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文在寅が「戦犯」…韓国経済の「複合不況」がとんでもないことになってきた!

2022-06-21 18:02:34 | 日記
文在寅が「戦犯」…韓国経済の「複合不況」がとんでもないことになってきた! 

尹大統領の「ネック」にもなる

2022年6月21日 5時0分 
現代ビジネス

韓国経済が「大変なこと」になっていた
韓国の尹錫悦大統領は6月1日の地方選挙の大勝利にも浮かれてはいなかった。

物価統計が発表された6日、尹錫悦氏は「(韓国は)経済危機の台風圏に入っている」と危機感をあらわにした。

尹大統領は、地方選挙勝利は論評せず、経済危機の克服に全力を傾ける意思を強調したわけだ。

尹錫悦政権の支持率は、就任以来上昇してきた。

しかし、上昇要因となった米韓首脳会談や統一地方選挙が終わり、これからは尹錫悦氏の国内政治の実績が問われることになる。

その中で一番大きいのは韓国経済や国民生活の動向である。

尹大統領 

李明博大統領時代、リーマンショックが起きた時、韓国はすべてのOECD諸国に先駆けて経済を回復させた。

その言動力となったのが財閥系輸出企業の競争力である。

しかし、現在の韓国経済は、文在寅前大統領が反財閥・親労組的体質に変えてしまったため、逆風への抵抗力がなくなっている。

尹錫悦大統領は、大統領選挙中から経済は民間・市場主導に変えていくと語っていたが、

6月16日、民間の主要経済団体を集めた会議では、そうしなければ複合危機を乗り越えるのは難しいと述べ、物価の安定に総力をあげること、規制の解除を進めていくこと、法人税を引き下げることを明らかにした。

これは、市場経済への介入、最低賃金の急激な引き上げ、非正規職の正規職への転換、脱原発、労働組合活動への支援を重視した文在寅政権の経済政策とは180度異なるものである。

尹錫悦政権は、韓国経済を再び軌道に乗せるため、文在寅体質からの脱皮を最優先課題としている。
文在寅が「破壊」した韓国経済

文在寅政権は経済の実態を見ず、自画自賛で経済の悪化を見逃すとともに国民から自らの経済失政を隠蔽してきた。

良質の雇用が失われても、高齢者に対する財政を活用した短時間のバイトを就業者に組み入れ、失業率の悪化を隠して雇用の実態を繕ってきた。

コロナ前の2019年、実質経済成長率が1%台に落ち込みそうになると、年末の財政出動で経済成長率を2.0%まで引き上げた。

韓国の経済成長率が1%台になるのはIMF危機やリーマンショックなど世界経済が困難であった時のみである。

このように経済の実態を小手先でごまかしてきたため、有効な経済対策が打てるはずはない。

その上、各種規制の導入で経済体質を社会主義的なものに変えてしまい、民間の投資意欲を失わせた。

文在寅の「罪」は大きい 

尹錫悦政権はコロナ後初めて「景気減速の憂慮」を認めた。

企画財政部は17日、「6月最近経済動向(グリーンブック)」で「対外環境悪化など物価上昇が続く中、投資不振及び輸出回復の鈍化など景気減速が憂慮される」と明らかにした。

秋慶鎬(チュ・ギヨンホ)経済副首相兼企画財政部長官は6月14日の緊急幹部会議で「一言で複合危機が始まり、こうした状況は当分続くだろう」との悲観的見通しを述べた。

韓国経済の悲観的評価の背景には、これを支える輸出と投資が減少傾向にあるからである。6月1-10日の輸出は12.7%減少した。

5月には輸出が増加していたが、それは中国が封鎖解除した影響であった。貿易収支も3月から5月まで連続で赤字となり、しかも赤字額は拡大している。

「中国経済の悪化」に「物価上昇」も追い打ち大韓商工会議所は、「下半期以降対外不安要因の拡大で輸出サイクルが転換(悪化)する」と予想した。

その最大の要因が中国の経済減速であり、対中輸出が10%減少する場合は国内の経済成長率は0.56%下落するという。これも文政権の親中政策で韓国の対中貿易依存が高まっていることも背景にある。

4月の産業活動動向によると、4月のサービス業生産(1.4%)はコロナにともなう規制緩和で小幅増加したが、鉱工業生産(-3.3%)が大幅に減り、全体産業生産(-00.7%)も減少した。特に減少幅が大きいのは設備投資(-7.5%)である。

さらに、最近になって景気の足を引っ張っているのは物価上昇である。物価高はさらに高金利・ウォン安をもたらしている。

当分は5%台の物価上昇率が続くだろうと見られている。

原油と国際原材料価格が依然として不安定であり、新型コロナ防疫措置の解除で消費が増えていることも物価上昇に拍車をかけている。

6、7月には6%台とする見方もある。物価高が続けば、金利は上がって経済成長率は落ちるだろう。

中長期的には潜在成長率の低下基調が懸念される。
韓国経済の成長をもたらす要因が見えない。

「債務不履行世帯」が急増へ韓国銀行は追加利上げを既成事実化している。この場合家計の負債(3月末基準で1895兆ウォン、約194兆円)に火をつけることになりかねない。
金利が上昇すれば債務不履行世帯が増加する恐れがある。
政府は、民生対策を出し物価安定に乗り出した。秋慶鎬は農協の市場を訪れ、物価を点検しながら「農畜産生産・流通・販売全般にわたり価格安定化に努める」と述べた。

