広告大手の電通グループが本社ビルの売却を検討していることが明らかになった。売却額は3000億円規模と伝えられる。実現すれば、稼働中のビル物件の取引として国内最大となる見込みだ。もっとも、大手企業による本社ビル売却は決して珍しいわけではない。過去にはNEC、東芝も本社ビルを手放している。

電通グループ「売却検討は事実」

東京・東新橋の旧汐留貨物駅跡地の一角にそびえる電通本社ビルは地上48階建てで、2002年に完成した。ブーメランを思わせる独特の形状を持つ超高層ビルだ。

ビルには約9000人が勤務するが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、社員のテレワーク化が進み、出社率は2割程度にとどまる。このため、売却を通じて資産効率を高める選択肢が浮上した。本社は移転せず、賃貸での利用に切り替えるというわけだが、電通グループは「売却検討は事実だが、決定している事項はない」とのコメントを発表している。

都心の一等地の立地とあって売却額は3000億円規模とみられている。容易に食指を伸ばせる金額ではないだけに、買い手としては国内の不動産大手、海外の不動産投資ファンドなどが取りざたされている。

電通グループが本社ビル売却を検討する最大の理由は業績不振にある。現在集計中の2020年12月期決算は売上高11.3%減の9287億円、最終赤字237億円(前期は808億円の赤字)を見込む。新型コロナの影響拡大で国内外の広告事業が苦戦し、2年連続の最終赤字に沈む。

エイベックスは3年前に新築したばかり

昨年12月には、音楽・映像事業のエイベックスが東京・南青山の目抜きに面する本社ビルの売却を発表した。18階建てで、2017年に完成してまだ日が浅いが、苦渋の決断を迫られた。売却額は約730億円。帳簿価額を差し引いた290億円を特別利益として計上する。

決定打となったのはやはりコロナ禍だ。ライブ・イベントの開催自粛を余儀なくされ、足元の業績が急速に悪化した。本社ビルの売却に合わせ、40歳以上の社員を対象に100人規模の希望退職を実施した。

エイベックス本社(東京・南青山)

東芝、NECも“自信作”の本社を売却

東芝本社ビルの名称が「東芝ビルディング」から「浜松町ビルディング」に変わったのは2008年11月。リーマンショック直後の経営悪化を受け、本社ビルを所有する不動産子会社を約1500億円で売却したのだ。

40階建て東芝本社ビルは1984年の完成当時、高度情報化社会の到来を告げる最先端のインテリジェント(情報化)ビルとして話題を呼び、見学希望者が相次いだ。東京芝浦電気から社名変更し、新生「東芝」としてスタートしたのもこの年だった。売却後も東芝は最大テナントとして入居しているが、再開発でビルは建て替えが計画されている。

さらにさかのぼれば、NECだ。上に行くほど細くなる3層形状の43階建てで、東京・三田界隈でひときわ偉容を誇る。“ロケットビル”の異名を持つが、完成から10年後の2000年に約900億円で手放した。米企業を巡る巨額買収の失敗、防衛庁関連の価格不正問題、家電事業からの撤退が重なるなど経営の混乱が頂点に達した時の出来事だった。

ロケットを思わせる形のNEC本社ビル(東京・三田)

自前の本社ビルを構えることが企業にとって誇らしいのは言うまでもない。しかし、ポスト・コロナを見据え、「所有」から「利用」がうねりとなる中、本社ビルのあり方が変わる可能性もありそうだ。