体に語りかける③
定年退職を機に、スポーツなどに執着して体をこわす人がいます。
とくに、その傾向が顕著に見られるのが男性です。
クリニックにも、リタイア後のスポーツにより体の不調を訴えてお越しになる方々も多いのです。
彼らに共通することは "ストレス" などないと思っていることです。
私が「何か気になることはないですか?
悩んでいる事はないですか?」
とたずねると、
「ストレスなんて、今は何もないですよ。
昔は仕事でストレスだらけでしたけどね。
今は毎日が日曜日ですよ」
と明るくおっしゃいます。
しかし、本当は何もないことが1番のストレスなのかもしれません。
無意識のうちに他人の目を気にして
「定年後も運動を続けて、元気で若々しいと思われたい」
年寄りはお荷物だと思われたくない」
などという気持ちから、運動などにがんばりすぎてしまうこともあるようです。
あるとき、70歳を過ぎたばかりの男性が、左股関節に痛みがあるといってやってきました。
階段を上り下りすると痛みが出るというのです。
話を聞くと、この男性は定年後、エイジシュート(自分の年齢よりも低いスコアを出すこと)を目的に、
毎日のようにゴルフ練習場に通いつめていました。
しかし、運動のしすぎか左股関節の痛みが出はじめ、
鍼灸治療で痛みを抑えながら調子がよくなると、またゴルフ練習に取り組んでいたのです。
披露骨折もしくは関節唇の損傷の疑いもあったのでMRIを撮ってみたところ、
左股関節の前方にある滑液(かつえき)を含む袋に炎症が起きていることがわかりました。
この症状は無理な力が加わるときに炎症が起こるものですが、医学的には悪いものではありません。
穿刺(せんし)で水を抜くこともできますが、
特に耐えられないほどの痛みでなければ、
とりあえず安静をとるという意味で、少しゴルフを休んではどうでしょうか、と提案しました。
私はひと通り医学的なことを話ししたあと、この男性にたずねました。
「ところで、どうして、そんなにいいスコアを出そうとがんばるのですか?
ご自分でもゴルフのしすぎで痛みが出ていることはわかっていますよね。
でも私は、この症状を引き起こしたのはゴルフではないと思っていますよ」
すると、男性は小さくうなずきながら、仕事をやめたいいま、自分にとっての生きがいはゴルフしかないこと、
痛みが出るのはわかっていても、ゴルフをしないといられないい言うことを話してくれました。
男性にとって、エイジシュートを出すという目的がなくなったら、
自分はどうやって生きていけばいいのか、生きる指針を失ってしまう気がして怖かったのでしょう。
だからこそ、切羽詰まって練習をしていたのです。
このように、とくに、ビジネスマンとして一線でバリバリと仕事をしてきた男性は、
いい数字を出して結果を残すことにこだわりたくなってしまう人がとても多いです。
ゴルフでもなんでも、本当は体を動かすことや、人とコミニケーションをとることに喜びを感じながら、楽しく行えばいいのですが、
それでは物足りなさを感じてしまい、
仕事をしていたときはストレスに感じていた数字を追いかけるということを、定年後も違う世界で繰り返してしまうのです。
私は男性にそのことを伝えると、
「いや〜、本当だ。先生のいうとおりですよ。
これからは、自分のコンディションを一番に、楽しみながらゴルフをするようにしますよ。
好きなゴルフで体をこわしたら本末転倒ですもんね」
といわれ、その日は帰られました。
翌日もリハビリのために来院されたので、
「痛みはどうですか?」とたずねると、
「」まだちょっと痛いけど、昨日ほど気にならないです。
だいぶよくなっているように思います」
と笑顔で答えてくれました。
私たちは、他人から評価されることが当たり前だった世界から、
急に自分主体で生きる世界に放り出されても、うまく対応できません。
たとえストレスになろうと、今までの慣れたやり方を踏襲してしまうものです。
しかし、
「それはホントの自分が望んでいるものではないよ」
と伝えるために、体に痛みが出ているのです。
ダメな自分、できない自分も含め、ありのままの自分を受け入れて、
「これでいいんだ」と自分にね自分でOKを出せるような生き方を心がけていきましょう。
他人にどう思われようと、自分らしく生きる。
そう思えたとき、真の健康を手に入れることができるのだと思うのです。
(「体に語りかけると病気は治る」 長田夏哉さんより)
定年退職を機に、スポーツなどに執着して体をこわす人がいます。
とくに、その傾向が顕著に見られるのが男性です。
クリニックにも、リタイア後のスポーツにより体の不調を訴えてお越しになる方々も多いのです。
彼らに共通することは "ストレス" などないと思っていることです。
私が「何か気になることはないですか?
