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商人の道

2017-01-08 10:07:41 | お話
🌸🌸商人の道🌸🌸


質問)

私は、いつも品物を売ったり買ったりすることを生業(なりわい)としていながら、

商人として正しい道の意味をよく理解できずにいる。

主にどの点に注意して商人として世渡りしていったらよいだろうか?


答え)

遠い昔、自分のところで余った物を、不足している物と物々交換することで

相互間に流通させたのが、商人の発祥(おこり)とのことだ。

商人は、銭勘定に精通することで日々の生計を立てているので、

一銭たりとも軽視するようなことを口にしてはならない。

そうした日々をコツコツと積み重ねて富を蓄えるのが、

商人としての正しい道である。

その場合、 "富の主人(あるじ)" は誰かというと、

世の中の人々である。

買う側と売る側という立場の違いはあっても、

主人も商人の自分も互いの心に違いはないのだから、

一銭を惜しむ自分の気持ちから推し量って、

売り物の商品は大切に考え、決して粗末に扱わずに売り渡すことだ。

そうすれば、買った人も、最初のうちは金が惜しいと思うようなことがあっても、

商品のよさが次第にわかってくると、金を惜しむ気持ちはいつの間にかなくなるはず。

金を惜しむ気持ちが消え、いい買い物をしたという思いへと自然に変わるのである。

しかも、天下の財を流通させることで、世の中の人々の心や生活を安定させることにもつながるので、

天地に季節が巡って万物が生育するのと相通じるものがあるといってよいのではないか。

そのようにして富が山のように築かれたとしても、その行為を欲得というべきではない。

青砥左衛門尉藤綱(あおとさえもんのじょうふじつな)(北条時頼に仕えた鎌倉時代の武士)が、欲得からではなく、

世の中のために一銭を惜しんで、川に落とした十銭を探させるために五十銭を費やした有名な故事の意味をよく吟味することだ。

そのようにすれば、国のお達しである倹約令に適い、

天命にも合致して好都合で幸せになれるだろう。

自分の幸福が万民の心を安心させることにつながるなら、

それこそ "世の宝" とでも呼ぶべきで、
天下泰平を祈願するのと同じ効果がある。

いわずもがなのことではあるが、

商人は、国の法をよく守り、わが身をよく慎まなければならない。

商人いえども、人としての道を知らずに金儲けをし、

しかも不義の金を儲けるようなことがあっては、

やがては、子孫が絶える結果を招きかねない。

心底から子々孫々を愛する気持ちがあるなら、

まず人としての正しい道を学んで家業が栄えるようにするべきであろう。


(石田梅岩「都鄙問答(とひもんどう)」より)