具体的には小麦粉価格の安定に向けた支援及び飼料・肥料購入費支援事業や豚肉など価格不安定品目を中心に割引クーポンを支給する事業である。

企業にも生産性の向上などで価格上昇要因を最大限に吸収するよう要請している。

こうした中、主要企業も緊急戦略会議を開くなど緊迫した状況である。電気自動車向けバッテリーの調達担当者はほぼ全員海外に出張し、素材メーカーからの調達に奔走している。

大企業のCEOは最悪の状況を前提にしたシナリオとシミュレーションを作成、対策つくりを進めている。

あるCEOは「外部の不確定要素に対し、影響を防ぐこれといった策はなく、被害の軽減に集中している」と述べた。
複合危機は「一層深刻化」する

文在寅政権は過激な政治活動を行う全国民主労働組合総連盟(民主労総)に引きずられ、「貴族労組」の利益を代弁する経済改革を次々に実施した。

ちなみに民主労総が活動拠点とする現代自動車では、ブルーカラーを含めた平均賃金が年収約1000万円である。

最低賃金を5年間で5倍に引き上げることを目標に、無理な賃金拡大政策を進めた。これは、国民の所得を増やし、格差の是正を図るとともに、所得増の結果として消費を拡大するという所得主導成長を追求したものである。

しかし、無理な賃上げ拡大で、企業の廃業・倒産や労働者の解雇を招き、所得格差は拡大した。

労働時間規制の上限を週52時間とした。従来は最長68時間まで残業できた。そこへきて、非正規労働者の正規職への転換を促した。

民主労総に支配された労組は企業経営にも口をはさんでいる。現代自動車労組は、同社が米国で行う8000億円規模の新規投資と現地での電気自動車生産方針に反発している。

これは国内での雇用の減少を懸念してのことであるが、労組側は「海外投資を強行すれば、労使の共存共栄は遠のく」と強硬である。

しかし、現代自動車の国内労働者の平均賃金の高さを考えると当然の方針である。

さらに文在寅政権は脱原発を推進した。月城原発廃棄を巡っては経済性評価を捏造して強引に月城原発の早期閉鎖に追い込んだ。

その経済的損失だけで約570憶円規模である。しかし、ウクライナ情勢を巡るエネルギー価格の高騰は脱原発政策の妥当性に疑問を投げかけている。

こうした規制の強化により、韓国における製造業の事業環境は急速に悪化している。

昨年韓国の製造業では18万人の雇用が失われた。これはサムスン電子と現代自動車の就業者に匹敵する人数である。

反面韓国企業が海外で雇用する人は42万人増加している。

困難な経済状況の中で襲った、資源・食料価格高騰による物価高・金利上昇・ウォン安を克服するため、尹錫悦氏は、文在寅時代に導入した経済体質を白紙化することから始めなければならない。

慢性的な「二極化」

尹錫悦大統領は、6月16日に開かれた「新政府経済政策方向発表」会議の冒頭「危機に直面するほど、民間・市場主導に経済の体質を大きく変えなければならない」と述べた。
尹大統領は「慢性的な低成長と二極化(格差)問題を解決しなければならない」「民間が多くの雇用を創出し、国民が新たな機会を得られるよう、政府の力を結集すべきだ」と力説した。

そのためまず挙げたのが規制改革である。

尹氏は「政府は民間の革新と新産業を妨げる古い制度と、法令にない慣行的な規制はすべて取り除く」と強調し、「公正な市場秩序を乱す不公正な行為が入り込む余地がないよう、起業家精神を高め、法と原則に基づいて企業が投資できるようにする」と述べた。

政府は経済政策方向を検討する会議で、規制と許認可遅延で足を引っ張られている企業投資が53件、337兆ウォン(約34兆円)に達するという調査結果も発表した。
文在寅の「否定」から始まる雇用労働部の李正植(イ・ジョンシク)長官は「労働時間構造を合理的に改編する。実労働時間を業種と職務の特殊性に適合した方式で運営するよう自律的選択権を拡大する計画」と述べた。

また、国民の力は文政権で成立した重大災害事故発生時の最高経営責任者(CEO)処罰軽減を骨子とした改正案を発議している。

しかし、文前政権と尹現政権の目指す方向はまったく異なる。
文在寅氏は韓国経済を財閥の支配から解放し、分配を改善することで格差を是正する、労働者の権利を拡大するというものである。

これに対して尹進悦氏は民間・市場主導で経済の活力を取り戻すことに力点を置き財閥の経済活動を支援するというものである。
尹錫悦氏がやろうとしていることは文在寅氏の経済政策の否定である。

文在寅前政権としては、自らの政策を全否定することを放置できないだろう。これを改めるためには法改正が必要なものがある。現在の国会の状況から民主党の抵抗をどう切り抜けるかという課題がある。
韓国経済の動向が「キーポイント」になる

政府はさらに具体的な施策として法人税の引き下げと投資税額控除を打ち出した。
法人税引き下げによって「少なくとも金利引き上げを相殺できる」、海外で競争して対応できる程度の強力な投資税額控除が必要だとの立場である。

