文在寅に米国が「ノー」を突きつけた…! 米韓“亀裂”で、ついに文在寅「万事休す」へ
武藤 正敏(元駐韓国特命全権大使)
文在寅に米国が「ノー」を突きつけた…! 米韓“亀裂”で、ついに文在寅「万事休す」へ
2/8(月) 6:31配信
文在寅に米国が突きつけた「ノー」
現代ビジネス
バイデン大統領と文在寅大統領の両首脳による電話会談が2月4日午前(韓国時間)に約32分間行われた。
これはバイデン氏と菅義偉総理との電話があった1月28日から1週間後のことである。
新任の米国大統領と、日韓との首脳会談は通常即日か数日後に行われてきたことを考えると異例であり、韓国国内では米国の対韓姿勢を懸念する声が上がっていた。
青瓦台では、両首脳が「域内の平和と繁栄における中核的同盟関係にあることを確認した」とし、「韓米同盟関係を一段階アップグレードすることを約束した」として誇らしげに伝えた。
さらに、「朝鮮半島の非核化に向け緊密に協力していくことで一致した」そして「(両国が)できるだけ速やかに包括的な対北朝鮮戦略を策定する必要があるとの認識で一致した」と発表した。
青瓦台も首脳会談がうまくいったと胸を撫でおろしているのかもしれない。
しかし、現実は安心して良い状態からは程遠いのではないか。
文在寅大統領は、バイデン大統領よりも先の先月26日に中国の習近平国家主席と電話していた。
中国からの提案によるものである。
中国は、米国による中国包囲網を警戒し、東南アジアへの働きかけを強めており、今回の電話会談はその一環であろう。
文在寅氏が習近平氏との会談に応じたことについて、韓国外交の元老である韓昇洲高麗大学名誉教授(元外務部長官、元駐米大使、元高麗大学総長)は「外交では象徴性が核心だが、絶対に(習近平氏との電話会談を)先にしなければならなかったのかと疑問がわく」「正常で機転の利く政府だったら、そうはしなかっただろう」と批判している。
どちらの会談を先に行うかという手続き的なことより大きな問題は会談の内容である。
文在寅‐習近平会談の「内容
文在寅と会談した習近平
新華社は、中韓の首脳電話会談で、文在寅氏が「中国共産党成立100周年を心から祝う」と明らかにしたと報じている。
さらに、文大統領は「中国の国際的地位と影響力は日々強くなっている」
「2つ目の100年(2049年中華人民共和国100年)奮闘目標の実現に向かって重要な一歩を踏み出した」などと中国共産党の功績を称賛したという。
米国をはじめとする民主主義国が、中国の香港やウイグルでの人権弾圧、東シナ、南シナ海への海洋進出と領土への野心、技術覇権主義など、中国の強硬姿勢に対し協力して対抗しようとしている時に、中国共産党を称賛する。
これでは韓国とまともに協力はできないと考えても不思議はないだろう。
実際、米国上院の次期外交委員長である民主党のロバート・メネンデス議員は、文在寅氏の中国共産党への祝意に対し、「失望したし、心配になる」「中国が香港の人々にしたことや、台湾に加えている脅威などは、本当に懸念される。そのような歴史を大いに喜ぶことが何になるのか、私にはよくわからない」と失望をあらわしている。
さらに強烈な言葉は「こんなことをしようと思って、われわれは共に血を流して韓国の防衛と朝鮮半島非核化のために資源を投入し続けたわけではない」と怒りを表している。「共に血を流したこと」に言及したのは文在寅氏に対する最大限の不満である。
韓国メディアまで「見識の違い」と…
韓国との距離が鮮明になったバイデン大統領
革新系のハンギョレ新聞でさえ、バイデン氏の電話会談では日・豪と韓国との間で「戦略的な見解の違い」があったと懸念を示している。
その原因を作ったのが習近平氏との会談で、文在寅氏が中国共産党の姿勢を肯定したことが大きな要因ではないか。
米国のホワイトハウスは2月3日、バイデン氏が、韓米同盟について「北東アジアの平和と安定のための要」とする一方、豪州については「インド太平洋と世界の安定のための錨」と述べたと発表した。
先の菅総理との会談では、日米同盟について「自由で開かれたインド太平洋の自由と繁栄のための礎」だと説明している。
日本と豪州との同盟では、中国けん制のための日米の共同戦略から取った「インド太平洋」という用語を用いたが、韓国については「北東アジア」と地域を限定している。
中国共産党の行状を肯定するような文在寅政権と、バイデン政権が「インド太平洋の平和と安定」のため手を携えることができるのかという疑問が、この表現の差となったといっても過言ではないだろう。
文在寅への「不満」
韓国はこれまでも、康京和外相が昨年9月、クアッド参加問題に関し「他国の利益を自動的に排除するいかなることも良いアイディアではないと考える」と否定的に反応していた。
そうした韓国の反応を見て、トランプ政権下でも文在寅政権に対する不満は顕在化していた。
ポンぺオ国務長官は東京で開かれたクアッド外相会議後の韓国訪問を急遽キャンセルしていた。
昨年の国連総会の一般討論演説で文在寅氏が米国との事前協議がなく北朝鮮との「終戦宣言」に言及したことについて、かつてホワイトハウスで補佐官を務めたマイケル・グリーン氏は「韓国大統領が国連で米国議会や政府の立場とこれほど一致しない演説をするのは見たことがない」と述べた。
