議の中で、輸出管理に関する対話を行うことになった。
当初韓国側は「日本の輸出規制強化撤回に関する協議だ」と主張し、日本側は「貿易管理に関する政策対話だ」と主張してかみ合わなかった。
しかし、韓国側は日本側に規制強化撤回を促すため貿易管理体制の整備を行った。
韓国は、これまで日韓の交渉では自国の国民感情を背景に、日本側に譲歩を迫ることがほとんどで、韓国側が客観的に日韓関係の相互利益に沿った対応をしたことは極めて珍しかった。
しかし、この輸出規制問題は歴史問題と異なり、国民感情を刺激する問題ではなく、ビジネスライクに現実的な対応をしたのだろう。
その点では、韓国側の対応と努力は評価してもいいのだろう。
日本側の規制強化撤廃を求めた「最後通牒」
しかし、日本側から色よい返事が得られないと悟ると、韓国側は最後通牒のように今月末までの規制緩和を求めてきた。
その理由として、次の2点が考えられる。
第一に、韓国が条件付きでGSOMIA延長を決めたのが昨年11月であり、それから6か月経つ。
この時点で、日本が規制強化を撤回する可能性があるか最終的に打診する必要があると考えた可能性がある。
韓国政府はこれまで水面下で対話を進めてきたが、日本側に誠意は見えないと受け止めている。
GSOMIAの終了の判断をこれ以上延ばしても成果はないと考えたのだろう。
第二に、新型コロナや米中の対立によって輸出が厳しくなっている韓国企業にとって、将来への不安を少しでも取り除きたいと考えた可能性だ。
米中対立によって、米国の対ファーウェイ制裁がメモリー半導体にまで拡大すれば、サムスンとSKハイニックスが直撃を受ける可能性があるからだ。
韓国は戦略物資の管理をどう運用しているか
しかし、日本側は制度の運用実態を見極めてから輸出優遇国に戻すかどうかを慎重に見極める対応だ。
特に文在寅政権は日米韓の連携よりも中朝に寄り添う姿勢であり、戦略物資が両国に不正に輸出されている可能性が排除できない。
そもそも日本政府が韓国に対する輸出規制強化に動いたのは、当初の3品目について不適切な再輸出の疑いをつかんだからである。
また、戦略物資について「ホワイト国」から除外したのは、韓国から戦略物資が無許可で流出した不正輸出案件が韓国側の資料で明らかになっているからである。
韓国産業通商資源部が国会議員に提供した資料によれば、2015年から19年3月までに156件の不正輸出があった。
これは核兵器や生物化学兵器の製造に利用可能な物質を含むものであり、
流出先は中国が最も多く、ほぼすべての東南アジア各国、ロシア、インド、パキスタン、イラン、シリア、アラブ首長国連邦などである。
これらの中には北朝鮮との関係が緊密な国々がいくつも含まれており、
北朝鮮にこうした物資が流れていれば日本の安全保障上大きな懸念材料となる。
しかし韓国は、こうした物資が韓国からさらに北朝鮮に輸出されたのではないかとの指摘について、「日本が一方的に嫌疑をかけたものである」と反発している。
ただ、北朝鮮に流れた疑いを晴らすべきは韓国であり、日本に反発するのは筋違いである。
韓国はそもそも自主的にどの企業が関与し、どの国に再輸出され、何に使われたかの実態を調査し、日本に報告すべき問題である。
日韓の政策対話の中で果たしてこれが行われたのか。
行われていないとすれば、いかに組織や人員を強化しても、北朝鮮に強く寄り添い、中国には何も言えない韓国なのだから、「きちんと運用されているし、今後も運用されるであろう」と日本は確信できない。
梶山経済産業大臣は記者団の質問に15日、「引き続き様々なレベルで対話していく」と答えたが、これは「韓国側の対応はまだ十分でない」との立場を明らかにしたものだ。
北朝鮮の軍事技術の飛躍的向上の影に「韓国の技術」使用疑惑
朝鮮日報に、尹徳敏(ユン・ドンミン)元外交安保研究委員長が寄稿したところによれば、
昨年5月から北朝鮮が再三試射してきた長射程放射砲と短距離ミサイルが10年前延坪島を奇襲攻撃した北朝鮮軍からは想像できないほど飛躍的な進歩を遂げているのは米国や韓国の技術が流出しているとしか思えないという。
そのため、「延坪島の後、北朝鮮のハッキング部隊は韓国の国防科学研究所、国防部、国防関連企業に対する大々的なハッキング工作を展開した。
韓国国民を守るために開発された韓国の技術が北朝鮮に渡り、北朝鮮軍砲兵勢力の技術的急進の実現に用いられたと推定される。
また、少し前、国防科学研究所の研究員らが、機密を大量に国内外に持ち出したという報道もあった」というのである。
さらに韓国は、北朝鮮に対し輸出が禁止されている原油の海上における「瀬取り」の取り締まりを怠っている。
また最近では、陸海空軍による大規模合同火力訓練の実施予定だったのを、来月に延期したが、これは北朝鮮の非難を受けた青瓦台が「北朝鮮の顔色を窺い」延期することを指示したものだという。
このように政権発足以来続いている北朝鮮に対する一方的な接近姿勢は、韓国が北朝鮮の不法行為を取り締まれない実情を反映している。
さらに中国に対しては、習近平国家主席の年内訪韓を求め、その際THAADをめぐる報復措置を撤回してもらうことに汲々として、何も言えない。
このような韓国の実情は、気の毒なくらい卑屈である。
発足以来一貫して中朝に接近しようとしている文政権は、日米から離れ、「レッドチーム入り」することが懸念されている。
こうした状況では、いくら貿易管理の体制を高めても実行が伴わない恐れが強い。
日本が輸出管理の在り方を「ホワイト国」前の状況に戻せるのはこうして懸念が晴れてからである。
輸出管理の問題が再び日韓の政治問題に
日本が輸出規制強化の撤回に動かない場合、果たして韓国はどのように対応するだろうか。
月末までに日本側の対応がない場合、韓国はWTO提訴手続きを再開したり、GSOMIAカードを再び取り出したりする可能性がある。
新型コロナ対策で日韓ともに直近の経済の落ち込みが深刻となる中、日韓の対立が深まれば、経済にとってさらなる悪材料となるだろう。
総選挙後の文在寅政権は、歴史問題でいっそう対日強硬に転じる可能性がある。
『文在寅の謀略―すべて見抜いた』(武藤正敏著、悟空出版)
文大統領は先の総選挙で、新型コロナを封じ込めた成果によってこれまでの3年間の失政を問われることなく、圧勝し政治的な主導権を握った。
特に新型コロナの問題では、
監視カメラの活用、電話基地局とクレジットカードの情報を提供させ、
国民のプライバシーを犠牲にした強権的手法で新型コロナを封じ込めたが、
これも国民の支持も集めており、いっそうの“独裁体制”を確立したと言ってよい。
そうした独裁的手法を今度は日韓関係にも当てはめようとする可能性もある。
これまで、慰安婦や徴用工の問題で日本と対立・譲歩を求めて来ても、日本が応じなかったためなす術がなかった。
しかし選挙に勝利して強権的手法に味を占め、同様な手法で日本に対応することになれば、日韓関係はいっそうこじれることになろう。
6月以降の輸出管理の問題で、文大統領がWTO提訴再開やGSOMIA破棄をまた言い出すようならば、日韓関係を取り巻く歴史問題にも暗い影を落とすことになるだろう。