特に先端産業分野は戦時のような状態であり、それに見合った控除が必要だとしている。
韓国の国内問題の核心に迫れば、与野党の立場の違いから対決局面に移行していくだろう。
そのためにも尹錫悦政権にとって世論の支持率を高めていくことは不可欠であり、経済問題をいかに進めるかが最初の関門である。


政権交代から40日…韓国の新旧権力、協治はなく「全面戦争」

2022-06-21 17:37:16 | 日記
政権交代から40日…韓国の新旧権力、協治はなく「全面戦争」

登録:2022-06-19 21:19 修正:2022-06-20 08:24


西海公務員殺害事件・政治報復捜査・前政権要職者去就など
尹錫悦大統領が17日午前、龍山の大統領室に出勤し取材陣の質問に答えている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 新政府スタートから40日余りたち、新旧権力の衝突が「同時多発的」に起きている。

16日、「西海(ソヘ)公務員銃殺事件」に対する前任政府の発表を現政府がひっくり返して政治争点化し、検察の「産業部ブラックリスト疑惑」捜査と前政権の要職者の去就問題も対立要素として浮上した。

 与党「国民の力」のクォン・ソンドン院内代表は19日、フェイスブックに西海公務員銃殺事件について言及し「文在寅(ムン・ジェイン)政権と共に民主党は、(被害者の)息子の叫びにまず謝罪するのが当然だ」と書いた。

クォン院内代表はさらに「民主党は絶えず正義と人権を強調するが、二カ所だけは例外だ。

一つは民主党自身で、もう一つは北朝鮮だ。

ネロナムブル(「自分がしたことはロマンスで、他人がすれば不倫」の略語で、ダブルスタンダードの意味)を超えて北ロナムブルだ」と付け加えた。

 国民の力はこの懸案を争点化する雰囲気だ。国民の力は「西海公務員殺害事件タスクフォース(TF)」を設けた。

団長のハ・テギョン議員はフェイスブックに「国民を越北者に仕立て上げ人格殺害した事件の真実は必ず糾明する」と書いた。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領も17日、龍山(ヨンサン)の大統領室に出勤し「今後さらに進むのではないか」と述べた。

これに対し共に民主党のウ・サンホ非常対策委員長は「国民の生活のためというよりも、親北朝鮮イメージ、(民主党が)北朝鮮に屈服したというイメージを作り出すための新たな理念論的アプローチだ」として対抗した。

 検察の産業部ブラックリスト疑惑捜査も対立を育てる要素だ。

すでに尹錫悦大統領は「民主党政権の時はしなかったか」と述べ、「直進」する意志を示した。

民主党は決め打ち捜査だという疑惑を提起している。ウ委員長は「パク・サンヒョク議員の召喚とペク・ウンギュ元産業通商資源部長官の拘束令状申請は文在寅政権を狙ったと思わざるをえない」として「政略的意図でなければ説明できない」と話した。

 尹大統領が「(閣僚会議に)必要のない人々」と言い、進退を「自ら判断する問題」として、チョン・ヒョンヒ国民権益委員長とハン・サンヒョク放送通信委員長などに事実上の辞職を勧告している前政権要職者の去就問題も、もう一つの戦線だ。

チョン委員長は18日「法律が定めた国民権益保護というその役割を誠実に遂行する」として、来年6月までの任期を全うする意向を示した。

 新旧政権が対立する戦線はさらに拡大するとみられる。

 大統領室は最近、西海公務員殺害事件のように前政権の「情報公開請求控訴事件」目録を把握しているという。

政府が情報公開を避けた事案の中には、文在寅前大統領夫人である金正淑(キム・ジョンスク)女史の洋服代をめぐる「秘書室特別活動費など情報公開請求の件」が含まれている。

 当時野党だった国民の力は、金女史の洋服代過多支出疑惑を持ち出し、ある市民団体が情報公開請求をしたが、大統領府は国家安保を理由に拒否した。

2月にソウル行政裁判所が原告一部勝訴判決を出し、大統領府は「国家の重大な利益を害する恐れがある」として控訴した。尹錫悦大統領室が控訴を放棄すれば、一部勝訴の判決が確定し情報が公開される。

 大統領室の関係者は「(金女史特活費の件との関連は)別に検討していない」として「前任政府から業務引継ぎを受ける過程で、情報公開請求控訴事件の現況から把握してみようとしている段階」だと明らかにした。

 民主党のウ・サンホ非常対策委員長は「このような形の国政運営が果たして賢明なのか。司法機関、権力機関を前面に立てた野党への圧迫が、今の経済危機局面を克服する意志とみることができるのか」と批判した。




金融によって勢力圏はどのように塗り変わっていくか - 21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争(三浦 瑠麗さんコラム - 第3回)

2022-06-21 16:56:01 | 日記
2022-05-25

金融によって勢力圏はどのように塗り変わっていくか - 21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争(三浦 瑠麗さんコラム - 第3回)

コラム 三浦 瑠麗 一聴一積 金融制裁 OPEC ルーブル ガスプロムバンク 人民元 G7 SWIFT 

  