米韓安保協議会では、韓国の徐旭(ソ・ウク)国防相が「戦時作戦統制権の移管条件を早期に整え、韓国軍主導の連合防衛体制をぬかりなく準備したい」と述べた。
これに対し、米国のエスパー国防長官は「特定の時限を定めて移管するという約束は、米国の軍隊と国民を危険にさらしかねない」としてこれを受け付けなかった。
さらに、協議会後に予定されていた共同記者会見は米国側の要請により突然キャンセルされた。
今年に入って、文在寅政権は「北朝鮮との関係改善のためには米国との協力が重要である」との認識を持つようになってきた。
そのため、クアッドに対す姿勢も若干変わり始めているのではないかとの観測も出ていた。しかし、これをひっくり返したのが習近平主席との電話会談でのやり取りではないだろうか。
北朝鮮政策でも“亀裂”
北朝鮮政策でも亀裂が
韓国側は、米韓首脳会談で、「できるだけ速やかに包括的な対北朝鮮戦略を策定する必要があるとの認識で一致した」ことを評価した。
しかし、ここにも米韓の大きな認識のギャップが存在するように思われる。
韓国側は、文在寅氏が1月18日に記者会見で表明した「金正恩委員長の非核化の意思は明確だ」「シンガポール宣言から改めて始めなければならない」との認識を示しており、これをベースにバイデン大統領を北朝鮮との会談に引きずり込む、そのための戦略の策定を意図しているのであろう。
バイデン政権で北朝鮮対応の中心になるのがブリンケン国務長官であるとして、トランプ大統領を金正恩委員長との首脳会談に導いた鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏を新外相に指名した。
同氏は文在寅氏の朝鮮半島平和プロセスを進めていくことが期待されている。
しかし、バイデン政権で北朝鮮問題を扱う高官はいずれも経験豊富な人々であり、北朝鮮の非核化意思は信じていない。
1月の朝鮮労働党大会において金正恩氏は、36回言及しながら、1回も非核化には言及していない。
バイデン政権の対北朝鮮チームは、トランプ大統領の金正恩氏との会談は北朝鮮政権に正当性を与え、同時に核ミサイル開発の時間を与えただけで完全な失敗だったと評価している。
その立役者であり、後に米国側からも見放された鄭氏を外相に指名するという文在寅政権の対北朝鮮政策を危険なものと感じているであろう。
文在寅に「北朝鮮原発計画」の疑惑
文在寅政権の最近の北朝鮮の対応は、バイデン政権に危機感を与えるものである。
韓国国会が民主的手法を無視して成立させた対北朝鮮ビラ禁止法は、韓国憲法に違反するばかりでなく、「市民的・政治的人権のための国際規約」に明確に反するものである。
バイデン氏は北朝鮮に対する外交政策の中で人権を中心に置く考えという。
そのため、トランプ政権では空席となっていた「北朝鮮人権特使」を復活させることを検討しているとボイス・オブ・アメリカが報じている。
文在寅氏は北朝鮮の人権問題については口をつぐんでいるが米国側との協議でもこの問題は大きく取り上げられるであろう。
韓国は北朝鮮が米韓合同軍事演習の中止を求めたことに対し、北朝鮮と協議できると答えた。
北朝鮮の軍事的脅威に有効に対処していくためには継続的な合同軍事演習は不可欠である。
それを北朝鮮と協議するというのは話にならない。
そうした文在寅政権の異常なまでの北朝鮮追従政策の中でもっとも危険なものは、文政権が北朝鮮において原発建設を検討していたという疑惑である。
それは板門店における米韓首脳会談後、産業資源部の職員が青瓦台の金秀顕(キム・スヒョン)社会首席秘書官(当時)を中心とする青瓦台エネルギータスクフォース(TF)と協議、指示を受けて検討していた北朝鮮への原発建設に関する資料の存在が月城原発を巡る検察の捜査で明らかになったが、その検討内容を記した文書が廃棄されていたというものである。
北朝鮮が核ミサイル開発を放棄せず、その実用化が目前まで迫っている中で、文政権のこのような行為は極めて危険なものとしか言いようがない。
文在寅氏はこうした情報のリークは「マタドール(根拠のない話による政治攻勢)」として反撃に出ているが、そのこと自体、文政権がこの情報のリークをいかに深刻に受け止めているかの証左ではないだろうか。
文在寅はどうするのか…
ブリンケン国務長官は上院における聴聞会で「北朝鮮に対する全般的アプローチを政策レビューしようと思う」と発言した。これはトランプ大統領が進めた北朝鮮との不用意な会談には応じないことを述べたものである。
これは文在寅政権の期待とは相反するものである。
見直しは北朝鮮との関係では、制裁の強化を含め北朝鮮への非核化をいかに迫っていくか、北朝鮮の過酷な人権状況をいかに改善していくか、在韓米軍の態勢や合同軍事演習の扱いをどうするか、など包括的に検討していこうとするものであろう。
それは文在寅氏のアプローチとは相容れない方向になっていくであろう。
これまで韓国は、「終戦宣言」の一方的な提案で見られるように、米国との調整のないまま勝手な行動を起こし、これに米国を引きずり込もうとしてきた。
こうした韓国の一方的な行動は容認しないとの意向が電話会談での「包括的な対北朝鮮戦略」の策定という言葉に含まれているのであろう。
この後米韓での検討の過程で、両政権の認識の違いが露呈していくであろう。その時文在寅大統領がどのような対応に出るのか懸念は尽きない。
武藤 正敏(元駐韓国特命全権大使)