悩んでいる事はないですか?」
とたずねると、
「ストレスなんて、今は何もないですよ。
昔は仕事でストレスだらけでしたけどね。
今は毎日が日曜日ですよ」
と明るくおっしゃいます。
しかし、本当は何もないことが1番のストレスなのかもしれません。
無意識のうちに他人の目を気にして
「定年後も運動を続けて、元気で若々しいと思われたい」
年寄りはお荷物だと思われたくない」
などという気持ちから、運動などにがんばりすぎてしまうこともあるようです。
あるとき、70歳を過ぎたばかりの男性が、左股関節に痛みがあるといってやってきました。
階段を上り下りすると痛みが出るというのです。
話を聞くと、この男性は定年後、エイジシュート(自分の年齢よりも低いスコアを出すこと)を目的に、
毎日のようにゴルフ練習場に通いつめていました。
しかし、運動のしすぎか左股関節の痛みが出はじめ、
鍼灸治療で痛みを抑えながら調子がよくなると、またゴルフ練習に取り組んでいたのです。
披露骨折もしくは関節唇の損傷の疑いもあったのでMRIを撮ってみたところ、
左股関節の前方にある滑液(かつえき)を含む袋に炎症が起きていることがわかりました。
この症状は無理な力が加わるときに炎症が起こるものですが、医学的には悪いものではありません。
穿刺(せんし)で水を抜くこともできますが、
特に耐えられないほどの痛みでなければ、
とりあえず安静をとるという意味で、少しゴルフを休んではどうでしょうか、と提案しました。
私はひと通り医学的なことを話ししたあと、この男性にたずねました。
「ところで、どうして、そんなにいいスコアを出そうとがんばるのですか?
ご自分でもゴルフのしすぎで痛みが出ていることはわかっていますよね。
でも私は、この症状を引き起こしたのはゴルフではないと思っていますよ」
すると、男性は小さくうなずきながら、仕事をやめたいいま、自分にとっての生きがいはゴルフしかないこと、
痛みが出るのはわかっていても、ゴルフをしないといられないい言うことを話してくれました。
男性にとって、エイジシュートを出すという目的がなくなったら、
自分はどうやって生きていけばいいのか、生きる指針を失ってしまう気がして怖かったのでしょう。
だからこそ、切羽詰まって練習をしていたのです。
このように、とくに、ビジネスマンとして一線でバリバリと仕事をしてきた男性は、
いい数字を出して結果を残すことにこだわりたくなってしまう人がとても多いです。
ゴルフでもなんでも、本当は体を動かすことや、人とコミニケーションをとることに喜びを感じながら、楽しく行えばいいのですが、
それでは物足りなさを感じてしまい、
仕事をしていたときはストレスに感じていた数字を追いかけるということを、定年後も違う世界で繰り返してしまうのです。
私は男性にそのことを伝えると、
「いや〜、本当だ。先生のいうとおりですよ。
これからは、自分のコンディションを一番に、楽しみながらゴルフをするようにしますよ。
好きなゴルフで体をこわしたら本末転倒ですもんね」
といわれ、その日は帰られました。
翌日もリハビリのために来院されたので、
「痛みはどうですか?」とたずねると、
「」まだちょっと痛いけど、昨日ほど気にならないです。
だいぶよくなっているように思います」
と笑顔で答えてくれました。
私たちは、他人から評価されることが当たり前だった世界から、
急に自分主体で生きる世界に放り出されても、うまく対応できません。
たとえストレスになろうと、今までの慣れたやり方を踏襲してしまうものです。
しかし、
「それはホントの自分が望んでいるものではないよ」
と伝えるために、体に痛みが出ているのです。
ダメな自分、できない自分も含め、ありのままの自分を受け入れて、
「これでいいんだ」と自分にね自分でOKを出せるような生き方を心がけていきましょう。
他人にどう思われようと、自分らしく生きる。
そう思えたとき、真の健康を手に入れることができるのだと思うのです。
(「体に語りかけると病気は治る」 長田夏哉さんより)