ロシアのウクライナ侵攻は、広範にわたる経済制裁をもたらしました。

その中でもとりわけ大きな影響を及ぼしたのが、エネルギー分野での制裁と、金融制裁です。

エネルギーの制裁は、産油国のような資源輸出国に対して「それで儲けられない」状況を作るためのものですから、輸入国が産地変更などの政策変更をすることが期待されます。

その場合の「抜け穴」になるとされるのが、制裁に同調しない国々がロシア産の安価なエネルギーを買ってしまうという状況です。

エネルギーは、安定供給に加え安価であることが重視されます。ロシアは石油、石炭、天然ガスなど足元の経済社会活動に欠かせないエネルギー資源の輸出大国であり、ひとたびロシアのエネルギーがボイコットされればグローバルな供給不安が生じます。

制裁による供給減を見越して原油先物の価格は高騰し、実際に供給が不足する前から各国の経済を直撃しています。

他方で、インドがロシアからの原油輸入を大幅に増やしたり、OPECが増産に動かないなど、アメリカのリーダーシップに協調していない空間が広がっていることが窺えます。

ロシアの石油生産量は3月から減っており、5月以降制裁の影響がより本格的に出ると観測されていますが、それでも取引価格が上がれば潤うのが実情です。

ロシアとウクライナは世界有数の穀倉地帯であることから、食料についてもグローバルな供給不安が起きています。

結果、人口大国で食料やエネルギーの輸入大国から打撃を受けることになります。

制裁の影響をまず受けるのは、例えばインドやパキスタン、エジプトのような国だということです。

こうした国々が対露制裁に協力的どころか批判的である理由は明白でしょう。

では、金融制裁の方は何を行ったのでしょうか。

大きく言えば、対露金融制裁は三つのことを目標としています。

まず、ロシアの海外資産や個人資産を差し押さえること。

次に、ロシアに流れ込むお金を、民間であるか公的であるかを問わず止めていくこと。

さらには、ロシア国内から海外企業を撤退させ、国外で活動するロシア企業やロシア人の活動に支障をきたさせることです。

それらの目標の究極の目的は、ロシア政府の継戦能力を挫き、将来にわたる大きな経済的被害をロシア国内の幅広いアクターに想起させることで、ロシア政府の意思を変えさせることでしょう。

ただし、制裁の目標を半ば遂げたとしても、究極の目的を実現できるかどうかと言えば大きな疑いが残ります。

まず、短期的にはプーチン大統領が言う通り、制裁はロシアに十分な打撃を与えられていません。

もちろん長期的にはロシアの経済活動は大きな制約を受け、国力は毀損します。

制裁が続けばロシアは官民ともに海外への支払いに支障をきたし、贅沢品だけでなくて経済社会活動に必要な部品や原料その他の物資の輸入ができなくなり、ルーブルの価値が著しく下がり、グローバルな資金調達市場から排除され、外国からの直接投資が引き揚げられて、新規にも入って来なくなるからです。

経済活動の主体は事業の予見可能性を重んじますから、制裁に参加していない国々やその企業であっても、いまいまロシアに投資をしたいと思うような状況ではありません。

しかし、制裁がロシア国内の反戦派の比率を高めるかどうかと言えば、むしろ多くの人が排外主義的になりナショナリズムが強固になる可能性も捨てきれない。

社会に対する影響としては、ロシア軍の死者数の方が効果は高いだろうと私は見ています。

陰惨なことですが、双方が十分に戦い疲れない限り戦争が終わらない見通しをもつのはそうした理由です。

アメリカはロシアの国債の償還と利払いを阻むため、様々な手段を講じてきています。

具体的には、米国の金融機関にロシア政府が保有するドル資産を送金することを阻止するという方策です。

デフォルトの正確な定義は支払い不能に陥ることですが、ロシア政府は支払い能力があるにもかかわらず支払いを阻まれているので、正確には通常の意味で言うところのデフォルトではありません。

通常の財政危機の中でデフォルトが起きる場合は救済策がとられるため、借金を完全に踏み倒すようなことは起きませんが、今回の場合は逆にデフォルト状態の強制ですから、債権者の利益は顧みられていない。

ロシアの大企業も次々と海外への支払いの困難に直面していますが、これらの措置は私有財産の侵害に当たるうえ、個別のデフォルトの影響は各種契約の中身を見てみないとわからないため、制裁という不可抗力による支払い不能がどう解釈されるのかはわかりません。

ロシア政府や企業に潤沢にお金があるにもかかわらず、資産を差し押さえたり、SWIFTという決済システムからの排除などを通じて「人為的に」無理やりデフォルトさせようとしたりするというのは、通常のデフォルトとはまったく別物なのです。

ロシア政府や企業は新たに資金調達することこそできませんが、支払いに関しては制裁解除後に支払うなどの合意をすることが可能かもしれません。

つまり、デフォルト状態を強制したところで、何か劇的な転換が起きるとは期待できないだろうということです。

金融制裁は、資産を巻き上げられるロシア政府や企業、個人からすれば戦争と同じ効果を生みます。

要は、戦争が始まったら国内にある敵国の資産を差し押さえ、完全な敵対関係に入ったということを明確にして、共存の余地をなくすということだからです。

今回の制裁は、相手国の間違った行いに何かメッセージを送らなければならないというような消極的理由に基づく形式的なものではなく、全面的な効果を狙ったものですから、仮に長期化するとすれば冷戦期の分断に等しい効果を生みます。

