自分たちが嘱託医業務を行っている特養でもだいぶ看取りを行っていて、最近は疼痛があるがん患者さんの看取りもできるようになってきています。しかし、疼痛コントロールを上手にしながら施設で看取るためにはまだ課題も多いかなと感じています。また、それとは別で、在宅でみているがん患者さんにおいて、オピオイドを使っているとショートステイ先を探すのが困難であることもあり、地域の施設をがん患者さんが利用することのむずかしさやバリアーを感じることも多くあります。ということで、今回は上記のようなテーマについて調べてみました。
- 施設入所者においてがん患者は多い?
★USのnursing home(NH) residentsの9%ががんの診断をうけている
(Johnson VMら,J Palliat Med 2005)
★日本では特養2.1%、老健2.5%
(医療施設・介護施設の利用者に対する横断調査 H23年)
★今後、高齢者のがん患者が増えることが予測されており、がん患者のケアにおいてNHの役割が大きくなると言われている。
- 施設入所のがん患者において、疼痛コントロールやオピオイド使用は適切に行われているのか?
★Todd BMらの報告(Geriatr Gerontol Int 2013)
がんで死亡した55名のNH入所者を後ろ向きにカルテ調査
ホスピス登録された患者は有意にオピオイド投与をより受けており(認知機能で調整) 、苦痛も有意に少なかった。重度の認知機能低下がある患者は有意にオピオイド投与が少なかった(ホスピス登録で調整)。⇒重度の認知機能低下がある場合には苦痛がとられていないのではないかと結論。
★Camilla Bらの報告(J Am Geriatr Soc 2015)
8094名のNHに新たに入所したがん患者を対象とした横断研究
65%以上が疼痛あり(28.3%が毎日痛みあり)、そのうち13.5%が重度,61.3%が中等度の疼痛。
疼痛ある患者の3割が医療用麻薬の投与なし(毎日痛みある患者の17%・重度疼痛患者の11.7%・中等度疼痛患者の16.9%に投与なし)。
痛みがあるが医療用麻薬投与をうけていない患者は、「85歳超え」・「認知機能障害あり」・「経管栄養あり」・「抑制あり」でより多かった。(調整あり)
⇒多くのNH入所のがん患者が痛みの治療がなされていないと結論。
- 日本の現状はどうなのか?
施設のがん患者の疼痛コントロールやオピオイド使用を検討した研究は見当たらず
★森本らの報告(Palliative Care Research 2015)
神戸市内の高齢者福祉施設(特養・老健・グループホーム・有料老人ホームなど)350施設を対象とした看取りと終末期ケアに関するアンケート調査(314施設が回答)。
看取りを実施している施設は39%、点滴可能施設は58%あったが、医療用麻薬を使える施設は23%であった。⇒医療用麻薬を使える施設は少ない。
★医療用麻薬適正使用ガイダンス(厚労省 H24年)
介護施設での医療用麻薬管理:自宅と同様の管理でよい、金庫管理でなくてもよい、すみやかにレスキュー使用できる体制を。
海外も含めて、まだまだ施設入所のがん患者に対する適切な疼痛コントロールやオピオイド使用がなされていない現状があるようです。今後、独居や老々介護が増えるなか、施設でのがん患者へのサポート(一時的なショートによる介護負担軽減や施設でがん患者を看取ること)は重要なテーマとなるのではないかと考えています。地域に何かしらのアプローチができないか・・・模索していければと思っています。
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