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ひとりでも、

2016-12-26 19:31:21 | お話
🌸ひとりでも、🍀


新刊書店に勤めていたとき、書店のPR誌の編集係になって、出版社の取材記事を書くことになりました。

取材したい出版社を自分で選ぶように言われ、

真っ先に思いついたのは岩田書院でした。

岩田書院は歴史・民族の専門出版社で、大学生向けのテキストや函(はこ)入りの論文集、史料集や雑誌なども出しています。

ある日、

「ここは岩田博さんが、ひとりでやっている出版社なんだよ」

と上司に教えられて、驚きました。

出版社を、ひとりでやる。

編集も印刷も、営業も配送も、集金も返品も自分で?

それでいて、新刊は年に50点前後も出されています。

いったい、どうやっているのか、全く想像がつきません。

いつかお話をかかってみたいと思っていました。

取材をお願いすると、快く引き受けてくださいました。

後で上司に報告したら、

「あんな忙しい人に時間をとらせるなんて」

と苦い顔されました。

社会人になって2年目の私には、ひとりで仕事をすることの厳しさが分かっていなかったようです。

夏の日の午後、デパートで買ったお菓子を持って事務所を訪ねました。

普通のマンションの1室で、外の廊下まで本や書類が積み上げられています。

岩田さんが、笑顔で迎えてくださいました。

ひとり出版社といっても何でもひとりでやっているわけではない、

というお話から伺ってきました。

文章の校正は別の人に頼むして、印刷・製本は専門の会社に出して、

出庫作業は倉庫会社に任せ、流通や精算は取次を使う。

自分はどこに何を依頼するかを振り分けているだけだと。

聞いてみると、当たり前のことです。

大きな出版社でも、いま挙げたような仕事は、岩田さんと同じように外注しているところがほとんどでしょう。

「でも、本の企画は基本的にご自分でされているわけですよね。

どうして、そんなにアイディアが浮かぶんですか?」

「企画は僕がひとりで考えるより、著者から持ち込まれたり、

誰かから紹介されたりしたものが多いです。

僕はもともと歴史・民俗系の出版社で働いていたので、

研究者の人たちとお付き合いがありましたし、

学会に本を販売しに行くこともありました。

そうして知り合った人たちに、今、岩田書院の目録や新刊案内を送っています。

そうすると、関心のある人は確実に注文くれますし、

自分が本を出そうと思った時も、岩田書院に声をかけてくれるわけです」


読者が著者になる、というのは専門書の世界ではよく起こります。

本というのは有名な人や偉い人や、昔の人や遠い国の人が書くものだと思っていた私には、

このこと自体が驚きでした。

岩田さんは研究者たちの間に入り込んで、

読者に本を売るだけでなく、読者を著者にする仕事をしているのです。

「売れる数は、学会の会員数から計算できるし、

たとえ定価が2万円でも、絶対に買う人が200人いれば出せる」

といった話はとても新鮮に聞こえました。

出す前から読者が決まっていて、その人たちのためにつくる本があるのだと。

「利益が薄くて他社では出せない本も、

岩田書院なら出せます。

大きな出版社なら社員に給料払わなきゃいけないから、

それに見合うだけの売り上げが必要ですが、

何しろ僕はひとりなので。

ひとりだからこそ採算が取れる仕事、出せる本があるんです」

会社が大きければどんな仕事でもできる、ぼんやり思いこんでいた私に、

「ひとりだからこそ」

という言葉は強い印象を残しました。

それから10年くらい経って、自分の本屋を始める時、当然のように「ひとり本屋」になりました。

ひとりならどうにでもなるだろう、というのが1番の理由です。

利益が少なくとも、赤字でも、困るのは自分だけ。

人を巻き込む勇気はありませんでした。

それだけでなく、岩田さんの

「ひとりだからこそ」

という言葉がずっと響いていました。

ひとりだからこそ、店が狭くてもできる。

利益のためでなく扱える本がある。

自分の責任で何でもできる。

ひとりだからこそ、外にいるたくさんの人たちに自分から関わっていける。

「ひとり」はネガティブなことではないと思えました。


ひとりでやっている出版社は、昔からいくつもあったそうです。

ここ数年は特に、ひとりで個性的な出版を手がける若い人が増えてきて、

「ひとり出版社」が注目されるようになりました。

それぞれ詩集や美術書、絵本などを、造本にも気を配って丁寧につくり、流通の方法も工夫しています。

そんな、ひとり出版社の本を、私の店にもいくつか並べさせてもらっています。

本が売れたら、こんな人が買ってくれました、
こんな感想を聞かせてくれましたと、

お客さんの様子をできるだけ出版社の人に伝えます。


大きな本屋で働いていると、1冊の本やひとりのお客さんに向き合うことはなかなかできません。

店で起こった全てを見られるのは、ひとり本屋ならではです。

たくさん売ることはできないかわりに、

つくっている人にお客さんの声を届けるのが私の役割だと、ひそかに思ってます。

メールで注文すると、本人から返事が来て、自ら梱包も発送もしてくれて、

伝票も手書きで。

ひとり対ひとりのやりとりです。

遠くに仲間がいるようで、特に励ましあわなくても、いつも励まされています。


(「本屋になりたい」宇田智子著より)


ひとりでも、顔晴っている人はたくさんいます。

あなたも、そうですよね。(^_^)