一方で、ロシアは冷戦期のように引き籠るべき東側陣営を有していません。

制裁を主導するアメリカが企図するのは、ロシアの完全なる孤立化です。

もしも多くの国がそのような制裁措置に同調すれば、ロシアは逃げ道を失うでしょう。

ところが、このロシア封じ込めの輪っかは閉じられていません。

前回のコラムで述べたように、ロシアのエネルギーは依然として欧州を含む各国に買われていますし、ルーブルはロシア政府がとった様々な防衛手段の効果もあって、侵攻前の価格に戻しています。

NATO主導の対露制裁に参加する欧州諸国も、ロシアからの天然ガスの供給が止まっては困る国は、ロシアが要求するルーブルでの支払いに「事実上」応じ始めています。正面からの制裁破りではないかたちでの制裁回避手段として、ガスプロムバンクに口座を開設し、ガスプロムバンク内で通貨をルーブルに替えて支払っているのです。

はじめにこれを報じられたオーストリアは、天然ガスの約80%をロシアから調達しており、政府が認める通り産地変更は短期的には不可能です。

ポーランドのトゥスク元首相は即座にツイッターでこうした諸国の対応を批判していますが、事実上の制裁回避手段を取らざるを得ないのが現状です。

抜け穴は理由があって開いているのであり、それを塞ごうとすれば新たな制裁回避手段を探すしかない。

そうでなくとも、産地変更や制裁の影響に対応するためには財政赤字の拡大は必須で、制裁を行う側の国に痛みを伴います。

今後、決済手段は徐々に人民元の存在感が高まっていくものと思われます。

すでにサウジアラビアは人民元での決済導入に向けて舵を切っています。

原油がすべてドルで取引されていた時代はこれで終わるということです。

当然、ドルの影響力は低下します。重要な視点は、これら諸国のアメリカ離れの動きが「ロシアを救うため」ではまったくなくて、自国の経済安全保障、すなわち防衛的措置として出てきているというところです。

今回のような大規模に当たる制裁は、当然将来にわたっての各国の選択に影響します。欧州だけを見れば、防衛体制の強化やエネルギーの脱ロシア依存、カーボンニュートラル化のさらなる促進が選び取られていくでしょう。

日本もその点では同じです。しかし、G7と豪州、韓国以外の国々を見たときには、同じ判断にはなりません。

彼らはアメリカやG7がもたらすリスクを回避する経済体制の構築に邁進するはずです。その筆頭格は中国です。
中国は今後、アメリカの影響下からの脱却を目指して独自の金融システムを構築し、自らの経済的影響力を背景に人民元建ての取引やSWIFTに代わる決済システムを広めていくでしょう。

制裁に強いエネルギーや経済戦略が長い時間をかけて模索され、定着していきます。先進諸国が、ロシアのような、軍事的には横暴で経済的には存在感の低いアクターの封じ込めと切り離しに時間をかけているうちに、アメリカの覇権とドルの凋落(ちょうらく)は進んでいってしまうのではないか。

日本にとっては、生き抜くのがより難しい時代の到来です。

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PROFILE

三浦 瑠麗(みうら るり)
国際政治学者、シンクタンク 株式会社山猫総合研究所 代表
1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院および同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。テレビをはじめ各メディアで活躍する一方で、多くの執筆や言論活動も行う。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)のほか、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか―』(新潮社)、『政治を選ぶ力』(橋下徹共著/文春新書)、『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)など著作多数。



エネルギー安全保障とカーボンニュートラル目標の行方 - 21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争(三浦 瑠麗さんコラム - 第2回)

2022-06-21 16:54:21 | 日記
2022-05-12

エネルギー安全保障とカーボンニュートラル目標の行方 - 21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争(三浦 瑠麗さんコラム - 第2回)

コラム 三浦 瑠麗 一聴一積 エネルギー カーボンニュートラル 安全保障 貧困 インド QUAD 脱ロシア 

  

ロシアによるウクライナ侵攻で、各国のエネルギー政策は大きな影響を受けています。

「脱炭素」より前に「脱ロシア」の掛け声がなされ、中長期的なカーボンニュートラル化の道のりとは別に、短中期的な課題を抱えることになったからです。

いずれも対露制裁に加わっているG7諸国のうち、一次エネルギーの海外依存度が高い国は日・独・伊の三か国です。

日本は相対的にロシア産のエネルギー依存度が低いですが、制裁によるエネルギー価格の高騰によってまずは影響を受けることになります。

原油価格の高騰は、コロナ禍とそこからの回復による影響ですでに問題となっていました。

そこへロシア・ウクライナ戦争と対露制裁が追い打ちをかけます。

エネルギー生産量の不足だけでなく、運輸にまつわるリスクも存在しており、スポット価格が上昇して中長期的な安定需給が見込めない状況に陥っています。

日本社会にも今後様々な影響が生じますが、まずは電力自由化の結果として立ち上がった新電力がこうした地政学リスクに弱いことが露呈し、経営基盤が揺らいでいます。

ロシア・ウクライナ戦争については、短期的に停戦合意が成立したとしても、即座に平和が訪れるとは、私はあまり考えていません。

占領都市からの撤退後に明らかになったロシア軍による処刑や数々の戦争犯罪は、2014年以来の独立勢力およびロシア側とウクライナ政府との敵対関係への報復感情が反映されたものであり、市民を広く巻き込んだものです。

