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バレエの世界④

2017-09-09 12:20:41 | お話
バレエの世界④


🔸吉田、入団から半年後、監督からある作品のソロの役を与えていただいたんですけれども、

ちょうどその時にアキレス腱を怪我してしまい、チャンスを棒に振ってしまったことがあります。

入団して最初の半年は仮契約で、いつクビになるか分からないという状態だったので、

早く怪我を治さなきゃと焦るあまり、無理をしてしまって調子がまた逆戻りする。

そういう悪循環に陥ってしまいました。

確かに怪我をすると焦りが出ますし、おくれを取ったりするんですけれども、

そういう時はジタバタせず、

しっかり時間をかけて体を治して強くすることが大切だと、

いま振り返って思います。

焦って稽古場に戻ってきたり、その場しのぎの治療しても、

すぐに再発して結局トータルで見ると、もっと時間がかかってしまいますからね。

これは怪我の話だけではなく、

自分にとってマイナスなことが降りかかってきた場合にも、同じことが言えるのではないでしょうか。


つらく苦しいこと、思い通りにいかないことが起こっても、

そこでやけになったりせず、

自分にできることをコツコツやっていくと、

いつしか道は開けてくるものだと思います。


🔸吉田、幸い、私の所属していたバレエ団は家族的な雰囲気で仲の良いところだったので、

監督も気長に待っていてくれました。

復帰してからはどんどん役をいただけるようになり、

入団2年目の時には、まだ1番下のランクだったにもかかわらず、

怪我で降板したプリンシパルの代役として、

「白鳥の湖」の主役を踊らせていただくことになったんです。

(大抜擢ですね)

🔸吉田、監督から指名された時には本当に驚きました。

もちろん振り付けは全然覚えていない状態で、

本番までの2週間、先生が付きっ切りで教えてくださいました。

いま考えると本当に運がよかったですね。


(監督は吉田さんの姿勢に何かを感じられたのでしょうね)

🔸吉田、やっぱり見てくださっていたんですね。

「白鳥の湖」の作品には32回転の見せ場があるんですよ。

私が英国ロイヤル・バレエスクールに留学していた頃、

あるお披露目会で、ちょうどその32回転をやったことがあるんですけれども、

できない子が多かった中、私はできていた。

それを監督が偶然見ていたこともあって、

「きっと都なら主役ができる」

と抜擢してくださったらしいんですね。

(ドラマチックなお話です)

🔸吉田、本番の舞台は、とにかく必死で2時間の全幕を踊り切り、

翌日は疲労で起き上がれなかった記憶があります。

監督からも「よくやった」と褒めていただけて、

すごく嬉しかったですね。

その後、ランクも
ファースト・アーティスト、
ソリスト、
ファースト・ソリスト
と毎年上げていただけるようになり、

1988年、22歳のときに、プリンシパルに昇格したんです。


(5年目にしてプリンシパルに昇格された)

🔸吉田、振り返ってみると、
「次はあの役をやってみたい」

「早くプリンシパルのランクがほしい」

ということは思わず、

その時々で、自分にできる精一杯を尽くしてやってきたことで、

いつの間にか、プリンシパルをいただくまでになったというのが実感です。

大きな目標を立てることも大切だと思うんですけれども、

それよりも、やっぱり、目の前にある自分がやるべきことを

一つひとつ積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか。


(つづく)

(「致知」10月号 バレリーナ吉田都さんより)
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