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食べられる布地

2017-09-23 14:56:24 | お話
💺食べられる布地💺


「内在的信用性」をもたらす三要素、細部、統計、シナトラ・テストをまとめて用いたのが、環境保護活動家のビル・マクドノーだ。

彼は、企業の環境改善と収支改善の両立を助けるアドバイザーとして知られている。

経営者の多くは、環境保護活動家から働きかけるといぶかしみ、警戒する。

たとえそれがマクドノーのように「企業に優しい」環境活動家でも同じだ。

マクドノーはシナトラ・テストに合格した物語を語ることで、

こうした懐疑心を払拭し、企業目標と環境目標の完全な一致が可能なことを証明してくれる。

(シナトラ・テストとは、フランク・シナトラの名曲「ニューヨーク・ニューヨーク」で、ニューヨークで生活を始めるときの心境を
「ここでうまくいけば、どこへ行ってもうまくいくさ」と歌った。

その言葉から、
シナトラ・テストに合格する事例とは、それだけで、その分野全体に通用する信頼性を確立できるもののことである)

それは、こんな物語だ。

1993年、マクドノーは化学者のマイケル・ブラウンガートとともにスイスの繊維会社から仕事を受けた。

ローナー・テクスティルという会社は、オフィス家具大手のスチールケース社の椅子に貼る布地を製造していた。

同社の企業使命は、

「毒性物質を使用しない製造工程を開発すること」。

繊維業界では不可能とされていることだった。

繊維業は有害化学物質をどこでも使っている。

染料の多くに毒素が含まれているからだ。

当社が椅子に使用した生地のはぎれは、安全性が疑われる化学物質を多く含んでいるため、

スイス政府によって危険廃棄物に分類されていた。

しかも、はぎれを国内で埋めたり焼却したりすることもできない。

政府規制に従えば、スペインのように規制のゆるい国に「輸出」するしか手がなかった。

(この話の鮮明で具体的な細部描写だ)

マクドノーはこう語る。

「余り布は危険廃棄物に認定されているのに、布地の真ん中は売ることができる。

そうなると、自分たちの売っているものが危険廃棄物だということは、天才でなくてもわかる」

家具の製造工程から毒性化学物質を排除し、

この問題を解決するには、

科学業界で意欲はある提携先を見つける必要があった。

製造ニーズに合った安全な化学物質を提供してくれるメーカーが必要だった。

そこで、彼とブラウンガードは、化学メーカーの経営者へのアプローチを開始し、こう話して回った。

「将来的には、全製品を小児医薬品ぐらいに安全なものにするのが願いです。

自分の赤ん坊がしゃぶっても、

健康になりこそすれ病気にはならないようにしたい」

2人は化学メーカー各社に、化学物質の製造工程を説明してほしいと頼んだ。

マクドノーはこう言った。

「『企業秘密だ、合法的にやっている』という言葉は聞きたくない。

われわれは、素性のわからないものを使うつもりはありません」

60社から断られたあげく、チバガイギーの会長が「やりましょう」と言ってくれた。

マクドノーとブラウンガートは、繊維業界で通常使用されている8,000種類の化学物質について調べた。

各部物質を一定の安全基準に照らして審査したところ、

7,962種類が不合格だった。

残ったのは38種類。

それは、マクドノーいわく

「食べても大丈夫」だった

(この「食べても大丈夫」も具体的な細部だ。

統計によって、数多くの有害物質に対して、好ましい化学物質は少数だったという関係性を確立している点にも注目してほしい)


彼らは、たった38種類の化学物質だけを使って、黒以外の全ての色を含む安全な製品ラインを実現した。

原料の繊維には、毛織物や植物繊維「ラミー」などの天然素材を選んだ。

製造工程を始める際、スイス政府の検査官が工場を訪れ、廃水に含まれる化学物質が法定の基準値以内かどうか検査した。

「検査官は最初、測定器の故障だと思ったようだ」

と、マクドノーは言う。

廃水から何の化学物質も検出されなかったからだ。

そこで、検査官は製造に使用している水を調べた。

こちらは飲用に適した水道水だが、測定器はちゃんと作動した。

「製造の過程で、繊維が水道水をさらに浄化したのだろう」


マクドノーの新製造プロセスは、安全だけでなくコストも減らした。

製造コストが20%も削減されたのだ。

理由は1つ、有害物質処理の手間とコストが減ったことだった。

作業員に防護服を着せる必要がなくなり、

はぎれはスペインに送って埋立処理する代わりに、フェルトにして農作物用の断熱材として国内農家に売られた。

優れた物語だ。

記憶に焼きつく要素が多い。

不可能な目標。

8000種類の化学物質のうち38種類を残して除外したこと。

国の検査官に測定器の故障と思わせるほどきれいな廃水。

危険廃棄物から農作物の断熱材に変わったはぎれ。

「食べても大丈夫」な布地というアイディア。

そして満足のいく成果
(作業員の安全向上と20%のコスト削減)。

マクドノーが環境にやさしいプロセスを提案する際に、この物語を持ち出せば、

どんな業界のどんな企業も、厚い信頼を寄せるだろう。

この物語はシナトラ・テスト難なくクリアしている。


(📖「アイデアのちから」チップ・ハース+ダン・ハース著、飯岡美紀訳📖より)