ロシア政府は、アゾフ連隊のような反ロシア主義の民兵への「懲罰」戦争という建前を掲げていたはずが、占領地での軍の行動はウクライナ語話者を殺害するというような無差別殺戮に近い行動に出ているという現地からの報告があります。

ついこの間まで隣り合って暮らし、あるいは行き来していたはずの異なる民族間の憎悪は、すでに修復不可能なところにまできているのでしょう。

ですから、仮にロシア正規軍がウクライナ国境の外に退却したとしても、「内戦」は長期化する可能性があります。ウクライナ政府からすれば、対露協力者は「テロリスト」として理解されるからです。

そうすると、西側諸国もプーチン大統領が権力の座にとどまる限りはロシアとの関係を修復することは難しいでしょう。

当然、エネルギー問題も短期的な影響というより中期的な影響を軸に考えなければいけなくなります。

日本もエネルギー戦略の練り直しが必要ですが、ロシアとより直接的な敵対関係にあるNATO諸国は、対露エネルギー依存を長期間かけて根本的に見直すはずです。

例えば、脱原発・脱石炭を目指し、ロシアからのエネルギー輸入に頼ってきたドイツは、今般の戦争を受けてノルド・ストリーム2計画の承認手続きを停止、「脱ロシア」を目指す方向です。

しかし、エネルギー輸入の多角化には最低でも数年はかかります。

現在、ドイツの天然ガス輸入量の半分以上はロシア産が占めています。

ドイツは液化天然ガス(LNG)基地を保有しておらず、パイプラインによる天然ガス輸入に依存してきたため、産地変更が容易にできないのです。

この問題を解決するためにはインフラ投資が欠かせず、それには数年単位で時間がかかります。

すでに、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン・ワッデン海沿いの二つの港湾都市にそれぞれLNG輸入基地を建設する予定が発表されていますが、これが両方実現したとして、国内の天然ガス需要の2割を担うことができるようになる計算です。

欧州はロシア産の石炭禁輸などの追加制裁も発表し、日本も段階的削減を打ち出しましたから、ロシア以外の産地の石炭が買い漁られる結果を招き、石炭価格も急上昇しています。

石炭火力発電からの脱却を打ち出すのが遅れ、気候変動対策に後ろ向きな国として、日本が「化石賞」を二回連続受賞したことは記憶に新しいでしょう。

「黒いダイヤ」と呼ばれ、反気候変動対策のトランプ支持者を象徴するような石炭。

それを各国が買い漁って値が高騰しているのですから、奇妙な気分を禁じ得ない人も多いでしょう。脱炭素の前に「脱ロシア」ということだとすると、カーボンニュートラル化の流れはいったん止まってしまうことになるのでしょうか?

実は、資金の流れを見ればまったくそうではありません。

化石燃料の価格高騰は莫大な利益を関連企業にもたらしています。

日本でも2022年3月期決算において大手7商社の最終利益が過去最高であり、大手エネルギー会社の利益も過去最高であったと報じられているように、エネルギーにかかわる産業は多大な利潤を上げています。

企業防衛のため、化石燃料依存型ビジネスにおいて「荒稼ぎ」したお金がつぎ込まれる先は、再生可能エネルギー関連がかなりの比重を占めるでしょう。

世界的なグリーン企業には、古くから電力会社などとしてエネルギー産業に従事していた企業が、再エネ企業を買収して巨大化していったプレーヤーが少なくありません。

すでにグリーンには莫大なESG投資が流れ込んでいますが、それに加えて化石燃料関連企業の大幅増収がさらにグリーン投資を加速するという効果が生まれているわけです。

現に、昨秋日本において洋上風力発電事業を軒並み落札したのは三菱商事が主体となった企業連合ですし、石油小売り大手のENEOSは太陽光発電事業を展開する中堅ベンチャーを破格の2,000億で買収しました。

今後、グリーン関連技術やインフラには多くの資金が投入される見込みは変わらないどころか、制裁によって加速する効果さえあるのです。

他方、非産油国の発展途上国は大きな危機に晒されかねません。

エネルギー価格の高騰は、端的に貧困層や貧困地域を圧迫するからです。

また、エネルギー価格の高騰は新興国ではインド、タイ、トルコ、南アフリカ共和国などの輸入依存度の高い国の物価高をもたらす傾向にあります。

原料を輸入に頼った石油化学製品を多数輸出しているインドなどは、その方面での影響も受けることになります。

インドが安価なロシア産の原油輸入を継続するのみならず購入量をむしろ増大させているのには、政治的、軍事的な理由だけでなくこうした背景があるのです。制裁による燃料高は、インドにとってまさに経済や国民生活を直撃する問題だということです。

アメリカのバイデン大統領はインドのモディ首相に対し、ロシア産原油の購入を増やすことはインドの国益に叶わないぞと警告しています。

QUADの一角をなし、民主国家であるはずのインドがなぜ制裁にも協力せず、対露非難決議にも加わらないのか。

バイデン大統領の反応からはそのような苛立ちが見て取れます。

しかし、インドに圧力を加えても西側諸国の思い通りにはならないでしょう。

これまで、西側先進諸国は自らに都合のいい理屈を見つけて思い通りにしてきた。

自分たちの人権状況にも口を挟んでくる尊大な国だ。そうした思いを抱えている国は新興国には少なくありません。
魔法の杖はないのです。先進国であるドイツがロシア産の天然ガス依存から脱却するのにさえ何年もかかるというのに、新興国が国民を食わせていくにはそれをはるかに上回る困難があります。

制裁でエネルギー価格を高騰させるなら、ロシア産の原油を買うまで。インドの態度は究極のリアリズムに他なりません。制裁を主導するアメリカでさえ、足元では民間による新規シェールガス開発は長期的な投資回収が見込めないので進まないというのが現状です。主権国家を前提とする限り、政治が右向け右と言えば、経済はそれに従うほかありません。

しかし、個々のプレーヤーは危機管理の一環としてそれに対応するため、政治が好むようなやり方でついていくとは限らないのです。

皮肉なことながら、グリーンを掲げたバイデン政権が本音ではシェールガス生産を増やしたくとも、すぐさま思い通りにはならない。

制裁をめぐる軋轢は、単にモラルを説くことのみでは国家間協力が実現しないばかりか、国内アクターに対してさえ、政治の意思を通すことは困難だという事実を浮き彫りにしています。

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PROFILE

三浦 瑠麗(みうら るり)
国際政治学者、シンクタンク 株式会社山猫総合研究所 代表
1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院および同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。テレビをはじめ各メディアで活躍する一方で、多くの執筆や言論活動も行う。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)のほか、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか―』(新潮社)、『政治を選ぶ力』(橋下徹共著/文春新書)、『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)など著作多数。



エネルギー安全保障とカーボンニュートラル目標の行方 - 21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争(三浦 瑠麗さんコラム - 第2回)

2022-06-21 16:47:26 | 日記
2022-05-12

エネルギー安全保障とカーボンニュートラル目標の行方 - 21世紀の戦争と平和の視点から読み解くロシア・ウクライナ戦争(三浦 瑠麗さんコラム - 第2回)

コラム 三浦 瑠麗 一聴一積 エネルギー カーボンニュートラル 安全保障 貧困 インド QUAD 脱ロシア 

  

ロシアによるウクライナ侵攻で、各国のエネルギー政策は大きな影響を受けています。「脱炭素」より前に「脱ロシア」の掛け声がなされ、中長期的なカーボンニュートラル化の道のりとは別に、短中期的な課題を抱えることになったからです。いずれも対露制裁に加わっているG7諸国のうち、一次エネルギーの海外依存度が高い国は日・独・伊の三か国です。日本は相対的にロシア産のエネルギー依存度が低いですが、制裁によるエネルギー価格の高騰によってまずは影響を受けることになります。
原油価格の高騰は、コロナ禍とそこからの回復による影響ですでに問題となっていました。そこへロシア・ウクライナ戦争と対露制裁が追い打ちをかけます。エネルギー生産量の不足だけでなく、運輸にまつわるリスクも存在しており、スポット価格が上昇して中長期的な安定需給が見込めない状況に陥っています。日本社会にも今後様々な影響が生じますが、まずは電力自由化の結果として立ち上がった新電力がこうした地政学リスクに弱いことが露呈し、経営基盤が揺らいでいます。
ロシア・ウクライナ戦争については、短期的に停戦合意が成立したとしても、即座に平和が訪れるとは、私はあまり考えていません。占領都市からの撤退後に明らかになったロシア軍による処刑や数々の戦争犯罪は、2014年以来の独立勢力およびロシア側とウクライナ政府との敵対関係への報復感情が反映されたものであり、市民を広く巻き込んだものです。ロシア政府は、アゾフ連隊のような反ロシア主義の民兵への「懲罰」戦争という建前を掲げていたはずが、占領地での軍の行動はウクライナ語話者を殺害するというような無差別殺戮に近い行動に出ているという現地からの報告があります。ついこの間まで隣り合って暮らし、あるいは行き来していたはずの異なる民族間の憎悪は、すでに修復不可能なところにまできているのでしょう。ですから、仮にロシア正規軍がウクライナ国境の外に退却したとしても、「内戦」は長期化する可能性があります。ウクライナ政府からすれば、対露協力者は「テロリスト」として理解されるからです。そうすると、西側諸国もプーチン大統領が権力の座にとどまる限りはロシアとの関係を修復することは難しいでしょう。
当然、エネルギー問題も短期的な影響というより中期的な影響を軸に考えなければいけなくなります。日本もエネルギー戦略の練り直しが必要ですが、ロシアとより直接的な敵対関係にあるNATO諸国は、対露エネルギー依存を長期間かけて根本的に見直すはずです。
例えば、脱原発・脱石炭を目指し、ロシアからのエネルギー輸入に頼ってきたドイツは、今般の戦争を受けてノルド・ストリーム2計画の承認手続きを停止、「脱ロシア」を目指す方向です。しかし、エネルギー輸入の多角化には最低でも数年はかかります。現在、ドイツの天然ガス輸入量の半分以上はロシア産が占めています。ドイツは液化天然ガス(LNG)基地を保有しておらず、パイプラインによる天然ガス輸入に依存してきたため、産地変更が容易にできないのです。この問題を解決するためにはインフラ投資が欠かせず、それには数年単位で時間がかかります。すでに、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン・ワッデン海沿いの二つの港湾都市にそれぞれLNG輸入基地を建設する予定が発表されていますが、これが両方実現したとして、国内の天然ガス需要の2割を担うことができるようになる計算です。
欧州はロシア産の石炭禁輸などの追加制裁も発表し、日本も段階的削減を打ち出しましたから、ロシア以外の産地の石炭が買い漁られる結果を招き、石炭価格も急上昇しています。石炭火力発電からの脱却を打ち出すのが遅れ、気候変動対策に後ろ向きな国として、日本が「化石賞」を二回連続受賞したことは記憶に新しいでしょう。「黒いダイヤ」と呼ばれ、反気候変動対策のトランプ支持者を象徴するような石炭。それを各国が買い漁って値が高騰しているのですから、奇妙な気分を禁じ得ない人も多いでしょう。脱炭素の前に「脱ロシア」ということだとすると、カーボンニュートラル化の流れはいったん止まってしまうことになるのでしょうか?
実は、資金の流れを見ればまったくそうではありません。化石燃料の価格高騰は莫大な利益を関連企業にもたらしています。日本でも2022年3月期決算において大手7商社の最終利益が過去最高であり、大手エネルギー会社の利益も過去最高であったと報じられているように、エネルギーにかかわる産業は多大な利潤を上げています。企業防衛のため、化石燃料依存型ビジネスにおいて「荒稼ぎ」したお金がつぎ込まれる先は、再生可能エネルギー関連がかなりの比重を占めるでしょう。世界的なグリーン企業には、古くから電力会社などとしてエネルギー産業に従事していた企業が、再エネ企業を買収して巨大化していったプレーヤーが少なくありません。すでにグリーンには莫大なESG投資が流れ込んでいますが、それに加えて化石燃料関連企業の大幅増収がさらにグリーン投資を加速するという効果が生まれているわけです。現に、昨秋日本において洋上風力発電事業を軒並み落札したのは三菱商事が主体となった企業連合ですし、石油小売り大手のENEOSは太陽光発電事業を展開する中堅ベンチャーを破格の2,000億で買収しました。今後、グリーン関連技術やインフラには多くの資金が投入される見込みは変わらないどころか、制裁によって加速する効果さえあるのです。
他方、非産油国の発展途上国は大きな危機に晒されかねません。エネルギー価格の高騰は、端的に貧困層や貧困地域を圧迫するからです。また、エネルギー価格の高騰は新興国ではインド、タイ、トルコ、南アフリカ共和国などの輸入依存度の高い国の物価高をもたらす傾向にあります。原料を輸入に頼った石油化学製品を多数輸出しているインドなどは、その方面での影響も受けることになります。インドが安価なロシア産の原油輸入を継続するのみならず購入量をむしろ増大させているのには、政治的、軍事的な理由だけでなくこうした背景があるのです。制裁による燃料高は、インドにとってまさに経済や国民生活を直撃する問題だということです。
アメリカのバイデン大統領はインドのモディ首相に対し、ロシア産原油の購入を増やすことはインドの国益に叶わないぞと警告しています。QUADの一角をなし、民主国家であるはずのインドがなぜ制裁にも協力せず、対露非難決議にも加わらないのか。バイデン大統領の反応からはそのような苛立ちが見て取れます。しかし、インドに圧力を加えても西側諸国の思い通りにはならないでしょう。これまで、西側先進諸国は自らに都合のいい理屈を見つけて思い通りにしてきた。自分たちの人権状況にも口を挟んでくる尊大な国だ。そうした思いを抱えている国は新興国には少なくありません。
魔法の杖はないのです。先進国であるドイツがロシア産の天然ガス依存から脱却するのにさえ何年もかかるというのに、新興国が国民を食わせていくにはそれをはるかに上回る困難があります。制裁でエネルギー価格を高騰させるなら、ロシア産の原油を買うまで。インドの態度は究極のリアリズムに他なりません。制裁を主導するアメリカでさえ、足元では民間による新規シェールガス開発は長期的な投資回収が見込めないので進まないというのが現状です。主権国家を前提とする限り、政治が右向け右と言えば、経済はそれに従うほかありません。しかし、個々のプレーヤーは危機管理の一環としてそれに対応するため、政治が好むようなやり方でついていくとは限らないのです。皮肉なことながら、グリーンを掲げたバイデン政権が本音ではシェールガス生産を増やしたくとも、すぐさま思い通りにはならない。制裁をめぐる軋轢は、単にモラルを説くことのみでは国家間協力が実現しないばかりか、国内アクターに対してさえ、政治の意思を通すことは困難だという事実を浮き彫りにしています。

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PROFILE

三浦 瑠麗(みうら るり)
国際政治学者、シンクタンク 株式会社山猫総合研究所 代表
1980年神奈川県生まれ。内政が外交に及ぼす影響の研究など、国際政治理論と比較政治が専門。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院および同大学院法学政治学研究科を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て、2019年より現職。テレビをはじめ各メディアで活躍する一方で、多くの執筆や言論活動も行う。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)のほか、『21世紀の戦争と平和―徴兵制はなぜ再び必要とされているのか―』(新潮社)、『政治を選ぶ力』(橋下徹共著/文春新書)、『シビリアンの戦争 デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)など著作多数。